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第百九十話

第百九十話です。

 ハクロを助ける。

 その一心で、彼の背に乗りなんとか鎮めようと試みたが、僕の純魔の力を以てしても効果はなかった。

 それどころか、背に乗っている僕を煩わしく思っているのか先ほど以上に暴れており、しがみついているのも限界に近いほどに振り回されていた。


「くっ、やっぱり無理か!」

「キュッ、キュゥ!」

「ライム、一旦離れる! 無理はするな!!」


 このままでは精霊を縛り付けているライムの体が千切れてしまうかもしれない。

 そんなことは絶対に嫌なのでライムに拘束を外すように指示し、ハクロに振り落とされる形でその背から離れる。


「ッ、うぐ……寒ッ!?」


 地面を転がると、冷たい風が後ろから吹いてくる。

 ———リーファとニーアの気配が変わった?


「な、なんだ……」

「カイト、あちらで戦況が変わっているぞ」


 ハクロを警戒しつつ、リーファの方を見る。

 彼女たちが戦っていた場所では、局所的に吹雪が起こり地面からはリーファの形をした黒い影が延々と湧き出ては消えてを繰り返している。


「地獄、かな……?」


 中では獣のような唸り声を上げながら二人が戦っている。

 ……って、ちょっと待って、あの二人こっちに近づいてきているような―――、


「ウゥゥ!」

「ガァァ!」

「待て待て待て!!」


 最早、肉食獣同士の殴り合いじみた戦いをしている二人が、取っ組み合いながらこちらへ飛んでくる。

 彼女達の移動に合わせて吹雪と影でできた人影が迫っている光景を目にした僕は、剣に炎を纏わせ、迫った冷気を払う。


「あ、危なすぎる……!」


 僕の姿に気付いた二人が同時にこちらを見る。

 リーファは黒い魔力に包まれ、ニーアは白い魔力に全身を包まれている。

 輪郭こそ人ではあるが、その顔も輪郭こそ分かるが、判別できる部分は淡く輝く目と口しかない。

 そして、何より―――、


「寒……ッ!」

「シャァァ……」


 寒さに苦手なのかユランが辛そうだ。

 炎を纏った剣を、左手に持ち替えユランを温めながら、どうにかしてこの状況をなんとかできないか思考する。

 ニーアの魔物としての力を覚醒させた能力は、恐らくこの無差別に吹き荒れる吹雪。

 自身の有利な環境を作り、圧倒的な身体能力と魔法で敵を凍らせ砕く、攻撃的な能力だ。


「カーイト君っ!」

「ッ」


 ニーアが僕へと標的を変え、飛び掛かってくる。

 表情は分からないが、嬉々として僕に噛みつきにかかっているのは分かるので、慌ててライムを籠手にさせ、ユランの防御と合わせて止める。


「君もリーファと同じかぁ!!」

「ちょぉっと魔力もらおうかな!」


 嬉々とした噛みつきを焦りながら避ける。

 や、やべぇ、魔物の力をかなり解放しているからか肉体強化をした僕の力を上回っているぞ……!?


「シフ、電撃!」

「うむ、カイトから離れろ!」


 掴んでいる手から電撃が流される。

 一瞬の放電と共に、ニーアの身体が痺れるが彼女はすぐに平気な様子で顔を上げる。

 普通の電撃じゃ怯みもしないか……!


「ちょっと痺れたけど、効かないなぁ!」

「まさしく、耐久力ゴリラか……!」

「え」


 なぜか動揺するニーア。

 そこでリーファが強烈な飛び蹴りを彼女に浴びせ、吹き飛ばす。


「カイトが来ると姉さんがパワーアップするからどっか行ってて!!」

「無茶言うな!!」

「リーファァァ!! 完全に刷り込まれてるじゃんか!! もう許さないからね!!」


 あっちはなぜか怒り心頭だぞ!!

 ニーアが、おもむろに掌を上に掲げると、彼女の傍に先ほど僕が背に乗っていたハクロが現れる。

 無言でニーアを見下ろしたハクロは、そのまま風そのもの姿に変身し―――ニーアへと吸い込まれるように、消えていく。

 その次の瞬間、吹き荒れる吹雪がさらに強くなり、ニーア自身の身体に風が纏われているのが見える。


「ハクロを纏った……!? シフ、なにが起こってる!?」

「恐らく、ハクロを装備のように自身に纏わせ、能力を向上させたのだ!」


 無理やり使役した上に、道具のように扱っているのか……!


「なんてとんでもないことをする奴だ……!」

「装備に関してはカイトがいつもしてることじゃ……?」


 リーファの呟きをスルーしながら、ライムを薙刀へと変化させる。

 刃には炎を纏わせ、勢いよく振るった僕は自身の内にいるハクロを、ニーアと同じように自身に纏わせる。


「ハクロ、君の本体を助ける! 力を貸してくれ!!」

『ウォン!』


 ニーアほどではないが、自身の動きの補助と、肌を突き刺さんばかりの吹雪を防いでくれる。

 冷気は肉体強化で耐える!!


「リーファ、やるぞ!」

「うん!」


 二人一緒に武器を構えると、ニーアの姿が一瞬で掻き消える。

 ———、上か!


「大傘!」


 リーファをこちらに引き寄せ、上からの攻撃をライムが変形した傘で防ぐ。

 上から衝撃が叩きつけられたところで、リーファが傘から飛び出し影でできた刃を伸ばすが、それらはニーアの姿を捉えることができずに空を切る。


「その程度じゃ当たらないよっ!」

「数で攻める!!」


 リーファの足元から何人もの人影が飛び出し、周囲へ散らばる。

 風の力で高速で動くニーアの動きを予測しながら、散らばらせた分身と自身の位置を連続して入れ替わりながら彼女を追っていく。


「いい加減にしつこい! 観念して捕まったら!?」

「もっと楽しみたいから嫌だね! そぉッ、っら!」

「ッ」


 影で捕えようとするリーファの攻撃を避けたニーアが空中で反転しながら冷気を纏わせた蹴りを叩きつける。

 蹴りを受けたリーファが影に沈み込んだところを目視しながら、僕は全力の肉体強化で着地したニーアへ薙刀を振るう。


「リーファ!」

「うん、挟み撃ちにする!」


 僕の攻撃と合わせて、ニーアの影から飛び出したリーファが爪を繰り出す。


「甘い甘い!」


 しかし、ニーアはその場で風を解放させ僕とリーファの身体を吹き飛ばした。

 ……ッ、寒さで感覚が鈍ってくる。

 影に包まれているリーファはまだしも、このままじゃ僕も肉体強化の限界が来てしまう。


「なるべく早く決着をつけなくちゃ、こっちが終わる……!」


 そうなれば、最悪僕が魔王軍に連れ去られる危険がある。

 それだけは絶対に嫌だ。

 僕の純魔の力を魔王軍に利用されるようなことがあってはならない!


「純魔……? そうか、その手があったか!」

「カイト、ま、また何かをするつもりなのか!?」

「ああ!」


 使い魔達に小声で作戦を伝えた後に、リーファの攻撃を舞うように避けているニーアを睨みつける。

 僕の速さじゃニーアを捉えられないなら、彼女からこっちに来てもらえればいいだけだ。

 僕は掌に純魔の魔力を集めた魔力弾を作り出す。


「純魔玉!」

「「むんっ!?」」


 リーファも釣れてしまったが、そのまま純魔の魔力を自身へ押し当てる。

 すると、リーファに風を当て吹き飛ばしたニーアが、尋常じゃない速度で襲い掛かってくる。


「純魔に惑わされたなァ!!」

「……ハッ!? 危なぁ!?」


 カウンター気味に突き出した薙刀が避けられる。

 ッ、当たる直前で我を取り戻したか。

 だが、まだ作戦は続いている。


「これぞ囮技! 純魔ホイホイ!! 魔物が寄ってくるだけの利点のない技だ!」

「それ、自分で言ってて悲しくならない……?」


 普通に同情されてしまった。

 軽く傷つきながら、ニーアに指を突きつける。


「君は否が応でも僕に意識を向けざるを得ない!!」

「それは私に襲われるってリスクを分かっているのかなぁ!!」

「———今だ!」


 まあ、襲ってくるよな、と思いながら僕は使い魔達に合図を送る。

 瞬間、僕の魔力を吸い上げたライムが大きくなると同時に変形し、僕の頭からつま先までを覆う。

 騎士の全身鎧。

 その上から、ユランが重ねた魔力の壁を作り出し、覆ってくれる。


「なっ!? そんなもので!」


 氷を鋭利な爪の形状にさせ、叩きつけてくるニーア。

 しかし、それはユランの魔力とライムの鎧により弾かれ、中にいる僕には衝撃すらも伝わってこない。

 それどころかニーアの手の氷を粉々に砕くほどの硬度だ。


「どうだ! これぞ鉄壁のテイマーズアーマーだ!」

「か、硬い……!?」


 痺れたように手を動かし、涙目になっているニーア。

 これぞミスリルスライムと魔力の壁によって実現した最高強度の鎧だ。

 見た目も相まって最高なので、僕は普段しない高笑いをする。


「君が最速なら僕は最硬だ! ふははは!!」

「カ、カイト」

「ははは……ん、どうした、シフ?」

「鎧はいいのだが……どうやって、その場から動くのだ……?」


 ……あれ? 身体が動かない。

 全身をライムで覆って鎧としているのはいいんだけど、ライムの変形の都合上、手甲も甲冑もなにもかもが繋がっているので関節がない。

 ……。


「リーファ、助けて! 僕も動けない!!」

「バカなのカイト!?」

「え、えぇ……?」


 逆に困惑したニーアが動きを止めている間に、僕の身体はリーファの影に呑み込まれる。

 次の瞬間には、少し離れた場所に転移してくれたのでそこでテイマーズアーマーを解除させる。


「ありがとう、助かった。……くっ、やってくれるな。君のお姉さんは」

「……」

「……ごめん」


 変身した状態でも分かる、呆れた表情。

 とりあえず謝りながら、ニーアを見る。


「でも、純魔の魔力で引き寄せるのは戦略としてアリだ」

「私は慣れてるから、耐えられる。カイトの魔力で姉さんが強化されちゃう危険もあるけど……あの人を捕まえるには、それくらい危険を冒さなくちゃならない」


 あと、もう一手必要だ。

 確実にニーアの隙を作り出せる、何かが。


「……あれを、試してみるか」


 数ある手札の中の一つを思い出す。

 効くかどうかは分からないけど、試してみる価値はある。


鉄壁のテイマーズアーマー。

強くて硬いが動けぬ、そんな技です。


土日の更新はお休みとなります。

次回の更新は月曜を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] て、テイマーズアーマーはガントレットとか盾1枚にぎょうしゅするとかするべきなのでは…もしくは空中からのボディプレスとか掴み、固め、締めとかの最中に発動とか…ニーア戦なら1度掴んだら絶対に離さ…
[一言] アストロンじゃん……
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いてます [気になる点] ライムの変形で関節を曲げれば継ぎ目の無いパワードアーマーになるのでわ?
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