脱がないの!
隣町を目指すリタとフィルは、帰らずの森を歩いてた。
帰らずの森はその名の通り、行ったら帰れないと噂されている森だ。
一歩森に入ると、木に囲まれ方向感覚を失うためそう呼ばれているようだ。
そのため、町では子どもが悪さをしたときに「帰らずの森に連れていくよ!」という脅し文句があるらしい。
ただ実際には真っ直ぐ歩き続ければ、10分もかからず隣町と村を行き来できるとリタは知っていた。
「ねー、リター」
「どうしたの?」
森に入って1分ほど歩いた時だった。迷わないように、と繋いだ手を引っ張ってフィルが立ち止まった。
「まだ歩くのー?」
「や、まだちょっとしか歩いてないでしょ」
「めんどくさーい。リタおんぶしてー」
甘えた声を出したフィルは、その場に座り込んでしまう。
リタは繋いだ手を引っ張りあげ、無理やり立たせる。
「はい、歩いて。」
「やーだー」と、繋いだ手をほどき、フィルは再び座り込んでしまう。
はあ、とため息をついてリタはしゃがみ込み、フィルと目線を合わせる。
「もう一生魚を食べて生きていく?」
「やだー」
「じゃあ頑張って歩こう?」
「……」
フィルは渋々といった感じで立ち上がり、手を繋ぎなおす。
頬を膨らませたフィルに、リタは苦笑いをする。
―――面倒くさがりなのに食べ物に対する興味だけは強いんだな、と。
2人は休み休み歩き続けた。
フィルが立ち止まるたび、リタは励ます。
フィルが布をほどこうとするたび、リタは「脱がないの!」と声をあげる。
10分で抜けられる帰らずの森を30分かけ、ようやく隣町へ到着した。
◇◇◇◇◇
「わあああああ!」
隣町に到着したフィルはあまりの人の多さに驚きの声をあげた。
「ね、ね、リタ! 甘いにおいがする! なにこれ!」
今までの無気力さはどこへやら、ぐいぐいとリタの手を引っ張るフィル。
くんくんと鼻をならし、においの元を突き止めようとしている。
「ちょ、落ち着いて! 先に行くところがあるから、ね」
後で必ず買ってあげるから、とリタは腕を引っ張り返す。
「絶対だからねー」
と、上機嫌でリタの進む方へ向き直るフィル。
フィルにとって初めての町。
リタが目的地へまっすぐ歩いている間も、きょろきょろと町並みを見回してる。
一方すれ違う人々は、半ば引きずられるように歩いているフィルを不思議そうに振り返っている。
圧倒的な美貌の持ち主だが、服には気を使っていないのか?
粗い縫い目の隙間から見える白い体に、男性は二度見をする程だった。
「着いたよ、フィル」
目的地に着いたリタはいまだにきょろきょろしているフィルに声をかける。
あれが食べたい、これが食べたい、と言い続けたフィルのせいで、3つ程買う約束をしてしまった。
「なにが食べれるの!」
きらきらとした目で、はやくはやく、と訴えるフィルに落ち着きなさいと苦笑いをするリタ。
「じゃあ、入ろうか!」
リタはそう声をかけ、重い木の扉を押し開けた。




