第二十二話
第22話です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
リーファを交えての宿での夕食。
普段は城で紹介された宿に泊まっているらしいリーファが、目を丸くしながらメルクさんの料理を口にしている姿は、なんとも微笑ましかった。
ライラも僕も料理に舌鼓を打ちながら夕食を終えると、リーファは宿の中を見回しながら何か思い悩むように唸っていたが、あれはなんだったのだろうか?
結局、次の日にギルドで待ち合わせることにして、彼女は自分の宿へと戻っていった。
「——さて、今日は冒険者として初仕事だな」
「そう緊張せずにな、カイト」
「ああ、分かってるさ」
先日、買ったズボンにシャツ、ジャケットを着た僕は、腰に巻いて固定したベルトに水筒を提げる。
キャップを外したままの水筒からは、ライムが顔を出しており、ベルトにはナイフを装備してある。
準備が整ったので、帽子に変身したシフを被った僕はライラにアドバイスされたとおりの荷物をカバンにつめてギルドへと向かうのであった。
ギルドに到着すると、そこには既にリーファの姿があった。
もう顔を隠すことはやめたのか、昨日まで着ていた黒い外套は着ておらず、黒を基調にした服と、腰と脚に巻き付けたベルトにナイフを装備させている。
僕の姿に気付いた彼女は、こちらに駆け寄ってくる。
「おはよ。カイト。それにシフとライムも」
「うん、おはよう。それじゃ、早速中に行こうか」
「そうだね」
彼女と共に、ギルドの受付へと向かう。
冒険者になって初めて依頼を受ける時は、まずは受付に話を通さなくてはいけないらしい。
いざ受付の女性へと話しかけようとすると、向こうから僕に話しかけてきた。
「お、カイト君だ」
「あ、マイさん。今日は受付をしているんですか?」
「うん、そうだよ。あ、そういえば聞いたよ。試験受かったんだって? それじゃあ、今日から初任務かな?」
「そんな感じです」
マイさんの言葉に頷くと、彼女は僕とリーファを見てから、ぱらぱらと手元の用紙を捲っていく。
「さてさて、最初に受けてもらう依頼は試験の評価とかで決まってくるんだけど……貴方達は実力的には、魔物に対処する依頼でもオッケーみたいだから……うーん、これかな」
僕達の前に一枚の紙が差し出される。
そこには依頼、と書かれており、その隣には『畑を脅かすコボルドの排除』と書いてあった。
「コボルドというと……シフ、確か犬頭の魔物だよね?」
「うむ。その通りだ」
「コボルドは大して強くないから、最初としては悪くないかもね」
初任務には丁度いい相手だな。
コボルドは、実際に見たのはオロチに噛み殺された個体だったので、本来の姿を見てみたい気持ちもある。
僕とリーファの反応に、マイさんは手元に引き寄せた依頼書に目を向ける。
「それじゃあ、この依頼でも大丈夫かな? 要望があれば、経験のある冒険者にサポートをお願いできるよ」
「あー、リーファ、シフ、どうする? サポートってやつを頼んでみる?」
「ううん。大丈夫だと思う。私とカイトでやれる」
「コボルド程度ならば、今のおぬしならば造作もないだろう。油断は禁物ではあるがな」
なら決まりだな。
冒険者としての僕達の初任務は、コボルド退治に決定した。
●
依頼された場所は、城下町から少し離れた森に近い場所。
依頼主の畑をコボルドが荒らしているらしく、その排除をギルドへ依頼したというのが事のあらましだ。
僕よりも王国の地理をよく理解しているリーファが先導して目的地まで移動する。
「シフ、魔物ってどうやって生まれるの?」
「ふむ。魔素が充満している領域で生れ落ちたり、純粋に繁殖して増えたりと、個体によって差があるな」
「魔素が充満って……」
「オロチのいた遺跡。あのような強力な魔物のいる場所には魔素が集まりやすく、自然と魔物が発生したりするのだ。因みに私とライムも、その口だ」
目的地に到着するまでに簡単な魔物の知識を教えてもらっているけれど、魔物ってのは結構不思議な生き物なんだな。
テイマーと呼ばれている僕もできるだけ魔物のことについて知っておかなければならない。
今度、ギルドで色々と教えてもらおうと考えていると、いつのまにか周囲の景色が建物が並んでいるものから、背の低い草や作物らしきものが生い茂っている畑のようなものへと変わっていた。
「依頼によると、ここらへんだね」
「ここか」
例えるなら、田舎の街並みを抜けたらすぐに畑だらけの田園風景に移ってしまうアレだ。
もう僕のいた世界と変わりないくらいにのどかな田舎の景色だ。
麦らしき作物が風でゆらゆらと揺れているし、川も流れている。
小さい頃に行った、田舎にある父さんの実家のことを思い出して、周囲の光景に目を奪われる。
「カイト、ここらにコボルドがいるはずだ」
「ん、あ、ああ」
シフの声に我に返る。
コボルドは畑の作物を荒らしまわっているらしく、被害も尋常じゃないらしいな。
それがほぼ毎日続いているとなると……すぐに見つけられそうなものだけど。
そう思い、周囲を見回しているとリーファが僕の肩を叩いてきた。
「カイト、あっちに何かいる」
「うん?」
リーファが指さした方向を見ると、少し離れた畑に人型のなにかが暴れまわっていた。
目を凝らせば、犬のような頭に毛むくじゃらの身体のモンスターが、畑の作物を食い荒らしている。
「あれが、コボルド?」
「うん、そう。早速、追い払おう」
リーファがナイフを引き抜く。
僕も腰の水筒にいるライムに右手を差し出し、棍棒へと変形してもらう。
「殺さなくてもいいんだよね?」
「うん。依頼はあくまで追い払うだけだから、少し痛い目を見せるだけでいいの」
「よし、そういうことなら……シフ、頼む」
シフが僕の身体に肉体強化の魔術をかけてくれる。
「カイト、戦いの時は私から遠く離れないようにして」
「ん? どうしてだ?」
「貴方の魔力で私が冷静に戦えるか、試してみたいから」
「……分かった」
シフに魔力を吸い取られ、体に力が漲ってきていることを確認した僕はリーファの言葉に頷き、作物を食い荒らしているコボルドの元へと突撃を試みる。
コボルドは五匹。
数では負けているけど、僕達ならいける。
「まずは初手……!」
ベルトから三本のナイフを引き抜いたリーファが、コボルドへとそれらを投げる。
ナイフは的確にコボルドの足や手に直撃し、怯ませる。
「フンッ!」
そこに棍棒に変形したライムを横薙ぎに振るい、コボルドの胴体に叩きつける。まず一匹。
「カイト、あまり力を入れ過ぎるな! 手加減だ!」
「ああ!」
本気でやれば容易く殺してしまう。
依頼の要件はあくまで追い払うことだ。
それを今一度、頭に叩き込みながら、続いて噛みついてくるコボルドの胴体に突きをいれる。二匹目撃退。
「そぉい!」
「ぎゃん!?」
「「グルゥゥゥ!」」
地面へ叩きつけられた一匹と入れ替わるように飛び掛かってくる二匹のコボルド。
すぐさま対処するべく棍棒を引き戻すと、ナイフを持ったリーファが横から飛び出した。
「……いける!」
彼女がすれ違いざまにナイフを振るうと、痛みに悶えたコボルド二匹が着地できずに地面へと転がった。
見れば、腕と胴体にはナイフでの切り傷が刻みつけられており、あの一瞬で何度も切りつけていたようだ。
砂煙を上げながら地面に着地したリーファは、自分の胸に手を当て、安堵の息を吐いている。これで四匹。残り一匹は……
「カイト、後ろから襲ってくるぞ!」
「っ! ライム!!」
「キュ!」
シフの声に背後へと意識を向けながら、ライムを籠手の形へと変形させる。
そのまま背後からの噛みつきを籠手で受け止める。
ライムの変身した籠手はコボルドの牙なんて通さないが、涎がべっとりとへばりつく。
「ギャッ、がうぅぅ!!」
「キュ、キュ―――!?」
「ごめん、ライム。ちょっと、我慢してて、ねッ!!」
肉体強化に任せ、喰らいつかれた右腕を振り回して地面へとコボルドを叩きつける。
ぎゃん、という悲痛な叫びをあげ痛みに悶えたコボルドに、他の奴らが何かを伝えるように鳴く。
警戒を解かずに、棍棒へと戻したライムを構える。
「シフ、なんて言っている?」
「どうやら、懲りて逃げるようだぞ」
「……案外、あっけないな」
シフのいう通り、コボルドたちは僕達に怯えるような視線を向け、足を引きずりながらその場から逃げ出していった。
残されたのは荒らされた畑と、戦闘を終えた僕とリーファの姿のみだ。
「ふぅ……戻っていいぞ、ライム」
「キュ!」
「お疲れ様、今回も助かったよ」
水筒に戻ったライムと頭のシフを労いながら、ナイフをベルトにしまったリーファに近づく。
短いながら、先ほどの戦闘を見たところでは、我を失っているような感じはしなかったけど……。
「リーファ、平気か?」
「うん、平気。前はすぐに胸の奥がざわざわして落ち着かなかったけど、さっきは自分の意志で戦えてた」
「カイトの魔力はおぬしの魔物の力をうまく鎮静化させたようだな」
彼女はどこか感動したように自分の掌を見てから、何かを決意したようにぎゅっと握りしめた。
「ともあれ、これで任務完了だな」
「うん。初陣としては、まずまずだな。コボルドもこれで懲りただろうし、当分は畑には近づかないことだろう」
「この調子で、どんどん依頼を受けて冒険者の仕事に慣れていきたいなぁ」
何をするにも元手が必要だからな。
それに強くなることも大事だけれど、たくさん依頼をこなしてギルドの信頼を得ていかなきゃならない。
「それじゃ、リーファ。ギルドに依頼の成功を報告しにいこうか」
「うん」
今一度、コボルドがいなくなったことを確認しながら荒れ果てた畑を後にする。
畑の間の道をゆっくりとした歩調で歩いていると、シフが帽子から黒猫へと変身し、トテトテと僕達の少し先を上機嫌で歩き始めた。
「ねぇカイト。私、やっぱり決めた」
「どうした?」
そんなシフを微笑ましく見守っていると、リーファが固い声で告げる。
彼女はまっすぐ先を見据え、やや緊張した面持ちで僕へと話しかける。
「私、貴方がお世話になってる宿に引っ越す」
「……え、なんで?」
「ご飯も美味しいし、なにより貴方がいる。それだけで行く理由になる」
もう決めたことなのだろう。言葉にも表情にも、かなりの決意が見て取れる。
それなら僕に何も言うことはない。
彼女の目的を知り、僕はそれを助けたいと思った。
「その前にまずは報酬だなっ! いやー、いったいどれくらいもらえるんだろう!」
「それほどはもらえないよ? 二人で山分けするから、もっと少なくなる」
「嘘だろ……」
とりあえず今は、自分にできることをやっていこう。
よし、これからじゃんじゃん依頼を受けていくぞー!
次回の更新は明日の午前10時を予定しております。




