あなたたち魔族のことを知りたい
金ぴかの椅子に座ったクレアは、脚を組む。大人の真似をしたがる子供みたいだ、とリタは思った。
一方、リタに叱られたニーナとジャグはその前で正座をしている。特にジャグは、怯えた目でクレアを見つめていて少し痛々しい。
「可愛い子の膝の上に可愛い子が!」
懲りないニーナはそう言って目を輝かせる。居場所のなかったフィルが、クレアの椅子に座っているのが原因だ。
豪華な椅子にフィルが座り、その上にクレアが座って脚を組んでいる。確かに可愛らしい光景ではあるが、散々叱られた大の大人が言うことだろうか、とリタはため息をついた。
「あのねぇ、小さいけどクレアさんは王様なんだよ? どれだけ迷惑かけたか、まだわかってないの?」
話の流れとはいえ、小さいと言われたクレアはショックを受ける。そんなクレアの頭を、フィルは静かに撫でた。リタは失言に気付いていないようだ。
「でも、リタの力を借りずに仲良くなりたかったの」
「お母さん、何言ってるの」
眉を下げたニーナに、リタはすかさずツッコむ。涙のせいで充血した目でキッと睨んだ。
まあまあ、とクレアはリタを抑え、ため息をついた。
「君たち、もっと早く名乗ればこんなことにはならなかったんだぞ?」
そう言って、呆れた顔でクレアは脚を組みなおす。そんな些細な行動にもジャグはビクリとした。何をそんなに怯えているんだ、とクレアは苦笑いする。
「まあ、この国に来るの構わないんだが、紛らわしいことはしないでくれないか」
「すみませんでした!」
本日何度目の謝罪だろうか、ジャグは地面に擦り付けるように頭を下げる。あまりの勢いに、クレアは顔をひきつらせた。
「そんな顔も可愛い!」
夫が横で土下座しているにも関わらず、ニーナは前のめりで目を輝かせる。その発言にクレアは表情を歪めた。よくこの二人からまともなリタが生まれたな、と不思議な気持ちになってジッとリタを見つめる。
「なんですか?」
「あ、いや、何でもないんだ。 まあ、とりあえず解決もしたことだし――」
クレアがそう言いかけると、何かを察知したようにフィルのお腹が鳴った。
「――ご飯にするか」
「するー!」
フィルはクレアを抱いて立ち上がる。キャッキャと楽しげにじゃれる二人にニーナが混ざろうとしたのを、リタはギリギリで制止した。
リタが、母親をクレアとフィルに近づけないように注意を向けていた甲斐もあってか、夕食は和やかに行われた。怯えていたジャグも少しずつ打ち解け始め、旅の思い出を笑って話すまでになった。
夕食を終え、リタとフィル、ニーナとジャグというペアで部屋が与えられた。いつもなら自室にリタとフィルを招いて一緒に寝るのだが、威厳を見せたいためか今日は一人で寝ることにしたようだ。
クレアは自室のベッドに倒れ込み、ここ二日のことを思い返す。
――侵入者が!と慌てたイアンの声、あれが始まりだった。イアンもあんな慌てた声が出るんだなあ。
思い出してフフッと笑った時、部屋のドアが叩かれた。
「誰だ?」
慌てて体を起こし、ドアの向こうに尋ねる。静かに開かれたドアから、ニーナが顔をのぞかせた。
「少しお話しできませんか?」
夕方とは違う真剣な顔を見せたニーナにクレアは驚き、恐る恐る頷いた。
クレアはニーナを連れて庭に出た。昼間の日差しはなく、心地よい風が吹いている。
「どうしたんだ?」
「私たち人間は魔族であるあなた方のことを知らなすぎます」
ニーナは年相応の落ち着いた口調でクレアに話しかける。
「ああ、それはお互い様だろうな」
「ここへは魔族のことを知るために来ました。ま、魔王様がこんなに可愛い子だったなんて大収穫だわ」
「ひいっ」
真面目な口調に油断していたクレアは、ニーナが突然頭を撫でたことに飛び上がる。ニーナは苦笑いで頭から手を離した。
「こっちに来てわかったんですけど、街の見た目だけでも大きく違います」
「そうなのか」
「より一層、あなたたち魔族のことを知りたいという気持ちが膨らみました」
「何が言いたい?」
ニーナの煮え切らない口調に、眠たいクレアは少し鋭い口調で尋ねる。
「もう少しこの国に滞在させてもらえませんか?」
ニーナはより一層真剣な顔でクレアを見つめ、頭を深く下げる。その真っ直ぐな眼差しに、クレアは一瞬たじろいだ。
しかし、すぐに笑顔になる。
「断る理由がないだろう! 狭い国ではあるが、ゆっくりして行ってくれ!」
クレアは優しい笑顔でニーナの提案を受け入れた。彼女は勢いよく頭をあげて明るい顔をするが、すぐに眉を下げる。
「あんなに迷惑をかけたんですよ?」
「ああ、でも危害を加えられたわけでもない」
「悪いことをするかもしれないのに?」
「ボクはリタを信頼しているからな」
「でも……」
「ニーナ、ここにいたいんじゃないのか?」
クレアは意地悪に笑ってそう言った。その顔に、ニーナは再びパッと明るい顔をする。
「ありがとう!」
ニーナは子どもにするように、クレアのわきの下に手を入れて高く持ち上げる。そのままクルクルと回り、喜びを全身で表現した。
「うわっ、おろせー!」
クレアの悲痛な叫びは夏の夜空に響き、誰に届くこともなかった。




