閑話 希望を見つけた彼女
リーファ視点の閑話となります。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
私の姉――姉さんは魔の力に魅入られてしまった怪物だ。
血を分けた双子の姉妹。
母さんの元で一緒に成長してきた家族。
性格も正反対で、髪の色も私は黒で、姉さんは白。何もかもが真逆だったけれど、不思議と仲が良かったと……思っている。
人間でも魔物でもなく、獣人でもない私達は、魔物の力の一端を持つがゆえにその本能に引っ張られやすい。そのせいで、近くの村の人達には気味悪がられて、時折心無い罵倒と、嘲りの言葉を言われ続けていた。
そんな私を守ってくれたのは、母さんと、姉さんだった。
だから、私は辛くなんてなかった。
辛い人生も、境遇も、母さんの元なら、姉さんと一緒なら乗り越えていける。
―――そう、信じていたのに。
『———リーファ、遊ぼう。私と貴女で、いつものように』
ある日突然、姉さんは変わってしまった。
母さんと私の制止の声も聞かずに、私達を“混じり物”、“化物”と嘲り、見下していた村の人達と、その家を破壊しつくした姉さんは、その身に魔物としての力を纏い、私にそう言い放ち、姿を消した。
その後、魔王軍という組織に、姉さんと思わしき人物が魔物を率いて悪いことをしているという話が出回ることになった。
―――これが、姉さんの言っていた遊び。
豹変してしまった姉さんは魔物の力に飲み込まれてしまった。
そのせいで沢山の人が傷ついている。
いてもたってもいられなくなった私は、母さんの元を離れすぐに姉さんを探そうとした。
そのためには戦う力も身につけなければならないし、姉さんの情報を知ることのできる術が必要だったが、そのどちらも私には備わっていなかった。
ナイフの扱いは得意だった。
魔物としての力は、私の身体を強く成長させていた。
しかし、その一方で戦いになると私は魔物としての力に飲み込まれ、暴れるように、荒々しく戦うことになってしまう。
―――姉さんのように、なりたくない……!
魔物の力に飲み込まれたくない。
でも、姉さんに近づくには自分の力を扱う術を身につけなければならない。
焦燥し、常に自分への怒りに囚われている中で―――私は、勇者召喚の儀式で勇者としてヘンディル王国に召喚されてしまった。
ヘンディル王国で行われる、王国の範囲内に限定した特殊な転移魔法陣。
それにより、召喚されてしまった私は、女王様―――ジェシカ・フレア・ヘンディル様により勇者としての使命を受けることとなった。
勇者は姉さんに近づくためには、ある意味で好都合な立場ではあったが、私には勇者としての素養があれど、圧倒的に力が伴ってはいなかった。
それを女王様に説明すると、彼女は女王とは思えない、さっぱりとした笑みを浮かべ―――、
『なら、さっさと力をつけなさい。それと貴女、寂しそうな目をしてるから心から信頼する“仲間”を見つけなさい。まずはそこから』
あまりに砕けた言い方に思わず驚いてしまった。
そんなこともあって、私は力をつけるまでは勇者として公表されないことになった。
正直、勇者になったからといって、立場が変わっただけで自分が強くなれたわけじゃない。王国騎士の修練を受けるという案もあったが、そもそもが私の戦い方は王国騎士からもかけ離れた我流のものであることから、あまり芳しい成果が出ることはなかった。
その時だ。
私とほぼ同じ時期にフィルゲン王国に召喚された勇者のことを聞いたのは。
名前は公表されてはいないがその人は異世界から召喚されてしまった特別な勇者だという。
前例のない事態に、ヘンディル王国側も混乱していたが、その勇者が召喚されて数日足らずで異様な成長を見せていると聞いて、その驚きは別のものへと変わった。
―――異世界の勇者の持つ才覚は異常過ぎる。
それが勇者のことについて知った者達と、私の印象だった。
それでも驚くべきことなのだけど、もっと驚いたのはフィルゲン王国の出した“とある人物の捜索依頼”であった。
それはなんと、フィルゲン王国の異世界の勇者の召喚に巻き込まれてしまった少年についてのものであった。
名前は『アリハラ・カイト』。
これには、女王様だけではなく他の王国の人々も興味を持ったそうだ。
異常な才覚を持つ勇者と同じ世界の者。
だとすれば、その人物の持つ才覚も並みのものであるはずがない。
早速、既に勇者として選ばれた者達や、報奨金目当ての人間が彼を探し回ることになった。
まあ、他ならぬ私も、信頼できる仲間探しのついでに探そうかな、っていう気持ちで探しながら、女王様に許可をもらい実力者揃いというギルドへと向かったのだけど———、
『カイト』
ギルドの中をなんともなしに見回っている中で、そんな声が聞こえた。
その声にまさかと反応してみれば、声の主はテーブルの上にいる黒い猫であった。
その黒い猫の前には、銀色のスライムを撫でている少年がいたが———彼を見た瞬間、私の胸の中でざわついていた魔物としての力が、ぴたりと止まっていた。
―――それが、カイトとの出会いだった。
最初はジェイコブ・ライジングなんて偽名を名乗られたり、すっごい紛らわしいことをされたけど……。あれから、ずっと彼の存在が頭から離れなかった。
私にとって魔物としての力が抑えられるなんて初めての経験だったし、何より特徴的な二体の魔物に懐かれ、それを受け入れている彼は、魔物としての力がある私にとっても好意的な人物であったからだ。
だから、冒険者の試験を受ける部屋で再会した時は、柄にもなく冷静じゃなかった気がする。
それから、彼が私に対して偽名を使ったことがバレたり、彼自身の魔力が私の魔物としての力を鎮静化することのできる“純魔の魔力”という特別な魔力を持つことも分かった。
彼の力は魅力的だが、それ以上に彼が私を助けてくれることが素直に嬉しかった。
共に戦えることに、とても安心してしまった私は、これが女王様の“心から信頼できる仲間”というものだと理解することができたのだ。
今までは、ずっと一人で姉さんを止めることばかり考えていた。
だけど今は、私はカイトと一緒に戦う。
依頼も頑張ってこなすし、一緒に強くなる。
フィルゲン王国の勇者ではなく、私を選んでくれた彼のために。
次回の更新は明日の10時を予定しております。
次も閑話を予定しております。




