閑話 解き放たれた悪意
今回は閑話、チサト視点となります。
カイト君達がリーファとニーアの故郷に里帰りしていた。
そこで彼女たちのルーツである神獣に会いに行くべく遺跡探検に赴くと聞いて、素直に羨ましくなった。
「だけどまさか突然、友達のお母さんと家族通話をすることになるとは思いもしなかったよ……!」
「あんた、なにいってんだい?」
「チサトのいつものあれだろ。気にしない方がいいぞ」
指を絡めるように手を組んでそう呟く私に、呆れた反応をする冒険者アルカ。
そしていつものごとく塩対応のアル。
そんなことはいつものことなので、鋼メンタルの私は続けて言葉を吐き出す。
「想像してみてよ……! ついに通信用の魔具で連絡を取り合えるようになって、ふとした時にぷっつりと連絡が途切れて……こういう時、真面目にどうすればいい!?」
「どうすればいいって……普通に連絡すればいいと思うんだけど」
「ハッ、これだからアルカは!」
「ねえ、友達やめてもいい……?」
「ごめんやめて、私を捨てないで……!」
真顔の彼女に謝り倒しながら気を取り直して話を続ける。
「私は連絡することができなかった。もしかしたらカイト君忙しいのかな、とか何かに巻き込まれたのかな、とかもう色々考えて遠慮しちゃって……!」
「うわ、面倒くさ。……アル、ミルクのおかわりいる?」
「うん」
「だけど、それでも連絡がきたんだよ……!」
どうせ聞いてくれているのは分かっているのでこのまま話を続行させる。
「嬉しかった。嬉しかったけど……まさかリーファのお母さんと話すことになるとは思いもしなかったよ……!」
「それってどういう状況だったの?」
「カイト君が紹介したい人がいて……その人がリーファのお母さんだった」
それだけの話なら良かったんだけど、リーファのお母さん―――シーナさんは、考古学を嗜むトレジャーハンターのようなことをしていたらしく、彼女がこれまでに調査した遺跡やその場所で起こった超常的な現象などについて話してくれた。
「楽しかった……!」
「楽しかったんだ……」
さすがはカイト君、的確に私のツボをついてくる。
魔具越しではあるが、シーナさんの話は興味深いものが多く、聞いているだけで心が躍った。
「で、何がいいたいの? 散々愚痴……? 愚痴ったあとだけどさ」
「私がいないところで面白いことをしていることが羨ましい」
「……はぁ」
なぜかため息をつかれてしまった。
そのまま頬杖をついたアルカは、そちらから話しかけてくる。
「私はあまり詳細を聞かないようにしているけれど、カイト達はなにか目的があって動いているんでしょう?」
「うん、バレたら世界が大混乱に陥ると思う」
「それ絶対私に話さないようにしてね!?」
周囲を見回しながら必死の形相で止めてくるアルカ。
カイト君は麻痺しているようだが、神獣は一般的にかなり遠い存在である。
一番近いフィーリヘルトでさえも、姿を確認できるだけで触れさせるようなことはない。
もし神獣……それも複数の個体が動き出し、尚且つ人間に干渉していることが広まれば、確実に混乱が起きるだろう。
「……魔王軍があるうちは、迂闊にここを離れられないのがなぁ」
「しょうがないだろ。お前は国を代表する勇者なのだからな」
「それは、そうだけどさぁ」
アルの言う通り、私は勇者だからこの王国を離れることはできない。
今の私にできることは、冒険者として依頼を受けたり、時折命ぜられる勇者としての仕事をするだけだ。
「魔王軍も、おかしな組織だよね」
「どういう意味で?」
「色々と不明瞭な点でだよ。だってさ、今までの魔王軍の行動ってただ王国とかを破壊するためだけのものでしょ? こう、なんていうか狙いとか目的とかは分からないままだし、今のままじゃただただ破壊活動がしたいだけの集団にしか見えない」
捕まえた幹部連中からの証言もただ暴れたくて暴れた、というなんともシンプルなものだった。
セントレアルの襲撃に関しても、魔王に命じられてそこを攻めたに過ぎない。
その具体的な思惑も、なにも幹部を含めた末端は聞かされていないのだ。
「魔王軍は明確な脅威ではあるけれど、やることが単純すぎる」
「……たしかに、ベヒモスを操り攻めてきた時も、特に要求とかもしてこなかったしね」
アルカの言葉に頷く。
そう、今の私から見ても、魔王軍がどういう目的で動いているのか理解できない。
まるでただ壊したいがためにそういう命令をしているのなら、魔王は子供じみた者なのではないかと予想してしまう。
「どちらにしろ、まだ表舞台にすら上がってこない時点で厄介な相手だろうね」
「「……」」
「ん?」
なにやら驚いたような顔で見られていることに気付く。
「いや、あの珍しく真面目そうな話だから……びっくりしちゃって……」
「うん」
「まるで常にふざけているみたいな言い方はやめてほしい」
私は真面目な時は真面目な女なんだぞ。
まったく、アルも頷かなくてもいいじゃないか。
「でも、チサトの言う通り、魔王軍の目的が依然として不明なのは事実だ」
「実際、なにも考えていないんじゃないの?」
「さすがにそれはないと思うよ? だって相手は魔王だし、もしかしたら私達の及びもしない考えを持って動いているのかもしれない」
そういう可能性もあるから、厄介なんだよね。
……まあ、ここで変に想像しても意味はないかな。
変な先入観は持ちたくはないし。
「さて、そろそろ私もギルドの依頼でも受けてきますか」
「お、何受けるの?」
「街の掃除」
「……それ、勇者のやる依頼じゃないよ?」
水で洗い流すだけで街が綺麗になるので、掃除関係は最も私に適している依頼といってもいい。
それに私の魔法の訓練にもなるし、なにより―――、
「好感度を稼げる」
「割と最低な理由だ……!?」
「ということでこれから依頼を受けにいってきます。アル、行こう」
「うん」
アルが肩に飛び乗ったことを確認し、私は歩きだす。
ギルドのカウンターで依頼を受けようとしたその時、ギルドの扉が大きな音と共に開かれる。
馴染みのあるメイド服姿の彼女―――メルの登場に私は首を傾げつつ、息を切らしている彼女に歩み寄る。
「どうしたの?」
「ち、チサトさん、大変です……!」
大変……?
ただならぬ様子に私は勇者としての自分に意識を切り替える。
「先のベヒモス侵攻の首謀者である魔王軍幹部のデウスが、監獄から脱獄したという知らせが……!」
「なっ!?」
「ほぼ同じタイミングで、捕縛された他魔王軍幹部も監獄から消えてしまったと……」
魔王軍幹部の脱獄。
ほぼ同じタイミングで……?
なにかが、起ころうとしている。
まるで示し合わせたかのような事態に、私はそう予感せずにいられなかった。
前話の最後部分でメリアが発動させた仕込みがこれでした。




