第二十一話
第二十一話です。
ギルドで正式に依頼を受けることができるようになるのは、数日ほどかかるらしい。
ベルセさんに改めてお礼をいい、退出した僕達がギルドの一階へと降りていくと、僕達のことを待っていたライラが待っていましたと言わんばかりの勢いで駆け寄ってきた。
「カイト君、どうだった? 二次試験!」
「うまくいったよ。この通り、冒険者としての証ももらえたし」
「おお、早い! ん? 君は、えーと……」
ライラの視線がリーファへと向けられる。
彼女は今まで被っていたフードを外しているので、頭に生えている獣耳? が見えてしまっている。
「私は、リーファ・ウルガル。彼と試験を一緒に受けてた……」
「あ、あのフードの子だね! 私はライラ、よろしくね!」
「よ、よろしく」
おずおずと返事をするリーファをジッと見つめるライラ。
「うーん、可愛い!!」
「あ、え?……あ、ありがとう?」
常に元気いっぱいのライラにリーファも呆気に取られている。
リーファが助けを求めるように僕を見てきたので、僕から彼女のことを説明する。
「ちょっと色々あって、僕はリーファと組むことになったんだ」
「そうなんだ。まあ、同期で組むのは結構よくあることだからね。互いに助け合えるし、いいと思うよ」
そう言ってくれたライラは、僕とリーファを交互に見て嬉しそうにする。
彼女としても、ギルドの仲間が増えるのは嬉しいことなのだろうか?
「それじゃ、今日の宿での夕飯はご馳走だね」
「え? ご馳走って……」
「今日のために、メルクさんに豪勢な夕食を作るように頼んでおいたんだ。受からなかったら、まー、反省会みたいな感じで、やればいいし」
ぼ、冒険者になれてよかった。
落ちて沈んだ気分のまま、メルクさんの美味しいご飯を食べることにならなくて。
話が呑み込めないのか、リーファが僕に話しかけてくる。
「宿での夕食って?」
「そのままの意味だよ。僕とライラがお世話になっている宿で、夕飯を作ってもらっているんだ。迷惑じゃなければ、君も来るかい? 一人くらい増えても問題ないと思うけど」
「……そういうことなら」
乗り気なのか、こくりと頷くリーファ。
すると、今まで黙り込んでいたシフが僕の足元から話しかけてきた。
「カイト」
「ん?」
「これから、冒険者としての装備を整えにいかないか? 今のままのみすぼらしい服装では、恰好がつかないからな。せめて、私が変身した帽子の似合う服を見つけよう」
そういえば、オロチの遺跡でそんな話をしたな。
たしかに今のままのラフな格好じゃ、冒険者としても恰好がつかない。
ギルドの人達も、ナイフがさされた革製のベルトや、ローブやコートを着ていて、僕のような格好をしている人は一人もいない。
多少のお金はかかるけど、冒険者になって収入も入るから、少しくらい散財しても問題はないかな。
「じゃ、用意しにいくか?」
「うむ!」
嬉しそうに頷いたシフ。
彼から視線をライラへと戻す。
「僕はシフと一緒に武器屋の方を見てくるから、君は先に宿にいってても構わないよ」
「うん、分かった。リーファはどうする?」
「私は……」
リーファは、ちらりと僕を見る。
「私も予備のナイフを用意したいから、カイトと一緒に行く」
「そっか、なら私は先に戻ってメルクさんに色々伝えとくね」
そのままギルドでライラと分かれた僕達は、自分の記憶に従い、以前ライラに教えてもらった武器や防具の売っている店へと移動する。
場所はギルドからそう遠くはなく、五分ほど歩くとレンガ造りの大きめの建物の前にたどり着く。
刃物などの危険物を取り扱っている店なので、少しばかり緊張しながらリーファと共に中へと足を踏み入れる。
「おお……」
「圧巻の光景だな」
「キュ……!」
店の中を見て、僕、シフ、ライムが感嘆の声を漏らす。
剣、槍、棍棒、ナイフ、盾、鎧、重そうなものから軽そうなものまで、沢山の武器や防具が置かれている。その中には戦闘用の服なども置いてあり、品揃えも豊富なように見える。
カウンターには、眠そうな顔をした五〇代ほどの男性が座っている。
男は、僕の足元と肩にいるライムとシフに気付くと、煩わしそうな表情を浮かべる。
「テイマーか。使い魔に好き勝手させるなよ」
「あ、はい」
まあ、この子達が騒ぎを起こさないのは分かっているけど、一応頷いておく。
とりあえず、リーファと共に店内に並ぶ武器を眺めていこうとすると、肩にいるライムが右腕の方へと滑り落ちてくる。
「ん? どうしたライム」
「キュ、キュ―――ッ!」
「なにか言いたいみたい?」
ふるふると身体を揺らし、何かを伝えようとしてくるライムに僕もリーファも首を傾げると、足元のシフが僕の肩へと飛び乗ってきた。
「カイト。手近な武器を持ってくれ」
「え? わ、分かった」
店主らしき男性に許可をもらった後に、手近な剣を左手で持つ。
すると、ライムがジッと左手に持った剣を見つめ始める。
十秒ほど過ぎたところで、ライムは見上げる。
「どうやら、おぬしの魔力を使わせてほしいといっているようだ」
「えーと、騒がない?」
「キュッ!」
「心配ない、と言っている」
とりあえず何をするか気になるので、ライムに僕の魔力を吸い上げることを許可する。
僕の身体からライムの身体へと魔力が流れ込んだその瞬間、ライムの銀色の身体が変形し、左手にある剣と同じ剣に変形し、右手に収まる。
「武器をコピーしたのか!?」
「おお、ライムは一度見た武器の形を真似ることができるのか。これは戦闘の幅が広がるな」
シフの言葉に、ライムは身近にある槍に変形する。
長い柄の先端に、鋭利な刃が取り付けられた槍―――目の前にある槍と、ライムが変形した槍を見比べながら、驚いていると、僕と同様に目を丸くしたリーファが、ライムを指さす。
「カイト。この子、本当にスライムなの? さっきの戦いでも思ったけれど、貴方の使い魔、色々とおかしい気がする」
「おかしいのは自覚しているが、カイトの力あってのことだぞ?」
「キュー!」
「じゃあ、おかしいのは……カイト?」
待って、どうしてそうなる?
そんな可愛く首を傾げられたら「うん」って頷きそうだけど、違う。
「キュっ!」
「ん? どうした?」
槍から元の姿へ戻ったライムが、何かを指すように一方向に体の向きを変えている。
その方向を見ると、そこには鉄製の水筒があった。
冒険者用なのか、ベルトも一緒についており、腰から下げられるような仕様になっている。
とりあえず、ライムの示した通りにそれを手に取る。
「キュっ! キュー!」
「カイト、ライムはどうやら、その筒の口を開いて欲しいようだ」
「? 分かった」
幅の広い口を開けると、待っていましたと言わんばかりにライムが水筒の中へと飛び込んだ。
そのまま全身を水筒へ入り込ませたライムは、開けた口から自身の頭を出して、嬉し気に鳴いた。
「キュ♪」
「すっごい落ち着いてる……可愛い」
「スライムは、暗く狭いところを好む傾向にあるからな。しかし、これに入っていれば注目を集めることもなくなるかもしれないな」
最初は驚いたけど、シフのいう通り、ライムを腰に下げた水筒にいれておけば注目されることもなくなるかもしれないな。
幸い値段もそれほどでもないので買おう。
「あとは、僕の服だけか」
買う水筒を抱えながら、冒険者として活動するための服を探す。
ナイフを探しにきたというリーファも「ナイフは使い捨て用だから、すぐに買える」といって、なぜか一緒に探している。
「カイト、これは?」
「え? ……っ!?」
早速何かを見つけたのか、リーファはバサッと音を立てて大きめの服を僕へと見せてくる。
なんだろう、と思い軽い気持ちで、そちらを見て―――一瞬、呼吸が止まる。
それは、黒いコート。
しかも用途不明のベルトとかボタンとかめっちゃついてるやつ。
男心をくすぐられるタイプの、めちゃかっこいいコートだ。
きっと、帽子に変身したシフとマッチするであろうソレだが———それを着るには僕は勇気が足らなかった。
「そ、それはっ、もう少し後で買う」
「そう? かっこいいと思ったのに」
とりあえず、最初は見た目よりも機能美を優先させよう。
そうだ。
この前に見た一昔前の映画を思い出すんだ。
鞭を巧みに操り、迫りくる危険を知識と機転で乗り越える主人公の映画だ。
シャツに紺のジャケット、そして動きやすさを重視させたズボン。
無駄なカッコよさを省いたチョイスでいく……!
シュババッ! と服を手により、並べてシフに見せてみる。
「これでいく……! どうだ、シフ!!」
「カイト、リーファが選んだやつでいいのではないのか?」
「……」
「あ、いや! おぬしの選んだものも悪くはない! 悪くはないのだが……」
チラチラとリーファが持っている黒いコートを見て、名残惜しそうに呟くシフに無性に泣きたくなるのであった。
結局、今日店で買ったのは、護身用のナイフに水筒、そして冒険者用の服一式と―――黒いコートでした。
中々に値が張ってしまったけれど、後悔はしていない。
後悔はしていないのだが、黒いコートはまだ着ない。
というより、羞恥的な意味で着ることはないかもしれない。
ライムin水筒な話でした。
ライムの能力は割と壊れ性能です。
次回の更新は本日16時を予定しております。




