第四十七話
第47話です。
大漁のマジックトラウトがいれられた籠を背負い、依頼人のいる市場へと向かった僕達。
道行く人の視線を集めながら、木箱にいれられた魚が並ぶ露店へと近づいていくと、依頼をしてくれた店主の男性が驚きの表情で僕達を迎えてくれた。
「おおお!? 随分と大漁じゃないか! すごいな、どうやってこんなにとったんだ!?」
「ははは……。とりあえず、数の方は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫どころかそれ以上だ! これなら先方の要望に応えられる!! 本当にありがとな!!」
お礼を言われちょっと照れくさくなりながら、籠を下ろす。
店主さんは手早く、氷などでマジックトラウトを冷やしていきながら、僕達に依頼成功の報酬を渡してくれる。
「いやはや、新人の冒険者さんと聞いて少し心配だったが、安心したよ」
「偶然、僕の魔法が役に立っただけですけどね」
「それでもマジックトラウトが、一度でこんなに取れることは稀なんだ。良かったら、今後もお前達を頼ってもいいか?」
ということは、依頼の際は僕達を指名してくれるということか。
なんというか……他の人からの信頼を得たって感じがして、嬉しくなってくるな。
快く頷いた僕とリーファに、店主さんは快活に笑うと、ふと何かを思いついたように氷の詰められた木箱を取り出し、マジックトラウトとは違う魚を詰めだした。
「ほれ、持っていきな」
振り返った店主さんは、木箱にめいいっぱいにいれられた魚を差し出してきた。
リーファとシフの目が輝いたような気がしたが、さすがにもらうわけにはいかない。
「え、いや、悪いですよ。依頼料もいただいていますし」
「いい仕事には相応の報酬をってな。数日がかりの依頼を一日でこなしてくれたんだ」
「ですが……」
「それに、あんたらとは長い付き合いになりそうだからな。もらっとけ!」
そう言って半ば押し付けられるように渡されてしまった。
なんというか、こういう地域の人々との交流も冒険者の醍醐味なんだって思わされる。
ついでに、マジックトラウトも同じ箱に入れてもらうようにお願いした後、僕達は宿へと帰る道を歩いていく。
「お魚、もらっちゃったね」
「沢山あるから、皆で分けよう」
それでも余りあるほどにたくさんもらってしまったけど。
上機嫌なリーファに、僕は苦笑する。
「冒険者。なってよかった」
「ん?」
「最初は信じられる仲間を見つけるためだけに入ろうと思ったけど、今はこの日常が楽しいの」
「……僕も同じ気持ちだよ」
正直、不安ばかり感じていたけど、ここで必死に生活していくうちに次第にそれも楽しさへと変わっていった。
決して一人ではここまでこれなかった。
シフに、ライムに、色々な人に助けられてここまでくることができた。
「だから、ありがとね。カイト」
「リーファ……」
「ずっと姉さんを止めることしか考えてなかったから、今こうしていられるのはカイトのおかげ」
そう言って、微笑んだ彼女に僕は呆気に取られた後に、笑みを零す。
「そこまで恩を感じる必要はないけどなぁ」
「うん、それもそうだね」
「おい、やっぱもっと恩を感じとけ」
「いひゃい、いひゃい~」
即座に掌返しをするリーファの両頬を摘まむ。
コンビを組んでから一カ月半―――僕達は順調に冒険者として充実した生活を送っていた。
●
マジックトラウトや他の魚を持ち帰った時は、珍しくメルクさんの驚いた顔を見ることができた。
いつもしかめっ面で世話を焼いてくれる彼女に、サプライズ的なことをできたことに、少しだけ嬉しくなった。
ライラに至っては腰を抜かすほどに驚いてくれたので、僕としては大満足だ。
その後、それぞれの部屋で身体を洗い着替えを済ませた僕達は、食堂へと移動していた。
「ほらよ」
ぶっきらぼうな声で運ばれたのは調理されたマジックトラウトと、塩焼きにされた白身魚。
脂ののった身と、丁寧な味付けに舌鼓をうつ。
「魚料理が特別好きってわけじゃなかったけど、今日好きになったな……」
トラウトは……サーモン? いや、マスか? そこらへんは僕にも分からないけど、とにかくこれがまた美味しい。
綺麗におろされた身には、少しばかりの香辛料と柑橘系の果汁、それにバターのようななめらかな風味の香る油が使われており、口に入れた瞬間にいっぱいに美味さが広がっていく。
「うぅ、依頼のクソマズイ携帯食料からのコレは泣ける。カイト君、リーファちゃん、ありがとうだよぉ……!」
「なにも泣くほど喜ばなくても……」
僕の前に座っているライラは依頼帰りとあってガチ泣きしていた。
なにやら、張り込みのようなことをして魔物をおびき出す依頼を受けていたらしく、火も焚くことができず数日を携帯食料で済ませていたらしい。
「キュ……」
「駄目だ。駄目だぞ。ライム、これは私のだ」
「……キュウ」
「ぅ、ちょ、ちょっとだけだぞ。ちょっとだけだからな……」
そして足元では、ジッと見つめるライムに魚を分け与えるシフの姿。
その様子に苦笑しながら、僕の手元のお皿の魚の切り身を彼のお皿へと移してあげる。
ライムは食事は必要ないらしいけど、今度からはこの子の分も用意するべきかな? ハクロは……僕の中にいるから、食事はあまり関係ないか。
なんとなく、そんな気がするし。
「カイトについていったら、お魚食べ放題……!?」
「おい、隣の食いしん坊。なに不穏なこと呟いている」
「不穏じゃない。失礼」
「なんで僕の方が責められるの?」
え? 今、猫が人間についていくぐらいの理由が、この子の口から飛び出してきたんだけど。
もぐもぐと魚を食べながら、そんなことを呟いていたリーファに肩を落とす。
メルクさんは……厨房でこちらに背を向けて、手に持った皿に乗せられた料理を食べている。
「皆、喜んでくれてよかったな」
魚が多く取れてしまったのが、予期しない事態だったけど、結果的に見ればいい方向に繋がってくれた。
そんなことを思いながら時間が過ぎていくと、話は今日、湖で遭遇した青色のドラゴンについて移っていった。
「あの湖ってドラゴンっていたの? 本当なの、カイト君」
「うむ、私もしかとこの目で見たぞ。青く、胴の長いドラゴンであった」
ドラゴンのことを聞いて、ライラが驚きの表情を浮かべる。
あの湖にはドラゴンなんていなかったのか? それじゃあ、あれはなんなのだろうか。
「おかしいなぁ。ドラゴンといったらギルドが真っ先に危険度認定する種なんだけど……。私もあんなところにドラゴンがいるだなんて知らないし……」
「紛れ込んだのではないか?」
「うーん……人の沢山いる街の近くだから、間違いなくくまなく調査が入っているはずなんだけどなぁ……」
頭を捻るライラ。
調査が入っているということは、本来はあのドラゴンは湖にはいないのか?
なら、どこから―――、
「そいつは、フィーリヘルトだろうな」
そう口にしたメルクさんに僕達の視線が集まる。
彼女は厨房のカウンターによりかかりながら、肘をつく。
「水から水へ渡り泳ぐ龍、魔物かどうかも怪しい存在だ。地域によっては天災の前触れ、幸運を呼ぶ龍と呼ばれている。特徴からして、お前の会ったっつードラゴンと一致する」
「珍しいドラゴンなんですか?」
「珍しいも何も、人間が触れた前例すらもねぇ、伝説の存在だぞ?」
「え?」
それじゃあ、僕知らず知らずのうちにそんな伝説の存在に頬ずりされていたことに……?
「私は何度か見たことがあるが、まあ、ただの人間が近づいちゃならねぇ存在だろうな。しかも、水気さえあれば、どこにでも移動できっから捕まえることも不可能だ」
「なるほど……では、私が魔物の気配を感じ取れなかったのは、あやつが魔物そのものではなかったからか。……だとしたら、それ以上の存在と考えるのが自然か」
シフが何かを呟いているけど、今になってドキドキしてる。
あまりにも気軽な感じで、伝説的な存在と遭遇してびっくりしてる。
「まっ、よかったじゃないか。フィーリヘルトは善意を持つ人間に対しては友好的な存在だからな」
「そうです……か?」
「だが、それを面倒な連中に知られないほうがいいぞ。最悪、餌として利用されるからな」
「は、はい……」
確かにそういう風に利用されてもおかしくはない。
メルクさんの忠告を素直に聞きながら、ふと彼女がどうしてそこまで博識なのかが気になった。
未だに僕は、メルクさんが料理がおいしくて、態度とは裏腹に優しい人だっていう認識でしかない。
本当に、この人は何者なんだろうか?
【???】フィーリヘルト
・水のある場所ならあらゆる場所に瞬間移動できる。
・危害を加えられない限り、自分から襲い掛かることはない。
・好奇心旺盛。
・大きさを自由に変えられる。




