第二十七話
第二十七話です。
「えぇぇ―――! カイト君とリーファ、リックさんの依頼に同行するの!?」
「ええ、なぜかそうなっちゃったみたい」
リックさんにグリフォン討伐依頼に誘われた日の夜、宿でメルクさんの作ってくださった夕食を僕、シフ、リーファ、ライラの四人? で囲んで食べていると、昼間の話を聞いたライラは驚きの声を上げた。
「え、ええ、運がいい……のかな? 二人とも」
「珍しいことなのか?」
「たしかに、マイも驚いてたけど」
僕とリーファが尋ねると、ライラは席に座りなおしながら答える。
「依頼に誘うこと自体は、冒険者間では珍しくないよ。実際、有望そうな新人を、一つ上のランクの依頼に連れていくってことが許可されてるし」
「それなら、それほどまでに驚く必要もないのでは?」
シフの尤もな質問に彼女は首を横に振る。
「私が驚いたのは、誘ってくれたのがリックさんだってことにだよ!」
「リックさんだから……?」
「リックさんは、ここでの数少ないランク・ゴールドの凄腕冒険者だけど、実力はあるけど色々適当だし、それ以前に新人さんと滅多に交流しない人だから、依頼に連れて行ってくれること自体稀なんだ」
それじゃあ、俗にいうレアな人ってことなのかな?
そんな人の依頼に同行させてもらえるなんて光栄だなぁ。
「足手まといにならないようにしなくちゃな。リーファ」
「うん」
ライラの隣に座っているリーファと互いに頷いていると、僕達の前に料理がのせられたお皿が差し出される。
プレートの上には豪快に切り分けられた肉と茹で野菜がのせられており、食欲がそそられる。
料理を運んできてくれた女性、メルクさんは相変わらず不機嫌そうな表情のまま、僕達から離れると壁に背を預けて腕を組んだ。
「リックの奴の依頼についていくのか?」
「およ、メルクさんの知り合いですか?」
ライラの疑問に、メルクさんは頷く。
「奴もうちの宿にいたんだよ。お前ほど図々しくはなかったがな」
「えぇ!? 初耳ですよ! なんで教えてくれなかったんですか!!」
「話す理由もなかったからな。……さっさと夕飯を食え。片付けるのは私なんだからな」
メルクさんに促され、追加された食事に手をつける。
うん、やっぱり美味しい。
この世界に来て結構経つけど、メルクさんの作る料理が一番美味しいな。
●
食事の後、体を洗う前に僕は宿の裏庭で、武器の素振りを行っていた。
あくまで訓練なのでシフとライムには近くで見守って、僕は木製の棍棒を振るう。
「はぁッ!」
「カイト、小回りを生かせ! 次の攻撃に繋ぐ動きを意識しろ!」
ブンッ、と棍棒が風を切る音が響く。
以前までは大ぶりな動きだったが、依頼をこなし、モンスターとの実践を積んでいくうちに下手な攻撃は避けられてしまうことを学んだ。
「まだまだ……!!」
攻撃の起点は武器ではなく踏み込みにあり、踏み込みとはすなわち足さばきにある―――と、豪語したシフにより、そのような戦い方をするように心がけている。
正直、まだまだよく分からないけど、自分の命に関わることだ。
必死にやらなくてはならない。
「フンッ!」
足を地面へと踏み込むと同時に、体重と勢いを乗せた突きを前方へと繰り出す。
力が流れないように上半身は崩さない。
数秒ほどその体勢を保ち、ゆっくりと呼吸を吐きながら、構えを解いた僕は汗を拭いながらシフへと振り返る。
「どうだった? シフ、ライム」
「まだまだではあるが、最初と比べれば大きく進歩しているぞ」
「キュー!」
シフとライムにも好評なようだ。
肉体強化のおかげで体も鍛えられているし、この調子で頑張っていけば僕一人でもある程度は戦えるくらいに強くなれるかもしれないな。
正直、今のままじゃシフとライムにおんぶにだっこのままだからな。
「それじゃ、今度は剣の練習を―――」
そう言いかけると、こちらに何かが飛んできたことに気付き、咄嗟にそれをキャッチする。
それは中に水の入った金属製の水筒であった。
飛んできた方を見れば、宿の裏口にリーファがいた。
「頑張るのはいいけど、水分補給は忘れないようにね」
「ありがとう。リーファ」
魔具製のシャワーを浴びたのか、やや湿った髪をタオルでわさわさと拭った彼女は、シフとライムのいる裏庭の椅子に腰を下ろした。
彼女にもらった水筒に入っている水を口に含み喉を潤す。
「頑張ってるね」
「元々、体を動かすタイプじゃなかったからね。それに、シフとライムに頼り切りって訳にもいかないからな」
「私としてはおぬしが強くなってくれるのは素直に嬉しいぞ。おぬしは私にとっての唯一無二の存在だからな」
今ではシフもライムも相棒であり仲間だ。
しかし、彼らを使い魔として生かしていかなければならないのは僕だ。
僕の力不足で、本来の力を引き出せないなんてことがあっていいはずがない。
「この世界で僕もやることを見つけたからね。シフの主として強くなること、君の力になること、芯の通ったものとは言えないけれど、僕なりに自分の目的のために頑張りたいんだ」
「……本当に、ありがとね。カイト」
神妙な様子でお礼を言ってくるリーファに苦笑しながら手を横に振る。
「僕が自分で決めたことだからね。でも、これから冒険者として上のランクを目指すなり、リーファのお姉さんを探すなり、僕達は成長していかなくちゃならない。下世話な話だけど、生活もかかっているからね」
「フフ。そうだね」
いや、割と生活がかかっているのは本当だよ?
正直、今の段階での依頼での収入は、それほど多くない。むしろ装備の維持費込みでカツカツといってもいい。
そういう意味でも上を目指さなくてはならないので、強くなることは必須なのだ。
「だからこそ、僕は僕なりの戦い方―――つまり、シフの肉体強化を前提とした戦い方を模索していかなければならないということだ」
「———ん? ま、まあ、そうだね?」
「つまり、人間の動きを参考にするのは駄目な気がするんだ。むしろ、本質的には獣……魔物の動きが近い」
「ちょっと待って、そういうことじゃないと思う」
焦りながら止めてくるリーファ。
僕の身体を気遣ってくれているのだろう。
しかし、今のままじゃ僕は前に進めない。
肉体強化をしていない時は人間としての戦い方、肉体強化をしている時は人の常識を凌駕するような———漫画の世界であるような、超人的な動きをイメージすればいい。
「元いた世界の高校生としての固定観念を破壊する時……!」
そのためには少しでも肉体強化を長くするために修練を積まなければならない。
木剣を取り、素振りを開始する。
剣の振り方は、ライラに教えてもらったので間違ってはいないはず。
「ぬんッ! ぬんッ! ぬんッ!」
この風切り音!
実に心地よい!!
「し、シフ、止めたほうがいいんじゃない? カイトが変な戦いをするようになっちゃうよ?」
「カイト……! おぬし、私達のためにそこまで……!」
「だ、駄目だ、この主従……」
シフ、まだ泣くのは早いぞ。
感極まったように前足で目元を拭うシフと、肩を落とすリーファを慰めるように肩に飛び乗っているライム。
リックさんに誘われた依頼。
多少の不安はあるけれども、それと同じくらい楽しみでもある。
大分異世界の環境に毒されてきた主人公でした。




