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第百十五話

第百十五話です。

 大変な相談を受けてしまった。

 行き倒れていたエルフの女性、イリスさんがギルド長のベルセさんの実の娘だなんて……本当に衝撃の事実だ。


「下手なことはしない方がいいよな……」


 部屋から退出し、シフとライム、そしてユランを待たせているギルド一階の酒場に向かう。

 力にはなりたいけど、僕が余計なことをしてベルセさんとイリスさんの仲を悪化させたくはない。

 ベルセさんの心の準備ができるまで、僕はイリスさんがこの街にもっと馴染めるように助けていこう。

 そう決意しながら、ユランたちのいる酒場の席に到着すると、そこにはユランたちと―――、


「やあ、カイト。ギルド長から呼び出されたと聞いたが、大丈夫なのか?」

「え、ええ……イリスさん……大丈夫です」


 やべぇ。

 予期せぬ遭遇に変な反応を返してしまった。

 朝までは普通に接することができたはずなのに、ベルセさんの話を聞いた後は挙動不審になってしまう。


「む、どうした? カイト、なにかあったのか?」

「いや、なんでもないよ。ベルセさんには、相談事をされただけだから」

「ふむ……」


 僕の異変を察知したシフが訝し気に見てくる。

 ベルセさんの相談事については、あとでシフに話すので今は気にしないで欲しい。

 小さく深呼吸をしながら、ライムを掌にのせているユランの隣に座る。


「ごめんね、ユラン。待たせちゃって」

「!!」


 気にしていないと手を横に振ってから掌のライムを渡してくれる。

 水筒を肩にかけると、そこにライムが入り込んでくる。

 すっぽりと水筒に収まったライムに微笑みながら、イリスさんへと話しかける。


「今日の依頼はどうでしたか?」

「初めての魔物の撃退依頼だったが、無事に成功させることができたよ」

「それはなによりです」

「コボルドを撃退するだけの簡単なものだから、そこまで難しい依頼じゃないがな」


 最初に宿に運び込まれた日の夜と比べると、イリスさんの表情は生き生きとしているように見えた。

 彼女が目を覚ました直後は、本当に目に生気がなく、弱々しかった。


「……マイというギルドの受付の者から聞いたのだが……」

「はい?」

「君は、以前は魔物の討伐や撃退を主として依頼を受けていたらしいじゃないか」

「あー、はい。そうですね、少し前はそっちメインの依頼を受けていました」


 まあ、疑問には思うだろう。

 周りの人から見ても、僕とリーファは一時期たくさんの依頼を受けていたわけだし。


「今はどうして戦闘系の依頼を避けているんだ? 私から見ると、君も相当な実力を有していると思うのだが……」

「事情があって、今は戦いから離れているんです」

「嫌でなければ、聞いてもいいかな?」


 ぐいぐい聞いてくるな……。

 幾分か知っている仲だから気になるのだろうか?

 シフに軽く目配せしてから、誤魔化しながら簡単に話すことにする。


「今まで使っていた力が成長したんですけど、逆に危険がありすぎて迂闊に使えなくなってしまって……ははは」

「それは……難儀だな」


 実際は扱いやすくなりすぎて使えないんだけどね。

 気軽に使えるようになった分、デメリットが追加されたとか全く笑えないけども。

 ……質問に答えたわけだし、ここは自然に質問を返しても……怪しまれないよね?


「僕も聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」

「ああ、構わない」

「イリスさんは、ヘンディル王国に来る前……魔王軍に捕まる前は、どうしていたんですか?」


 にこやかな笑みを浮かべていたイリスさんの表情が強張る。

 その反応に、しまった、と思う。


「なぜ、それを聞いてくるんだ?」

「いえ、純粋に気になってしまって……あ、言いたくないことならいいですけど―――」

「いや! そんなことはない! 断じて私に隠し事なんてないぞ!」


 無茶苦茶動揺した様子のイリスさん。

 もしや、触れられたくない過去でもあるのか?


「私は、故郷の集落から家出したんだ」

「家出って……どうして……」

「私にとっては碌でもない場所だったから、としか言えないな。元より、両親もいない孤独な身で守ってくれる大人もいなかったからな」

「イリス殿も苦労したのだな……」


 シフが同情する視線を向ける。

 先程のベルセさんの話を聞いた身としては、イリスさんは母親を亡くしたあともエルフ族からよくない扱いを受けていたと予測できてしまう。


「あの、ご両親は……?」

「母は病で、父は私が五歳の頃にいなくなった」


 僕が表情を強張らせたのを見たイリスさんは、困ったような笑みを浮かべる。


「気に病むことはない。正直な話、あんな場所に居続けた母も、いなくなった父にも……今更、思うところなんてない。強いて言うなら、あんな場所に置き去りにしたことを恨んでいる……かな」


 そう言葉にしたイリスさんの表情は、どこか悲し気だった。

 決して思うところがないような様子ではなかった。

 そんな彼女を見て、なんともいえない気持ちを抱いていると、ふとイリスさんの背後、一つのテーブルを挟んだ場所に見覚えのある大きな背中を見つける。

 ———ベルセさんだ。

 しかも思いっきり聞き耳を立てて、そわそわしてる。


「む、カイト、どうした?」

「え、い、いやぁ、なんでもないよ……」


 シフに誤魔化しながら、イリスさんへと向き直る。

 彼女の話は、よりにもよって両親への愚痴へと変わっていた。


「大体、母はともかく父は私達を置いて出て行ったろくでなしだ」

「い、イリスさん」

「母は優しいとか抜かしていたが、どうせどこぞの軽薄な男に違いない」

「そ、そんなことはないんじゃないですか?」


 リアルに言葉が突き刺さるように肩を震わせるベルセさんを見ながら、せめてものフォローをするも、イリスさんは首を横に振る。


「君は本当に優しいな……。だがな、世の中にはどうしようもないやつらがいるんだ。父も、きっとその中に入っているだろう」


 それがとどめになったのか、ベルセさんはそのままテーブルに倒れ伏してしまった。

 異変に気付いた給仕の女性が、駆け寄るもベルセさんは身体をふるふると震わせている。


『ギルド長!? 胸を押さえてどうしたんですか!?』

『う、うぅ、私は、だめな、父親だぁ……!』

『か、過呼吸気味だぞ!? ち、治癒魔法使い! ニトさんを呼ぶんだ!!』

『ギルド長ォォォ!?』


 大騒ぎだ。

 ギルド長の人望が凄いのか、どんどんギルド内の冒険者たちが彼のために動いている姿を見た僕は、思わず白目をむいてしまう。

 すみません、すいません……! ベルセさん……!


「む、どうしたのだろうか? ギルド長になにかあったようだが、見に行ってみようか?」

「いえ! このままじゃ、移動の邪魔になりそうなので、僕達は宿に帰りましょう!」

「あ、ああ、そうだな」

「ユランも、帰ろうっ!」

「!」


 このままじゃさらにおいうちをかけることになりそうだ。

 不思議そうに首を傾げたイリスさんが、カバンを肩にかけながらギルドの出口から出ていく。

 その後ろをついていくと―――何を思ったのか、シフが僕の肩に跳び乗ってくる。


「では、聞かせてもらおうか」

「え?」

「ベルセ殿から聞いた話だ。イリス殿と関係があるのだろう?」


 ……やっぱり、シフ相手には隠し事は無理か。

 この世界に来た時からずっと一緒にいるから、僕が隠し事しているのも分かっちゃうんだろうな。


「帰ってから部屋で話すよ。できるだけ、イリスさんには聞かれたくないから」

「うむ、了解した」


 今はイリスさんが前を歩いているからな、怪しまれて最悪の形で秘密をバラしたくない。

カイト「魔王軍に捕まる前はなにを?」

イリス(……まさか怪しまれてる!?)


あと少しで状況が動かせそうですね。

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― 新着の感想 ―
会いに来てたのに……。ギルド長が可哀相ですw
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