第二百九十四話
本当にお待たせしてしまい申し訳ありません。
第二百九十四話です。
イリスさんがベルセさんと無事和解することができた。
元から喧嘩をしているわけではなかったけれども、これまで離れ離れになっていた親子が仲直りしたのはとてもいいことだ。
でもベルセさんと和解したとしても、イリスさんの立場は変わらないようで彼女はこれからも僕たちの仲間として助けてくれるらしい。
……未だにあの空を飛ぶ船で何をするかは教えてもらっていないけれど。
「オロチ、元気にしてるかなぁ」
「カイトよ、一応あやつは私とおぬしを殺しかけた魔獣なんだが」
イリスさんとベルセさんが仲直りをした翌日。
僕とリーファはオロチの様子を見に、彼の住んでいる遺跡にまで足を運んでいた。
「ねえ、カイト」
「うん?」
「なんか宿を出る前にメリアと話してたけど、あれはなんだったの?」
「ああ、あれね」
リーファの問いかけに苦笑する。
「メリアが来るとオロチが委縮しちゃうから来ない方がいいって言ったんだよ」
「ふーん、でもユランを通して見てるよね?」
「シャァ……」
じろりとリーファがユランを見ると、申し訳なさそうにうなだれる。
まあ、こればかりはしょうがない。
「心配症なんだよ。てか、リーファも分かるんだね」
「んー、なんかメリアと全開状態の合体で戦った後から、感覚とか鋭くなってるんだよね。こう……潜在能力が解放されたって感じ」
一時とはいえメリアを圧倒するほどの力だしな。
何かしらはあると思ったけれど……。
「なにか身体に異変を感じたら僕に言うんだぞ?」
「……実はさっきからお腹が空いて仕方がなくて」
単にお腹が空いてるだけじゃん。
一つため息をついた僕は肩にかけているカバンから包装されたチョコバーを取り出しリーファに差し出す。
「まったく、しょうがないな。ほら、お菓子だ」
「わーい」
「カイト、おぬしは少しリーファに厳しくしたらどうだ……?」
……?
「いつも厳しくしてるじゃないか」
「それで……!?」
信じられないものを見るような目で見られながらも、オロチのいる遺跡へと到着する。
すると僕の接近に気づいたのか、すぐに崩落した遺跡の穴からオロチが顔を出してくる。
「ジャァ」
「ギシャァ」
「シャ」
「久しぶり。人に迷惑はかけてないよね?」
カバンを下ろして近づいてきたオロチの真ん中の頭を撫でる。
ここに来たときは殺されかけた魔獣だけれども、今となっては可愛いものだ。
というより、かっこいいまである。
「メリアがこの街に来ててね」
「「「!?」」」
「ここにも来ようって言っていたけど」
「「「!!?」」」
「さすがに君たちがかわいそうだから止めておいたよ」
さすがに驚いたのか三つの頭が同時に硬直する。
しかしすぐに我に返ると、安堵の表情? を見せて僕に頭を擦り付けてくる。
「ははは、くすぐったいぞー」
「これオロチ、主の鞍替えしているよね」
「余程、メリアが怖かったと見える……」
後ろで何かを言っているな。
そのままオロチと交流を続けていると、ふとこの場に僕たち以外の気配が現れたことに気づく。
「「ん?」」
気づいた僕とリーファが周囲を見回すと、近くの岩場の影から二人の女性が現れる。
水色と黒色、髪の色以外瓜二つな二人の女性———ナーヴァさんとアーミャさんだ。
「よっ、久しぶり! カイト!」
「また一層強くなられましたね」
「あ、お久しぶりです。ナーヴァさん、アーミャさん」
「げっ、師匠……!?」
明るく挨拶をしてくる彼女たちにリーファは苦虫をかみつぶしたような表情で狼狽える。
その表情に反応したナーヴァさんは、意地の悪い笑みを浮かべるとそのままリーファの首に腕を回してぐりぐりと頬を指で突く。
「げっ、とはなんだー? あれだけ訓練見てあげたのにー」
「だって貴方達にボコボコにされた記憶しかないから……」
「必要なことでしたからね」
リーファは一時期、ニーアと一緒に訓練を施してもらっていたからなぁ。
そのおかげで強くなれたけれど、どうやらそれだけ過酷な訓練だったようだ。
「それにしても、どうしたんです?」
「準備が整ってきたのでご報告をと思いまして」
「報告?」
なんの報告だろうか?
首を傾げると、アーミャさんは微笑みながら人差し指を立てる。
「これからの皆さんの拠点となる船と、ヴィンガル、フィルゲン、セントレアルを繋ぐ影を作る準備ができたことです」
「それじゃあ、チサトやセーラさんがいつでも船と国を行き来できるようになるということですか?」
「その認識で間違っていません」
すごいなぁ。
ベルンさんの力もあるだろうけど、長距離の転移を可能にしているのは普通にやばいと思う。
だってこれ瞬間移動みたいなものでしょ?
「リーファもできるの?」
「じゃあ、できたらカイトの影と私の影を繋げていい?」
「そのくらいなら別にいいけど……?」
「私が言うのもなんだけど、カイト段々と警戒心とかなくなってきてない……?」
いざという時便利そうだし。
なぜか自分から言ったリーファに心配される謎の事態になってしまったけれど。
「とりあえずは距離の近い船とヘンディル王国……君たちの住んでいる宿の一室のクローゼットと繋げたよ」
「え、それじゃあもうすぐに船に行けるってことですか?」
「そのとーり」
じゃあ、シフの兄弟たちといつでも会うことができるようになる、と。
……やばいな長距離転移!!
「で、今日中にフィルゲン王国と繋げる予定」
「チサトとは意外と早い再会になるってことか……」
「不安しかないのはなんでだろう。悪用しそう……」
また賑やかになりそうだな。
しかし、各国に転移用の影を設置するということは近いうちに何かが起こるとみてもいいのかな?
それだけのことをする理由があるとも考えられる。
「お二人はこれから何が起こるかはご存じなんですか?」
「んー、ベルン様からはまだ何も聞いてないかも」
「意図的に話されていないという感じはしますね」
ナーヴァさんもアーミャさんも知らないか。
リオンさんに問い詰めるのが一番手っ取り早いけど、あまり無理やり聞き出すということはしたくないんだよなぁ。
あの人にも色々考えとかがありそうだし。
なにより、メリアが話していないというのが地味に重要だ。
「この後は船の方に向かうんですか?」
「はい。ですがその前に———」
「リーファとニーアがどれくらい強くなったのか見ておこうかなって」
「げ……」
なるほどだからこの場に……。
リーファも嫌そうな顔をしているが彼女の合体は特殊な能力なので、ちゃんと見てもらわないと心配だ。
何かの拍子で元に戻れなくなったらと思うと怖い。
「それじゃニーアも連れてきますか?」
「いえ、もう連れてきたので」
アーミャさんが自身の影に手をいれ、昼寝をしていたであろうニーアを連れてくる。
「……う、うん? あれぇ、どうしてわらし、ここに?」
「ニーア、これから貴方達の力を見るので早く起きてください」
「……はい? え? なに?どういうこと?」
寝起きなのかまだ状況を理解できていないニーアに苦笑した僕は、オロチの首を一度撫でてから彼女たちへと近づく。
捕まっているリーファと今しがた状況を理解したニーアが助けを求めるような視線を向けてくるが、残念ながら止めるつもりはない。
「それじゃあ、僕も手合わせの方をお願いしてもいいですか?」
「お、カイト君もやるの?」
「はい。ナーヴァさんにリベンジもしたいところですからね」
前に戦った時は遊ばれていたようなものだからな。
今度は彼女の本気を引き出せるくらいに頑張りたいところだ。
「まずはリーファとニーアからだねっ!」
「助けてカイト!」
「寝起きにボコボコにされたくないっ!!」
「はーい、我がまま言わないの」
アーミャさんとナーヴァさんに引きずられていくリーファとニーアに手を振りながら僕も準備運動を済ませておく。
「……。そろそろ状況が動いてくるのかな……」
「うむ。そのようだな。リオン殿もなにか考えがあるように思えるし」
船と拠点を自在に移動できるのは便利だけど、それはまた新たな波乱が起こる前兆にしか思えない。
魔王軍がなくなったはずなのにこの世界にはまだ隠された脅威がある。
いや、今一番気になっているのは……。
「夢で呼ぶ、なにか」
大きな翼をもつ神獣。
神秘的で穏やかな声を届かせていたが、それと同時に弱弱しかった。
「……でもその前にシフの兄弟たちへのお土産を帰りに買ってあげなきゃな」
「カイトよ。兄弟たちをあまり甘やかさないでほしいんだが……」
影で空間を繋ぐということはいつでも会えるということだ。
これは僕の日常にも波乱がやってくるということだな……!!
完全にメリアからカイトへ主替えを行ったオロチ君でした。
次話の更新は明日の18時を予定しております。




