川に冷やしに行こうよ
収穫した次の日、リタはキッチンで残った野菜を前に頭を悩ませていた。昨日食べてぬるいと言われたあれだ。
「サラダにしてもぬるいままじゃなあ」
腕を組んでブツブツと悩んでいたリタは、しばらくして思いついたように手を打った。ソファでくつろいでいるフィルの体を揺らす。
「ねえ、川に冷やしに行こうよ」
「えー」
しばらく川につけていれば少しは冷えるだろう、と考えた提案だった。しかし、フィルは面倒くさそうに首を横に振る。その反応も想定の内だったリタは言葉を続ける。
「私、また川で遊びたいなあ」
そう言うと、意外にもフィルは顔を明るくした。というのも、リタが風邪をひいてから、川に入るのを嫌がっていたのだ。フィルはのっそりと立ち上がり、グンッと伸びをすると笑顔を見せた。
「しょーがないなー」
「行く? じゃあ用意するから待ってね」
リタは野菜を川につけておける網がないか探す。しかし、都合のいいものは見つからず、ザルに紐を付けて代用品にすることにした。
「はい、準備オッケー」
荷物を持つと、フィルが先に玄関を出た。リタが帽子を取って出ようとすると、嫌そうな顔で戻ってきた。
「やっぱり暑い……」
眉毛を下げるフィルに帽子をかぶせ、空いた方の手でフィルの手を引いて川へ向かった。
「冷たい! リター、はやくー!」
到着したフィルは勢いよく川に入って行く。リタは、ザルに野菜と重りの石を入れて浅瀬に沈めた。流されないようにつないだ紐は、川辺の重たい石で押さえる。
「よし、待ってフィル!」
しばらく眺めて、流れていかないことを確認したリタはフィルの元へと駆けた。フィルはワンピースの裾を少し上げ、川底の石を蹴っている。
「今日は暑いし浸かってもいいよ」
「この前も浸かったけどねー」
一瞬苦い顔をしたフィルだったが、ニヤッと笑うとその場でザブンと肩まで浸かった。そのまま流れに逆らって器用に泳いでいく。リタが髪は結んであげればよかった、と後悔している間にもフィルはぐんぐん進んでいく。
「うわっ!」
「リタ!?」
フィルが流されないように横を歩いていたリタが、深みに入ってよろめいた。泳いでいたフィルも慌てて立ち上がる。
「びっくりした……」
「気をつけてねー」
「うはー、流されるーうー」
しばらく泳いだフィルは、力を抜いて仰向けで浮く。すると今来た道を帰るように流されていった。緩やかに見える流れだが、フィルはあっという間に流されてしまう。リタは慌てて川から上がり、石の上を走って追いかけた。
「フィル!」
「だいじょーぶだってー」
浅くなっているところまで流されたフィルは、スッと立ち上がる。そのままバチャバチャと川辺に上がった。
「危ないからやめて!」
「水は得意だからだいじょーぶー」
「何があるかわからないでしょ!」
「……ごめんなさい」
真剣な表情のリタにおされて、フィルはシュンとしてしまう。心配したんだよ、とリタはフィルの濡れた頭に手を置いて慰めた。
「冷えたかな。かじる?」
それから大人しく浅瀬で遊んでいたフィルに、リタが川から上げた一本を差し出す。持った感じは冷たいが、中まで冷えているかどうかがわからない。
シャリッとかじったフィルは首を傾げて、残りをリタに渡す。
「うーん、昨日よりはマシ、かなー?」
「冷えないね」
二人は恨めしそうにかじりかけを見つめて、美味しさに欠ける残りを押し付け合った。
「起きて、フィル」
「……んむ」
川から帰ってすぐにお風呂に入れられたフィルは、ソファの前で力尽きたように眠っている。強めに揺するも、目を覚まさない。しかし、リタはフィルを起こすキラーワードを知っていた。
「フィル、ご飯だよ」
「起きる……」
こう言うと必ず起きるのだ。ゆっくりと身体を起こして、大きなあくびでテーブルについた。
「炒めたんだけど、美味しいかな?」
家に帰るまでにぬるくなってしまったので、卵と炒めた。生以外で食べるのが初めてのリタは恐る恐る皿を出した。フィルはなんの抵抗もみせずに口に運ぶ。
「んー、美味しい! ぬるいよりはこっちの方がいいよー」
飲み込んだフィルはそう言って頷く。リタも食べてみると、確かに美味しい。しかし、生で美味しく食べたい気持ちも強かったリタは、朝からずっと考えていたことを口にする。
「フィル、氷を作る魔法を覚えない?」
「なんでー」
「氷があれば、冷たいまま食べられます!」
まだ庭でたくさんできそうなこれを、どうしても冷やした生で食べたいリタは力強くそう宣言する。しかし、フィルは怪訝な顔をする。
「えー、そんな魔法あるのー?」
「わからないけど、あるんじゃない? 魔法だし」
「なにそれー」
そう言って笑うフィル。魔法ならなんでも出来ると疑わないリタは、フィルの反応に首を傾げた。
「明日クレアさんに聞いてみるね」
そう言うと食事に戻る。炒めてもなかなか美味しいな、とリタは自分のセンスに満足だった。




