外に出たくない……
「リター、涼しいねー」
「そうだねー」
フィルはリタの肩に頭を乗せてリラックスしている。二人は壁に貼られた白い紙を見つめた。あの魔法陣が完成してからというもの、一日のほとんどをソファで過ごしている。両親が使っていた布団を運び、涼しいリビングで寝たりもしている。あまりの快適さに、リタでさえ家から出たがらない。
「今日こそ買い物行かなくちゃいけないのに……外に出たくない……」
「いってらっしゃーい」
面倒くさそうに言ったフィルは、ワンピースの裾をパタパタさせる。あまりに涼しいので風邪をひかないようにリタが着せているのだ。「着ないと魔法陣の使用禁止!」と言い聞かせたおかげか、フィルは嫌そうな顔をしつつも服を着ている。
「フィルも行こうよ」
「やだー、暑いもーん」
「私だって暑いよ」
呆れたようにため息をついたリタは立ち上がり、出かける準備を始める。窓の外を見ると、雲一つない空には太陽がギラギラと輝いている。リタはあまりの眩しさに眉をひそめた。
「じゃあいってきます」
そう言うとソファに寝転んだフィルは手だけを伸ばしてヒラヒラと振った。
「あつ……」
一歩出ただけでじんわりと汗をかく。リタは輝く太陽をひと睨みし、諦めて隣町へと向かった。
「いらっしゃい! ここ数日暑いねえ!」
八百屋の店員は相も変わらず明るい声で呼び込みをしていた。
「そうですね……買い物も億劫で」
「それは困るねえ、商売上がったりだよ!」
そう言って豪快に笑う。暑さのせいでおかしくなったのか、と思うほど明るい店員にリタは困ったように笑う。
「で、今日は何を?」
「えーっと、じゃあこれとこれと……後これも」
リタが長期間の保存に向きそうな数種類の野菜を選ぶと、店員は袋に詰めてくれる。お代を払ったリタに、詰めた野菜を渡す。
「よいしょっ、重いけど大丈夫かい?」
「大丈夫です」
そうは言ったものの、受け取った袋はリタの想像以上にずっしりと重い。八百屋は最後にすればよかった、とリタは後悔した。
そんなこととはつゆ知らず、店員は相変わらずの明るい笑顔でリタを送り出した。
「ありがとね、夏バテには気をつけて!」
「はい、ありがとうございました」
それからリタは八百屋の隣で貝を購入した。あとは何が必要だろうか、と重たい荷物を一度地面に置いて考える。暑さのせいであまり頭が回らない。
「あ、パンも買わなくちゃ」
気合いを入れ直して荷物を持ち上げる。パン屋は少し離れたところにある。リタはゆっくりとした足取りで炎天下を歩いた。
「ありがとうございましたー!」
パン屋の店員が頭をさげると、白く長い耳が垂れる。優しい顔で微笑む店員に、リタは少し癒された。
「うぅ、重い……」
リタはもう家に帰ろうと森に入る。クッキーの屋台もチラリと見たのだが、暑さが嘘のように行列ができていたため諦めた。
「あ、ちょっと涼しいかも……」
森の中は直射日光が遮られ、少し涼しく感じられた。リタは重たい荷物を地面に置いて、木にもたれ掛かって座る。流れる風が汗を乾かして気持ちがいい。リタは少し休むつもりで目を閉じた。
「……ん、寝てた」
リタが目を覚ました時には日が沈み始め、空の向こうがオレンジになり始めていた。寝起きでぼんやりしたリタだったが、徐々に状況を理解して飛び上がった。
「うわ、帰らないと」
置きっぱなしになっていた荷物を持ち上げる。フィルは心配していないだろうか、と帰路を急いだ。
「ただいま、フィル!」
「おかえりー。遅かったねー?」
リタの予想に反して、フィルは何の心配もしていなかった。リタが家を出た時とほぼ変わらない体制で、ソファに寝転んで手を振る。
「も、森で涼んでたの」
「ふーん」
ホッとしたリタはソファの前に座って、フィルのお腹に頭を乗せる。
「こしょばいー」
フィルはキャッキャと笑う。リタも楽しくなってお腹に顔をすりすりと擦り付けた。
笑い疲れたフィルが肩で息をしだしたのでリタは顔を上げる。買ってきた物をしまわなければならない、とリタは荷物を持ち上げた。キッチンへ向かう途中で思い出したように振り返る。
「ねえ、フィルちょっと太った?」
お腹に頭を乗せた時に少しプニッとした気がして、とリタ言うと、フィルは驚いたように立ち上がった。リタをジッと見て頬を膨らませる。
「太ってないもん!!」
ガバッとワンピースの裾を持ち上げた。フィルの言葉通り、お腹は健康的にくびれてスッと縦スジが入っている。
リタは荷物をその場に落とし、フィルに駆け寄る。そのまま持ち上げられた裾を勢いよく下ろした。
「私しかいないからって裾は上げないで!」
真っ赤な顔でそう叫んだリタに、フィルは頬を膨らませた空気を吐き出してプッと笑った。




