第二百八十八話
お待たせしました。
第二百八十八話です。
部屋で少し休んだ後、僕はシフと共に船長室へと向かうことにした。
ハクロ達には部屋でゆっくりしてもらって、とりあえずはリオンさんとイリスさんに挨拶しておこうと考えたからだ。
「あ、主さん。はじめましてー」
「こんにちわー」
「お初にお目にかかりまする……」
通路を歩いているともう黒い小動物たちとすれ違うわすれ違うわでもう大変だった。
船は既に空を飛んでおり、皆せわしそうにわちゃわちゃと動いており、かなり微笑ましい光景だったと言っておこう。
「失礼します」
「ああ、来たね。カイト君」
「もう少し休んでも良かったのではないか?」
船長室に入るとすぐにリオンさんが僕を出迎えてくれる。
本人曰く、臨時の船長らしいけれども。
僕の姿に気付いた操舵室にいるシフの兄弟たちがざわめきを見せ始める。
「はいはい、落ち着いてー。君達が手を止めると、船の制御が覚束なくなるからね」
「おねーさまはそうやって一人だけ主さまと話そうとしてるじゃん!」
「そーだ、ずるい!」
「横暴だー!」
「私、君達の生みの親だよ……?」
なんとも微笑ましく声を上げる小動物たち。
小さな手で操舵を動かしている黒ウサギ、ララに同調する小動物たちだったが、そのうちの一体が不満げな視線をララへと向ける。
「でも、チーフが言うのはもっと駄目」
「裏切り者には慈悲はなし」
「みゃっ!?」
「あー、こらこら。喧嘩は駄目だよ」
思わず声を挟んでしまうと、小動物たちは一斉に各々の作業へと戻る。
「「「やめます!!」」」
「驚くべき、聞き分けの良さだな……」
やや引いた様子のシフ。
それだけ仕事熱心ということなのだろう。
目覚めてから間もないのに、すごい子達だなぁ……やっぱりシフやアルと同じでものすごく賢いのだろう。
「すごいチームワークですね。リオンさん」
「神獣の私だけど、君にだけは逆らいたくないよね。……今や、メリアという手足以上に自由に動いてくれる存在をけしかけられるし……」
「?」
「あ、あははー」
誤魔化すように笑ったリオンさんは、傍らに佇んでいるイリスさんに視線を向けた後に、立ち上がる。
「これからヘンディル王国へと向かっていくところだ。大体、二日ほどで到着するからゆっくりしているといい」
「二日……早いですね」
「フフフ、君達が快適に過ごせる程度の速さで進んでいるから、実はこれでも遅くしているんだよ?」
そうだったのか……。
確かに大きな揺れとかは全然ないな。
だとしても二日で到着してしまうのは、すごく早いのでそれから先のことを考えなければ。
「ジェシカ様にも報告しなきゃな……」
「ああ、詳しい内容については私から彼女に説明をしておこう。彼女は我々に詳しい人物の一人だからね」
「そうなんですか?」
「ああ。ヘンディル王国は、神獣と縁が深い国でもあるんだ」
僕が来る前からそうだとしたら、どのような神獣と関わりがあったのだろうか。
やはりメリアだろうか?
「でも、無事を伝えなくてはならないので会うことは変わりませんね」
「その方がいいだろう」
ジェシカ様も心配されているでしょうし。
それと、帰ってからいくつかやらなくてはならないこともあるしな。
「イリスさんは、ギルド長と会う覚悟は決まりましたか?」
「うぇ……!? あ、ああ……」
突然、話を振られたイリスさんは、驚きの表情を浮かべる。
まず、最初の一歩を踏み出せてしまえばそれでいいとは思っていたが、変に急かしてぎくしゃくさせるのは当人たちのためにならないからな……。
「難しいなら、最初は手紙からとかにしますか?」
「いや、その……」
「まだ時期が早いというなら……僕から話しをつけておきます」
「それはやめてくれ……!! 君の場合、あらぬ誤解を生みそうな気がする……!!」
そ、そうかな?
中々に必死な様子でそう言ってきたイリスさんに首を傾げる。
「なんというべきか……なにを話していいか、自分でもよく分からないんだ」
……十数年ぶりに家族として話し合うわけだから、どんなことを話していいか分からなくなるのも当然だ。
幸いなのが、互いの認識に悪感情はないことだろう。
「何を話していいか分からないなら、一緒に立ち会う人がいれば緊張も幾分か解れるかもしれませんね」
「そ、そうかな……?」
「ええ」
イリスさんに頷く。
一人より二人だ。
「僕がベルセさんに、ニーアとリーファが貴女のサポートにつきます」
「すまない。私のサポートには不安しかないのだが……!!」
「じゃあ、チサトに頼んで——」
「あまり関わっていないが、彼女はニーア以上にヤバい気配がするのでやめてくれ!」
そこまで言われるとかチサトすごいな……。
最近は色々と素を出してきて、言葉のセンスがとんでもないことになっているけど。
「結構頼りになるんですけどね。最近は冗談もよく言ってくれますし」
「果たしてあの子のアレは冗談なのだろうか……」
「え?」
「あ、なんでもないよ」
振り向くといつもの様子でリオンさんにそう返されてしまう。
「そういえば、メリアはこの船のどこにいるんですか?」
「私がどうしましたか?」
いつのまにか隣に立っているメリアに答える。
「ああ、君が普段船のどこにいるのかなって」
「船内の一室を利用させていただいております。折を見て、ご案内いたします」
「そうなんだ」
「ええ、そうなのです。フフフ」
メリアも変わらず部屋に住んでいるということか。
瞬きする間にまた姿を消したメリアを確認した僕は、またリオンさんとイリスさんの方を向く。
「らしいですね」
「君、受け入れすぎじゃないのかな……?」
「純魔の魔力よりも、その受け入れの速さの方がおかしいのでは……?」
慣れてしまえば別に気にならなくなるんですけどね。
必要な時以外、視線を感じないし。
「それじゃ、次はマオに会ってきます。工作室にいるんですよね?」
「ああ、あの子は魔具に触れているのが好きだからね。会いに行ってあげるといい」
ヘンディル王国に到着するまで時間もあることだし、あの子とも話をしなくちゃな。
操舵室から出て、そのままマオのいる工作室へと向かうべく通路を歩いていく。
「あ、カイト君」
「ニーア、お昼寝から起きたんだ」
「お昼寝って言うのやめてくれない?」
通路でニーアと遭遇する。
寝癖がそのままなあたり、先ほどまで昼寝をしていたのだろう。
とりあえず、寝癖があることを教えつつ、僕がこれからマオのいる工作室へ向かうことを教える。
「これからマオのところに行こうと思うんだけど、君はどこに?」
「ちょっと散歩してただけだよ。ついていっていい?」
「別に構わないよ。あ、工作室には初めていくから、案内してもらってもいいかな?」
「そういうことなら任せてよ!」
ニーアに手を引かれ通路を歩いていく。
まるで、遊園地に子供を連れてきた父親のような気分になる。
「ここがそうだよっ!」
数分ほどで工作室に到着する。
他とそう変わらないデザインの扉を前にし、とりあえずノックをしてみる。
「マオ、いるかい?」
工作室の扉をノックする。
すると中からガチャガチャという音と共に、遠慮するようなくぐもった声が聞こえる。
『ど、どうぞ』
「うん。それじゃ入るよ」
扉を開けると部屋の中は魔具の部品などが散らかっており、作業台と思われるテーブルには少しそわそわした様子のマオが座っていた。
「そこに、座って」
「ん? ああ、用意してくれたんだね。ありがとう」
「ねえ、私は?」
椅子は一つ分しか用意しておらず、ニーアの分はない。
マオはどこか不機嫌そうに眉をしかめると、そのまま床を指さす。
「シロは床」
「……。カイト君、座っていいよ」
「え、でも……」
「いいから」
強い口調で言われて椅子に座ると、何を思ったのかニーアが僕の膝に座るように飛び乗ってくる。
「これなら問題ないでしょ! べーっだ」
「……ッッ!!!」
「こら、しょうもないことで喧嘩しない」
してやったりのニーアに、無表情のまま剣呑な雰囲気を放つマオ。
見た目はどちらも子供だが、ニーアは僕とそう変わらない年頃なことを忘れそうになる。
というより、ニーアの耳がちらちらと視界を横切って気になるし、そもそも――、
「ニーア、恥ずかしくないの? 僕は気恥ずかしいのだけど」
「……ハ!? あ、あぁぁぁぁ!?」
「我に返ったな……後には引けんぞこれは……」
後から見ても分かるほどに顔を真っ赤にさせたニーア。
その様子に苦笑しつつ、降りてもらおうとすると彼女は必死に首を横に振る。
「い、いいや! このままでいい!!」
「いや、でも……」
「いいから……!!」
すごい気迫……なにが彼女をそこまでさせるのだろうか……。
とりあえずニーアを膝に座らせたまま、マオと向かい合う。
よく考えなくても奇妙な光景だな、これ。
「……」
しかし、この子が魔王だったんだよなぁ。
複雑な気分ではあるが、この子に両親がいないことを考えるとかなりの訳アリなのは察している。
「ここでの生活には慣れそう?」
「……うん」
まず軽い質問から始めてコミュニケーションをとっていこう。
受け答えしてくれたことに手ごたえを感じつつ、続けて質問を投げかけていく。
「ご飯はちゃんと食べてる?」
「……うん」
「よく眠れてる?」
「……ちょっと」
「駄目だよ? ちゃんと眠らなきゃ。身長も伸びなくなっちゃうからね」
「う、うん……気を付ける……」
普通に聞き分けがいいな。
嬉しそうにこくこくと頷くマオ。
「いや、お母さんかッ!!」
そこで膝の上のニーアが突然そんな迫真のツッコミをしてくる。
び、びっくりした……。
「誰がママだ」
「言ってないけど、そうだよ!! 質問の内容が、私の母さんとほぼ同じだよ!?」
「ニーア、落ち着け。カイトには自覚がなかったのだ……」
「シフも諦めちゃってるじゃん……」
気遣いすぎてしまったか……?
むむむ、マオとどれほどの距離感で話していいか分からないな。
「まあ、話を戻そうか。マオ」
「うん?」
「君はどうして魔王に?」
「……リオンさんから聞いてないの?」
「君の口から聞いておくべきだと思ってね」
リオンさんから聞くこともできたけれど、変なところで話をはぐらかしてくるかもしれないしな。
彼女のことは信頼はしているけど、今回の一件で信用度は些か減っている。
「……。分かった。話す」
戸惑いつつ頷いたマオはぽつりぽつりと自身が魔王になるまでの境遇を語った。
幼い頃に両親を亡くし、一人っきりになってしまったこと。
幼いながらも魔具作りの才能を持っていたことで、それにのめり込んでしまっていたこと。
そして、その自身の才能を心無い誰かに利用され続けられてしまったこと。
「間違ったことをしていたのは分かってる。でも、一人は嫌だった」
「それに、褒められたかった?」
「……ううん、誰でもいいわけじゃない……」
それで僕とイオさんを両親判定するのは謎だけど。
そう思ってしまう気持ちを否定することはできない。
「メリアお姉さまに、あなたは私を許してくれるって」
「メリア、本当か?」
「ええ、事実です」
「わひっ!?」
その場で聞いてみると背後からメリアの肯定する声が聞こえる。
膝に座っているニーアが飛び跳ねそうなくらいに驚いているが、それよりも僕は大きなため息をつく。
「僕はこの子を利用するつもりはないぞ」
「差し出がましい真似をして申し訳ありません。いかような罰も受けましょう」
「いや、そこまでしなくてもいいけど……」
「そうですか……残念……」
残念……?
振り向くとそこには既にメリアの姿はない。
首を捻りながら前を向くと、きょとんとした様子のマオがそこにいた。
「まあ、君がこうなったのもリオンさんのせいだけど、間違いなく君は魔王だったんだ」
「……ごめんなさい」
「うん。だから、その事実を忘れないで、これからは自分のやりたいことをすればいいと思うんだ」
「私の、やりたいこと?」
マオを利用していた人や、リオンさんのようにこの子の進む道を決めるのではなく、これからはマオ自身が彼女のやりたいことを見つけていければいいなと僕は思う。
勿論、いきなりほっぽり出すのではなく、皆で助けていけばいい。
「僕は君の父親にはなれない」
「えっ……嫌です」
普通に拒否されるとは思いもしなかったぜ。
そんなこと言われるとは思わなかった的な絶望の表情を浮かべられてしまうことに逆に驚いてしまう。
「その代わり、友達になろう」
「友達、ですか?」
「同じ目線で話し合えるし、お互いの悩みだって相談できる」
いうなれば僕とチサトみたいにな……いや、さすがに出す例を間違えたな。
リーファは相棒だし……あれ? 僕って男友達ってほとんどいなくないか? リックさんは尊敬できる人って感じで友達って感覚でもないし……。
「それに、ここにはニーアもいるしね」
「は? カイト君、どうして私がこの子の友達にならなきゃ——」
「純魔ショック」
「ふにゃぁぁ~」
大人げないことを言いそうになるニーアの肩に純魔の魔力を集めた手を置き、脱力させる。
またたびを食らった猫のように落ちそうになる彼女を支えていると、マオが遠慮気味に声をかけてくる。
「じゃ、じゃあ、私から会いに行ってもいいの? 迷惑じゃない?」
「勿論だよ。迷惑になんか思うわけない」
色々ありすぎて他の人と交流することが少なかったのか、人と話す時もやや躊躇している様子を見せている。
こればかりは一朝一夕ではなおせないだろうが、それは僕を含めた周りの協力があればなんとかなるはずだ。
僕が頷くと、マオは小さく微笑む。
「ありがとう。……お父さん」
「だから、お父さんじゃないからね?」
何度も言うけれども、違うからね?
まずいな、これもし街中で言われるようなことがあったら大変なことが起きるぞ。
主に僕の身に。
滅茶苦茶生き生きしているメリアでした。
※来月、8月21日にて、殴りテイマーの異世界生活、第二巻の発売が決定されました。
近日、活動報告の方を書かせていただきます予定です。




