お揃いのペンダント
「わあ、すごい」
クレアの言う通り"ショッピングモール"の中はマーケットのようにたくさんの店がずらりと並んでいた。もちろん、建物の中なので魔法のおかげで暑くない。
「わたしここに住みたーい」
「それは困るなあ」
快適な温度にフィルがそう言うと、クレアは苦笑いする。
「そういえば、フィル。その本、持ち運ぶには少し邪魔じゃないか?」
「じゃまー」
クレアはフィルが手に持つ"サルでもわかる魔法陣"を指差して尋ねる。確かに、薄いとはいえ本だ。持ち運ぶには合わない。
フィルの返事を聞いたクレアは続ける。
「何か身につけるものを買ったらどうだ? 専門の店もあるけど、アクセサリーでもなんでもいい」
「でも、クレアだって大っきいの使ってたでしょー?」
フィルは、クレアが大きい水晶玉を使ってサクと話しているのを見たことがあった。あれはフィルの本と比べ物にならないくらい、持ち運びには向かないだろう。
「いや、普段はこっちを使ってるんだ」
クレアは首にかかったペンダントを揺らす。オレンジの結晶が輝いて美しい。
「え、あの水晶はー?」
「あれは見た目重視だ! あんなの持ち運んでられないからな」
「うーん、どんなのがいいのー? サクも首から下げてたよー?」
「とりあえず魔法用品の店に行ってみるか!」
クレアが先導して店まで二人を案内する。慣れているクレアはぐんぐんと進むが、フィルとリタはキョロキョロと見回して付いていく。
案内された魔法用品店はほんのり薄暗く、怪しげな雰囲気を醸している。
「魔法用品って……こんな物もですか?」
リタは並んだカラフルなキャンドルを手に取ってクレアに尋ねる。
「ま、まあ魔法用品なんて名前だけで、雑貨屋だよな」
あはは、と弱々しく笑って頭をかいた。
「ボクやサクが使っているのはこういうのだなー」
「じゃあ、わたしもそれでいいー」
フックに掛かった首飾りをクレアが指差すと、フィルは即答でそう答えた。
「決断が早いな……」
フィルはたくさんのペンダントの中から、大ぶりな直方体の付いたものを手に取った。直方体は青く透けて輝いている。
「次は何が欲しい?」
「フィルの服を!」
「い、いらなーい」
フィルはブンブンと首を横に振る。さっき買ったペンダントが胸元で揺れた。
クレアはどうしてフィルが嫌がっているのかわからず首を傾げたが、リタの期待の目に胸を張った。
「服屋だな、任せておけ!」
「さ、次はなんだ?」
服屋を出たクレアは立ち止まって、二人に尋ねる。リタが満足げな一方、フィルは疲れた顔をしている。二人にたくさんの服を試着させられ、もうクタクタだった。
「食料品を買いたいです」
「じゃあ階段で下に行こうか」
階段を下り始めると、フィルがクレアの服を引く。
「ん、なんだ?」
「ちょっとー」
首を傾げたクレアに、フィルは唇に指を当てて静かにしろとジェスチャーで伝える。何かを感じ取りコクリと頷いたクレアは、足を止めてリタに声をかけた。
「リタ、フィルが休みたいようだから一人で買っていてくれるか? 少し休んだら合流するからな」
「わかりました。フィルをお願いします」
リタは怪しむ様子も見せず、タタタと階段を下りていった。
リタが立ち去ったことを確認したクレアは怪訝な顔でフィルを見る。
「なんだよ、フィル」
「リタの分も買いたいのー」
「服か?」
「こっちー」
フィルはゆらゆらとペンダントを揺らす。
「ああ、でも君たちいつも一緒にいるじゃないか」
一緒に使えばいいだろ、とクレアはフィルのペンダントをつつく。
ハッとしたフィルは両手を顔の前で振り、慌てた様子で言い訳をする。
「な、何があるかわからないでしょー」
「うーん、確かにそうか。じゃあ、ボクが買ってあげよう!」
ドンと胸を叩いたクレアに手を引かれ、二人は用品店へ戻った。
「リタ、待たせたな。良いものが買えたか?」
二人が戻った時には、リタはたくさんの荷物を抱えていた。
「魚も野菜も、色んなものが一緒に売ってるなんて凄いです!」
「気に入ってもらえたようでよかったよ」
キラキラと目を輝かせて荷物を見せるリタに、クレアは深く頷き自分の後ろに隠れているフィルを前に押し出す。
フィルはうつむき加減で、リタの胸元にグイッと袋を当てる。
「わ、何? どうしたの?」
「リタに……」
リタは袋を受け取り、中身を確認する。フィルが選んだのは、自分と色違いのペンダントだった。赤い直方体がキラキラと輝いている。
「わあ、綺麗。ありがとう、フィル。クレアさんも」
「ボクはお金を払っただけだからな。お揃いのペンダントを欲しがったのはフィルだよ」
ニカッと笑ったクレアと、恥ずかしがっているフィルを、リタはまとめて抱きしめる。
苦しくなったクレアがリタの腕から抜け出すと、フィルとリタは楽しげにくすくすと笑った。
フィルはリタの首にペンダントをかける。二人はニコニコと笑い、再び抱き合う。むずがゆくなったクレアは、咳払いをして声をかける。
「さ、城に帰ろうか」
「「はーい!」」
リタとフィルは互いに手を取り歩き出した。二人の胸元で色違いのペンダントが揺れる。
フィルは空いた方の手でクレアの手を掴んだ。三人はそのまま仲良く城へ帰った。




