第二百八十七話
お待たせしました。
第二百八十七話です。
第七章開始となります。
魔王は勇者によって倒され、魔王軍そのものも崩壊した。
魔王軍幹部も全員捕まり、その関係者も捕縛されたことでようやく人々に安心が戻った……ということが表向きの理由として人々に伝わることになった。
事実は異なるのだが、僕達の場合逆に事実を伝えたほうがさらなる混乱を招いてしまうのは分かり切っているからな……ある意味でしょうがない話とも言える。
「なんだかあっという間だったわねぇ」
「そうだね。でも楽しかったよ、セーラ」
「私もよ、チサト」
ヴィングル王国を出発する日。
僕、リーファ、チサトの三人はセーラさんとイオさんに見送られ、お世話になった屋敷を出ようとしていた。
「リーファ、返し忘れた荷物とかない?」
「んー、大丈夫だと思う。でっかい銃も返したし」
「あれを持ち帰られたら大変だもの」
あのガトリング砲を持っていくわけにはいかないからなぁ。
というより、弾的にセーラさんの魔法以外使えないだろうし。
「またすぐに会うことになりそうだけどね」
「そう、ですね」
近いうちにナーヴァさんかアーミャさんのどちらかが彼女の元を訪れるだろう。
セーラさんとイオさんは神獣に認められてしまったからな……。
僕としては、危険だから関わってほしくはないけれど……当のセーラさんが乗り気なので何も言えないんだよなぁ。
「イオもほら、なにか言いなさい!」
「え、わ、私は……」
後ろに控えていたイオさんが、セーラさんに背中を押されて出てくる。
何か言いたげな様子の彼女に一つ頷いた僕は、船のことを思い出し、彼女に話しかける。
「イオさん、先に船で待っています……!」
「えっ……」
ハッとした様子で顔を上げたイオさん。
「シフの兄弟たちと一緒に待っています……!」
「あ、はい。……ええ、ソウデスネ……ハイ」
サムズアップしながらそう言い放つと、イオさんも笑みを浮かべて頷く。
どこかぎこちない笑顔なのは気のせいだろう。
「カイト君ってさ、時々驚くほどおバカになるよね」
「うんうん」
「おバカというより、優先度の違いみたいなものよねー。まるで、子供みたいね。これは強敵よー」
好き勝手に言ってくれるチサトとリーファ。
セーラさんは、ぽんぽんとイオさんの背中を叩いている。
「では、そろそろ出発します」
「ええ。道中気を付けてね」
「はい!」
セーラさんとイオさんに別れを告げて、僕達は歩き出す。
リーファは僕の影に潜り、チサトは魔具で髪の色を変え、眼鏡をかける。
そして僕は覆面を被る。
「ちょっと待ちなさい!!」
「待ってください、カイトさん!?」
「え? なにか忘れ物でも……?」
中々に必死な様子で止めてくる二人に振り向く。
「常識を忘れているわよ!?」
「その覆面で街中を歩くつもりですか!?」
「……あまりにも自然に覆面を被ったから気付かなかった……」
『後で燃やしとこ』
高性能なのに……。
リーファの不穏な声を影から聞きながら、僕は渋々覆面を外すのであった。
●
ヴィングル王国を出た僕達はすぐに船へと乗り込んだ。
飛行船と呼ぶべきなのか、空を飛ぶ船と表現すべきなのか分からないが、それに乗り込んだ僕達に真っ先に会いに来たのは——、
「カイトー!」
「ああ、シフ、ただいま」
一番の相棒、シフだ。
飛び込んできた黒い猫を受け止めていると、僕の隣にいたチサトも、シフと一緒にやってきていたアルを見て腕を広げる。
「アル、飛び込んできてもいいんだよ?」
「は?」
「たった一言で人の心は傷つくんだよ?」
改めて船の中を見るとすごいな。
元の世界の技術と比べてもそん色がないほどにすごい。
そんなことを思っていると、通路から銀髪の少女がやってくる。
「おかえりなさいませ、カイト様」
「あ、ただいま。メリア」
「フフフ……」
出迎えてくれたメリアは嬉し気な様子で微笑んだ。
「君が一番最初に来ると思っていたよ」
「いえ、私も分を弁えておりますので、シフにお譲りしたのですよ」
もっと我を通してくるような性格かと思っていたけど、どうやら違うようだ。
シフを下ろしながら僕はメリアへの認識を改める。
「まずはお荷物を部屋に運ぶといいでしょう。ああ、それと——」
笑顔のまま、メリアが僕の影に手を突っ込み——眠っているリーファを無理やり引きずり出した。
それで目が覚めたのか、ハッとした顔のままリーファが床に投げ捨てられる。
「なにごと!?」
「いつまでも潜っていられると目障りでしょう?」
別に慣れているのでそれほど気にしていないけれども。
てか、静かだと思ったら眠ってたのかよ。
「まあ、とりあえず部屋に戻るよ。他の皆はどうしてる?」
「イリスは畜生と共に。マオは工作室に。ニーアは部屋で惰眠を貪っております」
「姉妹で生活リズムが似ているんだね……」
ニーアも昼寝しているんかい。
後でリオンさんとイリスさん、そしてマオにも顔を出しにいくけど、まずは部屋に荷物を置きにいこう。
「部屋にご案内します。カイト様とその他の部屋は既に決められておりますので」
「その他じゃないよ、チサトだよ」
「……」
「神獣が無視するとかカッコ悪いよ」
「チサトって怖いもの知らずというか、バカだよね」
「人間バカになった時が一番強いって言われてるから」
無敵かな?
唖然とするリーファにあっけらかんとそう返すチサト。
「貴方様は一人だけ特別な部屋をいただくのを嫌うと思い、共通の部屋をご用意させました。お好きな部屋を、お選びください」
「そうだね。ありがとう、メリア」
「いえいえ」
案内された先の扉を開いてみると、ヘンディル王国で僕とリーファが住んでいる宿の部屋の一回りほどの広さの部屋だ。
「じゃあ、私、カイトの隣の部屋」
「じゃあ、私、カイト君と同じ部屋」
「じゃあ、僕はチサトから一つ離れた部屋にする」
チサトのボケに乗ってそう軽く返すと、指を軽く翻した彼女が僕を見る。
「おいおい、逃げるの? カイト君」
「なんで挑発される側なの僕……?」
「この勇者はカイト様にとって悪影響なのではないでしょうか? 処分してほしければいつでもお申し付けください」
しないからしないから……。
にこり、と笑いながらシャレにならないことを言ってくるメリアをなだめつつ、僕は自分の部屋を決める。
さすがに冗談だったのかチサトは向かいの部屋に、リーファは宿と同じように隣の部屋に入る。
「因みにですが、リーファの隣の部屋はニーアがおります」
「あ、そうなんだ」
「はい。では、私は船長室の方におりますので、御用があればお呼びください」
恭しくお辞儀をしたメリアはそのまま扉を閉めると、一瞬にしてその気配を消す。
改めて部屋を眺めると、いつもより広く慣れるのに時間がかかりそうだ。
「……さて、皆もくつろいでいいよ」
「キュ!」
「シャー」
「ウォン!!」
使い魔達を自由にさせながらベッドに座り、シフと向かい合う。
「さて、兄弟たちとは仲良くできたかな?」
「うむ。皆、賢く働き者ばかりだ。ああ、それと我が兄弟たちは三つのチームに役割分担させられていてな」
シフから彼の兄弟たちについて聞く。
船の操作を任せられているチームに、機関部を担当するチームに、それ以外の補助や船内の管理をするチームか。
無駄がないな。
さすがはリオンさんだ。
「そのうちに君の兄弟たちに挨拶しにいかなくちゃね」
「う、うむ。しかし兄弟と姉妹たちの中には少々厄介な——」
すると、コンコンコン、と扉がノックされる。
やけに低い位置から音が聞こえたな?
ちょっと不思議に思いながら扉を開くと、同じ目線には誰もいない。
「ここよー」
「ん?」
下からの声に視線を下ろすと、そこには目をキラキラと輝かせた黒いウサギがちょこんとその場で座っているではないか。
「こんにちは! 私、ララ!! 働き者の黒ウサ——」
言い終わる前にシフが扉を閉める。
思わず首を傾げてしまうと、シフが頭を抱えているのが見える。
「シフ? 今、君の妹が挨拶しに……」
「……我が兄弟姉妹には一部問題児がいてな……まあ、来てしまったからには紹介せねばならん……はぁ」
渋々といった様子でシフが扉を開けると、そこにはララと名乗った黒いウサギと、胡乱な目でララの首を口で持ち上げた黒い毛並みのハスキー犬がいた。
「む、すまない、兄上の主殿。同じチーフとしてこの者は元居た場所に連れていく」
「は、離せー! まだ挨拶もちゃんとしてないんだからー!」
「君達」
「「!」」
僕の声に驚きの表情を浮かべるウサギとイヌ。
僕は至極真面目な表情のまま、黒いイヌの頭を撫でる。
「ちょっとここでお茶しべぐぅ!?」
「すまない。カイトは少し疲れているので、お前達はそれぞれの仕事に戻ってもらってもかまわないか? 折りを見て、挨拶しに向かう」
「あ、ああ。了解した」
「え、な、なんで連れていくの!? お茶したい!」
頬に猫パンチをいれられ混乱しているうちに、ララと大きなイヌは扉から離れていく。
無意識にお茶に誘おうとしてしまったぜ……!
「カイト」
「ああ、分かっている。シフ、精神修業が必要だな……!!」
「おぬしに必要なのは、精神修業ではなくもっと別のものだと思うぞ……」
これからシフの兄弟たちと集団で会ったらきっと僕は混乱してしまうだろう。
そうならないために、イメージトレーニングをしておかねば……!!
カイトの性格を完全に理解した上で、シフに出迎えを譲り好感度を稼ぐメリア。
そんなメリアがカイトの好感度を下げたくないと直感的に理解したチサトが、率先して煽りに行くという地獄絵図……。




