第三十七話
第三十七話です。
リーファとニーア。
瓜二つな容姿と、黒と白の対照的な髪色。
明らかな敵意を向けるリーファに対して、ニーアは彼女を歓迎するような親しみのある笑みを浮かべていた。
彼女がこの場に来てくれたことに、安心しているとリーファの肩から僕の顔に目掛け銀色の何かが飛びついてきた。
「わぶ!?」
「きゅー!」
「ラ、ライムか……ごめん、お前を手放しちゃって。いきなりだけど、一緒に戦ってくれるかな?」
「きゅ!」
ふるふると震えたライムはこくりと頷くと、その銀色の身体に剣の柄を作り出す。
僕がそれを勢いよく引き抜くと、魔力が吸われていく感覚と共にライムの身体が剣へと変わる。
「やっぱり君と一緒に戦うのが一番しっくりくるな。リーファ、リックさんは?」
「……魔物達に足止めをくらってる。リックさんは、私を先にここに寄越した」
ニーアがここに一人だけいた理由は、それか。
なら、最初から目的はリーファと僕にちょっかいをかけることだったのか。
「君のお姉さん、すごく面倒くさい人だ」
「うん、知ってる」
「あとバカ力だ」
「うん、知ってる。だってゴリラだもん」
ライムが変形した剣を肩に担ぎながら、リーファの隣に並び立つ。
そんな僕達の姿を見たニーアは、不敵な笑みを浮かべる。
「感動の再会だね。リーファ、ちゃんとご飯食べてる? 部屋の掃除はしてる?」
「ちゃんと食べてるし、掃除もしてる。お姉ちゃんとは違う」
「いや、掃除はしてないぞ」
小さく頭の上で呟くシフ。
じろり、とシフを睨んだリーファは再びニーアへと視線を向ける。
「どうして、こんなことをしたの?」
「妹にちょっかいかけようと思ってね。なんてったって勇者に選ばれたからね。妹想いの姉なら当然会いにいくよ」
おちゃらけた風に言うニーアに、リーファの纏う雰囲気がさらに刺々しいものになる。
それに構わず、ニーアはリーファを見て大きなため息をつく。
「でもさー、最愛の妹がどれだけ成長したのか見にきたら……駄目駄目だよ、リーファ。貴女はまだ自分の魔物としての力を拒んでる。そのままじゃ、いつまでたっても成長なんてしないよ?」
「……っ」
「貴女は小さい頃から、怖がりだった。そんなに自分の心を失うのが怖い? 隣にいる彼を傷つけたくない? 避けられたくない?」
「うるさい……!」
咄嗟に魔力を纏わせた手をリーファの肩に置く。
純魔の魔力が、激昂しかけた彼女の精神を鎮める。
「そうやって、純魔の魔力に頼っても限界はくる。いずれ貴女は、魔物としての本能に乗っ取られて、彼を食らうことになるよ?」
「そんなことには、絶対にさせない」
「……ふぅん」
そうはっきりと口にする彼女に、ニーアはやや驚いたような反応をする。
「姉さんはなんで魔王軍にいるの?」
「私のような力を持つ人間の居場所はそこしかないから。あと力を思う存分に振るえる……から?」
「……そんな理由で?」
「だって、私と貴女の力は普通のものじゃないんだよ? なら、使わなきゃ損じゃない?」
それからリーファは無言になる。
隣にいるだけで分かる、これは怒っている。
「リーファ」
「大丈夫だよ、カイト。私はもう怒りには支配されない」
ゆっくりと深呼吸をした彼女はベルトからナイフを引き抜き、その切っ先をニーアへと向けた。
「姉さん、貴女を止める」
「……へぇ」
「もう貴女に好き勝手はさせない……!」
喜び、驚きともとれる表情のニーア。
そんな彼女を睨んだリーファは、隣にいる僕へと声をかけてくる。
「カイト、シフ、疲れているのは分かるけど……一緒に戦ってもらってもいいかな?」
「もちろんだ。僕もまだ彼女に借りを返せてないしな」
「……ありがとう」
相手は格上。
一人ではまず太刀打ちはできないだろうが、僕達なら戦える。
なにせ今日この日まで、一緒に冒険者として戦ってきたんだ。
たかが一か月、されど一か月だ。互いの戦い方を理解しているからこそ、連携もできる。
「それなら、私もちょっだけ本気で行こうかな?」
そう呟いたニーアは、地面から双剣を引き抜き先ほどよりも強力な冷気を纏わせる。
この距離にいても感じるほどの冷たさ―――あんなものに斬られたら、すぐその場で凍えさせられてしまう。
「行くぞ……!」
「うん……!」
まず最初に仕掛けたのはリーファ。
ニーアを中心にして回り込むように駆けだした彼女は、ベルトから引き抜いたナイフを投擲する。
「リーファって昔から、ナイフを投げるのだけはうまかったよね?」
容易くナイフを剣で叩き落とすニーアだが、僕から意識が逸れた隙を狙い、右手の剣の刃に左手を添え、風の精霊の力を発動させる。
「纏え! ハクロ!」
『ウォォン!』
ライムが変形したミスリルの剣に、ハクロの風の力が宿る。
それを強く握りしめ、ニーアへ斬りかかる。
「フンッ!」
「ははっ、そういうこともできるんだね!」
風を纏わせた剣はクロスさせた双剣により容易く受け止められる。
双剣が発する冷気と、剣に纏われたハクロの風がぶつかり合い、突風が吹く。
風と冷気をまき散らしながら三度の剣戟を交わし、一瞬の隙を狙い剣からハクロを解き放つ。
『ウォォォン!』
「その状態からでも、攻撃できるわけね……!」
風を纏ったハクロの体当たりを受け、無理やり彼女を退かせたところで、僕は剣を大きく引き絞る。
「いくぞ、シフ! ライム!」
「おうとも!」
「きゅー!」
ニーアは僕の剣のリーチの外にいるが、構わず突きを繰り出す。
それと同時にライムが変形———長大なリーチを誇る長槍へと変形し、さらにその矛先にシフが電撃を付与する。
名付けるなら、スライム闘法———、
「スピアライトニングッ!」
完全な不意をついた一撃に面を食らったニーアは、そのまま電撃を纏った槍を双剣で受け止める。
ガキィンッ! と甲高い音と共に後ろへ下がった彼女は、両手を震わせながら喜色の声を上げる。
「おおお!? ビリビリするぅー!」
大して効果がない!? どんな耐久力してんだこの人……!
しかし、戦っているのは僕一人だけじゃない。
僕に気を取られているニーアの背後からリーファが逆手に持ったナイフで襲い掛かる。
「おっと、そう簡単に当たってあげないよ」
「チッ……!」
後ろへと振り向いた彼女はリーファが振り下ろされるナイフを避ける。
完璧なタイミングだったけど、さすがに決まってくれないか……!
でも、挟み込んだ! このまま攻撃を仕掛けていく!! リーファに目配せしながら、剣を振るっていく。けたたましい金属音が連続して響き渡るが、ニーアは僕達の攻撃を完全に捌き切っている。
「影沼!」
「その技は見てたよ!」
リーファが自身の影を伸ばしたのを見て、ニーアがすぐさまその場を飛び上がる。
着地の瞬間を狙い、ライムの体を変形させ―――オロチとして放つ。
「捕えろ、オロチ!!」
「生物にもなれるんだっ。君はまるでびっくり箱みたいな人だっ」
襲い掛かってくる三つの頭を簡単にはじき返してしまうニーア。
生半可な攻撃じゃ対応されてしまう。
まずは彼女の隙を見つけて叩くしかない。
「ハクロ! 攪乱してくれ!!」
纏っていたハクロを解放し、ニーアへと襲い掛からせる。
しかし、彼女は剣を振るうだけで、ハクロの身体を消し去ってしまう。
それに伴い、僕の中の魔力が減少する。
「ハクロ!?」
「応用は利くけど、体そのものは脆いみたいだね!」
「カイト! これ以上の魔力の消費は危険だぞ!!」
まだハクロの存在は僕の中に感じる。
でも、彼の力を使うごとに一定の魔力を消費してしまうということか……!
「熱くなってきたね! ちょっと冷まそうか!!」
その場で後ろへ飛び下がり、両腕をクロスするように構えるニーア。
周囲の冷気が彼女の持つ剣に集まり、白い輝きを放つ。
あれは……まずい!?
「リーファ! 僕の後ろに!!」
「うん!」
ライムを棍棒へと変化させ、シフの火炎付与により燃え上がらせる。
両手で握りしめた棍棒を構えると同時に、ニーアが跳躍と共に双剣を振るう。
「強制形状変化! 霞鳥・波状!!」
なんだそのかっこいい技名!!
瞬間、双剣から放たれた魔力は強烈な冷気へと変わり、周囲を凍てつかせながらこちらへ迫ってくる。
考えられないほどの規模の魔法。
それを前にした僕は、頬を引き攣らせながら迎え撃つ覚悟を決めるのであった。
使い魔・ハクロは風として武器に纏わせたり、そのまま襲い掛からせたりすることができます。
攻撃力はありますが、耐久力はほとんどないです。




