第二十六話
第二十六話です。
どうやら僕は見知らぬ魔物と使い魔契約を結んでしまったらしい。
普通は血を媒介としても、魔物の側から強制的に使い魔契約を結ぶことはできないはずなのだけど、どういうことか、それができてしまった。
それに対して、シフがかなり頭を悩ましていたが、僕と強制的に使い魔契約を結べるほどの魔物なら、問題はないんじゃ? というリーファの意見を聞いて、一先ず納得してくれたようだ。
「マイ、なんかもっとやりごたえのある依頼とかある?」
ベノムモンキーの依頼を終えた翌日。
一旦休息を取り、もう一度ギルドに戻った僕達はまた次の依頼を受けるべく、受付のマイさんの元を訪れていた。
「えーと、端的に言うと、地道にコツコツ頑張ってくださいとしか」
「……」
「はい。そんな可愛く不貞腐れても駄目なものは駄目。君たちなら、あと少しすればシルバーに上がれるでしょ。戦闘のある依頼も、順調にこなしていけてるし……」
ぱらぱらと資料をめくったマイさんは僕達の達成した依頼を確認している。
「うん、ギルドでの貢献度で言うなら、今月で五本の指に入るくらいには依頼をこなしてくれてる。……これ内緒だけど、入って間もない新人冒険者としては異例な成績なんだよ?」
「でも、私は……」
もっと強くならなくてはならない。
そう小さく呟いた彼女は、変わらずに不満そうにしている。
さすがにこれ以上、駄々をこねてマイさんに迷惑をかけるわけにもいかないので、止めておく。
「リーファ。地道にやっていこう。たしかに今の依頼では物足りないのも分かるけど、まず僕達に必要なのは経験と慣れだ。そんないきなり強い魔物と戦っても、危険なだけだ」
「カイトの言う通りだぞ。おぬしの気持ちもわからんでもないが、カイトとおぬしだけでは強敵と戦うには些か不十分と言える」
「……分かった」
しゅん、と落ち込むリーファ。
それにかなりの罪悪感を抱きながら、静観してくれていたマイさんへと向き直る。
彼女へ、今受けられる依頼を質問しようとすると―――、ふと隣の受付でギルドの職員に依頼を受けている男に気付く。
「リックさんに指名の依頼です」
「グリフォン退治か。わざわざ俺を呼ぶ相手か?」
「中央の貴族からの依頼ですので……」
「はぁ、相変わらず大袈裟な奴らだな」
僕とリーファの冒険者に入るための試験を監督してくれたリックさんだ。
彼は、試験の時には持っていなかった紫色の装飾が施された剣を腰に携えながら、前に会った時と変わらない面倒くさそうな表情のまま、依頼が記された紙を眺めていた。
「俺が受ける必要あるか、これ?」
「仕方ありませんよ。依頼人は確実に排除することを望んでいるのですから……」
「ったく、こんなことならシルバーのままでよかったな……ん? お前らは……」
僕達に気付くリックさん。
彼は気安げな動作で、右手を上げた。
「カイトに、リーファだっけか? 試験以来だな。ここではうまくやれているか?」
「はい。一か月でようやく慣れてきたところです」
「……一応は」
無難に答える僕達を見て、そのまま数秒ほど考え込んだ彼は、自身の持つ依頼書とマイさんの手に持っている書類を見比べて、小さく笑みを浮かべた。
「マイ。ちょっと、そいつらの達成した依頼見せてもらってもいいか?」
「あ、え、その、カイト君、リーファちゃん、見せても大丈夫?」
「僕は全然構いませんよ」
「私も」
そう言うとマイさんは、書類の一部をリックさんへと見せる。
彼は真剣な様子でそれに目を通すと、感心したように頷く。
「コンビを組んでいるとはいえ、中々どうして……うわ、あの下水の依頼をやったのか? 大変だっただろ」
リックさんの言葉に、僕とリーファが強く頷く。
その様子に苦笑しつつ、書類に目を通し終えた彼はマイさんにそれを返しながら思案するように顎に手を当てた。
「……お前ら、俺の受ける任務についてきてみるか?」
「「!?」」
「リックさん!?」
マイさんが驚きの声を上げる。
リックさんは、ギルドでも数少ないランク・ゴールドの冒険者。
そんな人の依頼に誘われるなんて、普通じゃないのは分かっている。
「リックさん! いくらなんでもこの子達は早過ぎますよ!?」
「こいつらの実力的にそろそろ上を目指したいと思ってもおかしくはないだろ。受ける依頼もグリフォン一頭の討伐だけだしな」
「ですが……」
「それに、こいつらは伸びる。確実にな」
き、期待してくれている……!
遥かに格上だと理解しているリックさんに、そんなことを言われて嬉しくないはずがない。
それでも渋るマイさんにリックさんが剣の鞘を叩きながら気軽に笑ってみせる。
「なぁに、この俺がしっかり見てるから心配すんな」
「貴方だから心配なんですよ! 大雑把の極みみたいな性格してるじゃないですか!!」
「普通に酷くないか?」
リックさんに慣れているのか、マイさんの口調もどこか辛辣だ。
すると、僕の隣で押し黙っていたリーファが、話しかけてくる。
「カイト、リックさんの依頼、同行してもいいかな?」
先ほどまで上の依頼を受けたいと言っていたから、リーファの気持ちもよく分かる。
「……シフはどう思う? 僕としてはこのチャンスを逃すべきじゃないと思うけど」
「同感だ。危険こそあるが、私達の遥か上を往く実力者の戦いを間近で見ることができるのは得難い体験だ。ここは、リック殿の好意に甘えるべきだろう」
よし、そういうことなら―――、
「リックさん」
「ん?」
「僕とリーファが貴方の依頼に同行してもいいんですか?」
「ああ。それほど難しい依頼でもないからな」
グリフォンと聞けば、鳥の頭と翼に四足獣の胴体と足を持つ怪物、という印象だけど……リックさんにとっては倒すのも苦ではない相手なのか。
それからリックさんの依頼に同行するという流れとなった。
やはり、ランク・ゴールドのリックさんの依頼に同行することになって、少し不安に思っていたが、冒険者としては上の人の依頼に同行するというのはそれほど珍しくもないらしい。
「準備はしっかりしておけよ。依頼場所は都市から少し離れた場所にある。ちょっとした長旅になる」
受付から、いつものギルド内のテーブルに移動した僕とリーファは改めて説明を聞く。
依頼による長旅か。
ちょっとワクワクするな。
「出発は三日後の朝、馬車でいく」
「えっ」
馬車、という言葉に僕は思いっきり動揺する。
それに気づいたリックさんが、訝しみながら話しかけてくる。
「どうした? 何かあるのか?」
「馬車ってことは、馬ですよね……?」
「むしろそれしかないんだが……」
そこでシフもリーファも気付いたのか「あっ」という声を漏らす。
今まで、歩いて行ける距離だったので気にしてもいなかったけれど……僕って純魔の魔力のせいで普通の動物に避けられる体質なんだった。
それをリックさんに説明すると、彼は心配いらないとばかりに手を横に振った。
「その心配はねぇ。馬車を引く馬っつっても、魔物の馬だ」
「そういうのがいるんですか?」
「一般にも出回っているが、俺のは知り合いに借りた魔馬だけどな。だから、心配はいらねぇよ」
よ、良かった。
危うく僕だけ留守番ってことになるところだったぜ……!
でも、魔馬ってどういうのなんだろう?
普通の馬にすらまともに乗せられない主人公。
地味に厄介な体質ですね。




