よく似合ってて可愛いよ
「な、なにこれ……」
いらっしゃいませ!と元気よく声をかけてきた獣人の店員さんを無視し、フィルは騙されたという顔をする。
「まずはフィルの服を買わないと、と思って」
「やだ、帰る! 着ない!」
そう叫んで扉に手をかけるフィルを無理やり引きずり、店の中へ進む。
何をお探しですか?」
綺麗な長い耳を持った店員がリタとフィルに話しかける。
「えっと、この子に合う服を探しに来たのですが……」
「やだ! 着ないってば!」
狭い店内で大声をあげるフィルに、獣人の店員は少し困った顔をする。
「うるさいよ、フィル。
すみません、この子服が嫌いなもので……簡単に着せられるものはありませんか?」
ははは、と苦笑いをする店員だったが、流石は接客業だ。こちらはいかがでしょうか?と、すぐそばにあったワンピースを手に取る。
「こちらなら上からすっぽりと被せるだけですし、楽なほうではないかと思います。」
「あ、いいですね、これ」
店員からワンピースを受け取り、じっくりと見る。
これなら今着ている布と着心地もあまり変わりないだろう。
「お客様は銀色のきれいな髪をされているので、こちらの黒か淡い水色がお似合いかと思いますよ」
そう言って別の棚から黒と薄い水色のワンピースを取り出す。
店員はいまだにわーわーと言っているフィルににっこりと笑いかけ、店の奥で試着していただいて構いませんよ、と声をかける。
「よし、着てみようか」
「やだーやーだーやーだー」
こちらへどうぞ、と店員は店の奥へと案内してくれる。
もう完全にフィルのことは無視しているようだ。さすが接客業、とリタは少し感心した。
「ごゆっくりどうぞ」
お気遣いありがとうございます、とリタは頭を下げる。
案内されたのは、在庫を保管する倉庫のような部屋だった。
「フィル、着てみようね」
「やだ!」
バタバタと手を振り回すフィルの両肩を掴み、壁に押し当てる。
すると少し驚いたようでフィルの動きが止まった。
「ちょっとそのまま動かないでね」
そう声をかけ、肩口の結び目をほどく。森で何度もきつく結びなおしていたため、ほどくのに少し時間がかかった。
結び目がほどけると、すとんと下まで脱げた。
その途端、またも走り出そうとするフィルの腕をまたもギリギリのところで掴む。
いくら同性だからといってさすがに、全裸の客を見たくないだろう。
「フィル、大人しくして!」
狭い倉庫の中で良く響いたリタの大声にフィルはびくりと反応する。
その隙をみはからって、水色の方のワンピースを頭にかぶせる。
腕を引っ張って袖を通させ、ウエストの紐できれいなリボンをつくる。
「おお、フィル似合ってるね」
無理やり着せられたことに頬を膨らませるフィルだったが、リタのその言葉に微笑んだ。
淡い水色のワンピースは、袖は肘あたりまで、裾は太ももが三分の二隠れるほど、ウエストが締まっていて大きなリボンが付いている。
言葉にした通り、フィルにぴったりだ。。
「よく似合ってて可愛いよ。気に入った?」
「……まあまあ」
そう言って照れたように笑うフィルにリタは驚いた。
絶対に、脱ぐ!と言って暴れるに決まっていると思っていたからだ。
「あ、うん。じゃあそれを買おうか」
黒い方も試着させてもらおうと考えていたリタだったが、ここでフィルの気持ちが変わっても困る。
さっさとお会計をすませて店を出てしまおう。
そう考えて倉庫を出ようと思ったリタの服をフィルが引っ張る。
「……ほんとに可愛い?」
振り返ると少し頬を赤くしたフィルがもじもじと尋ねてきた。
そうか、可愛いと言われてうれしかったんだ。だからこの服を着るのを我慢しているんだ。
そう気づいたリタはニヤつく頬を押さえて、フィルの頭に手を置く。
「可愛いよ、フィル!」
えへへ、と笑うフィル頭を撫で、素直で可愛いじゃないかと思うリタだった。




