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閑話 厄介ごとの足音

閑話です。

登場人物の関係上、今回は第三者視点で進めていきます。

 閑話 厄介事の足音


 暗く太陽の光すら差し込まない森の中。

 凶暴な魔物の雄たけびが響き渡る弱肉強食が支配する場所、その一角にある洞穴にて、二つの人影が中央の焚火を挟んで睨み合っていた。


「それで。首尾はどうなっている?」

「そりゃ、上々だよ。順調に手駒を増やしていっているし、問題なんてないよ」

「だといいがな」


 不機嫌そうに腕を組んだのは、フードを被っている女性。

 もう一人は白い髪に、頭にオオカミに似た耳を生やした少女。

 ため息をついた女性に、少女は年相応の明るい笑顔を向ける。


「疑り深いね。順調に事が進んでいるから喜んでくれてもいいんじゃない?」

「各地で勇者が召喚されているこの現状で楽観視なぞできるはずもない。我らが魔王軍は力こそ蓄えているが、まだまだ準備が足りていないんだぞ?」


 女性と同じく魔王軍として活動している少女自身にもその言葉は当てはまるが、当の人物はそれほど焦っているようには見えない。

 むしろ、どこか嬉しがっているようにも見える。


「なにがおかしい」

「この前さ。私の妹が勇者に選ばれてねっ! それがもう嬉しくて!」


 嬉しがる様子を見せる少女に、女性はビキリと額に青筋を浮かべる。


「面倒なことこの上ないだろうが。ただでさえ異世界から召喚された勇者なんていうおかしなことが起きているんだ」

「あ、それも面白いよね。異世界とか現実味のない話だけど、夢があるって感じがするし」

「はぁー」


 異世界からの勇者の存在は女性にとっては目障りなことこの上ない。

 ただでさえ勇者という時点で、王国内での最高の素養を持つ戦士を意味しているのだ。考えたくもないが、異世界の勇者の才能は王国だけではなく、その世界そのものの中で最も優れたものとも考えられる。

 だとしたら、速やかに手を打たなければならないのだが———彼女以外の魔王軍の幹部の面々が、自由すぎてまとまりがないのだ。


「他の幹部達にも同じことがいえるが、もっと真面目になれ」

「私は真面目だよ。元より、妹が私の前に立ちふさがることは決まっていたことだし、何よりその方が面白いからね」

「……お前を姉に持ったそいつが不幸でならないよ」

「誉め言葉かな?」


 一切の皮肉が通じない。

 女性が、にやにやとしている少女の相手をするのが面倒になっていると、いつのまにか妹の話から話題が変わっていた。


「あ、そうだ。妹に相棒みたいなやつができたんだよ。それが男の子でさ、なんとテイマーなの」

「そんなの掃いて捨てるほどいるだろ」


 テイマーは別段珍しくはない。

 戦いを専門とする者もいれば、日常における職業などに使い魔を用いるテイマーだっている。


「そうなんだけどね。色々と何かありそうなんだよねぇ」


 女性はこの少女との付き合いが長いというわけではないが、今少女が浮かべている表情からして碌なことを考えていないのは理解できていた。

 思わずため息をつきそうになると、彼女たちのいる洞窟に何者かが飛び込んできた。

 即座に剣を引き抜き、飛び込んできた者に刃を向けようとするも、それは白い毛並みのオオカミの魔物であった。

 白いオオカミは不機嫌な表情で、少女へと近づく。


「おっ、帰ってきたかっ」

「ウォン」


 少女の声にそっぽを向くオオカミ。

 明らかに嫌われているが、それでも少女が笑顔を絶やすことはない。

 白い毛並みに、一目見ただけで分かるほどの力———ただの魔物ではない。


「使い魔か? 高位の魔物のようだが」

「んー、使い魔……なのかな? 隷属させて小間使いにしているだけだし」

「お前……」

「それよりも、リーファと相棒くんの監視。ちゃんと行ってきてくれた?」

「ウォフ」


 不機嫌ながらも一鳴きするオオカミ。

 自身の額とオオカミの額に指を当てた少女は瞳を閉じる。

 数秒ほどそのままにしていると不意に、女性の方へと振り返り声をかけてくる。


「あのさ、純魔の魔力って知ってる?」

「純魔? 純度の高い魔力のことか?」

「どういう系統なの?」

「……今の時代ではある程度の純度を持つ者ですら目覚める事は希少なものだが……」

「そっか、ふーん」


 首を傾げていた少女が再び浮かべたのは、先ほどと同じ年相応な無邪気な笑顔。

 上機嫌で純白の髪の毛先を弄った彼女は、傍らに置いてある鞘に納められた二つの剣を腰のベルトに収める。


「ちょっと行ってくる」

「……どこに?」

「妹にちょっかいをかけにね」

「———は?」

「あ、それと配下の魔物をいくつか持っていくから、よろしくねー」


 女性が呆気に取られている間に、少女はオオカミの背に飛び乗り洞窟から飛び出していった。

 ハッとした時には時すでに遅く、少女とオオカミの姿はどこにもなく、外には暗闇しか広がってはいなかった。


「あ、あのバカ者がああああ!!」


 いつだって割を食うのは真面目な自分だ!! と、肩の力を抜くことができない自分を恨めしく思いながら、少女と魔物が抜けた穴埋めをするべく、早速行動に移すのであった。




次回の更新は本日16時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
リーファの姉は、スズネ➕コーガ かな? 面倒くさ度合いが凄すぎて、ウサトとアーミラが死んでまうよ
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