お手紙です!
気温が日に日に高くなってきた。
まだまだ気温はあがるというのに、フィルは毎日溶けるようにダラダラとしている。
「あ゛つ゛い゛ー」
「くっついてたらもっと暑くない?」
「リタの体の方が冷たい気がするのー」
リタの太ももに、フィルは頭を乗せている。ズボンから出たリタの太ももが冷たいのか、頬をペタペタとくっつけている。
確かに、フィルの体温は子供のように高い。
「川で水浴びする?」
「うーん、それはちょっとやめとく」
フィルは少し考えたあと、首を横に振った。
リタが風邪をひいてからというもの、フィルはあまり川に行きたがらなくなった。
「じゃあ森は?」
「もりー?」
「あそこは木がいっぱいで影になるから、ちょっとは涼しいよ」
「ほんとー?」
森かー、とフィルは呟いて黙る。少しの間黙りこくったあと、ぴょんと立ち上がった。
「行こう!」
玄関を出ると、空には雲一つなく太陽が眩しい。
「リタ、暑い……」
「本当に暑いね……」
「ジリジリする……」
「そうだね……」
二人は刺さるような日差しに、目を細める。リタは被ったキャップのツバを下げて光を遮った。
繋いだ手にじんわりと汗をかき始め、二人はだらだらと森へ向かった。
「ちょっと涼しい……気がする」
「そう? すごく涼しいよ」
二人は静かに大きな木の下に腰掛ける。
少し歩いただけで汗をかいたが、森を抜ける風は涼しい。
しばらく静かに風を感じていた二人だったが、不意に遠くから誰かの声が聞こえた。
こんな森の中で誰が、と思ったリタは立ち上がる。フィルが「動きたくない」と首を横に振ったので、リタは一人で声の方に向かった。
少し歩くと、草の上に長い耳の少女がうつ伏せに倒れていた。さっきの声の主はきっと彼女だろう。
「大丈夫、ですか……?」
リタが恐る恐る声をかけると、少女はピクピクと耳を動かし勢いよく草の上に座り直した。
「あの、道を……って、リタさんですね! お手紙です!」
「手紙……?」
リタを見上げる少女は、肩に提げたポシェットから小さな封筒を取り出す。白く可愛らしい封筒に、見覚えのある字でリタの名前と住所が書かれている。
「やっぱりこの森は迷いますねえ」
少女はキョロキョロと森を見回し、不安げな顔をする。
「出口までお送りしますよ」
「ありがとうございます!」
リタの提案に少女は元気ぴょんと立ち上がる。服についた葉をはらうと、にっこりとリタに笑いかけた。
「リタさんはどうして迷わないんですか?」
リタの隣を少女がついていく。歩くたびに、ピンと立った長い耳がぴょこぴょこと揺れる。
「私も初めは迷ってたんですけどね。毎日挑戦している内に分かるようになったんですよ」
「じゃ、二回目の私は迷って当然ですよね!」
一回目はかなり前ですし、と言って、少女はなぜか上機嫌で深く頷いた。
「そういえば、ずっと運んでくれていた方は?」
今までリタの家に荷物を運んで来たのは男性だった。この少女と同じように長い耳の獣人族だ。
郵便受けに入らない両親からの荷物は、彼から受け取っていたのだ。
「あれは兄です! 兄は別の地域の郵便屋になったんですよ!
だから、この辺りの担当はしばらく前から私です!」
これからは私にお任せください!と、少女は得意げに胸を張った。
「それで、この森を抜けるコツは……?」
少女は目を輝かせてリタを見上げる。これから荷物は彼女が届けるのだ。道を覚えないと困るのだろう。
「えっと、ただ真っ直ぐ歩けばいいんですよ。森の入口と出口は一直線につながってますから」
「ふぅむ、また機会があればやってみますね」
真っ直ぐ、真っ直ぐ、と少女は頭に染み込ませるように呟いた。
そんな姿を見たリタは苦笑いをする。
「きちんとお兄さんに教わった方がいいですよ……」
「大丈夫ですよ!」
ポン、と胸を叩く少女は、なんの根拠もないが得意げだ。
「まあ、うちへの荷物は少ないですしね」
「そうですか、残念です……わ、本当に出口だ!」
少女は驚いて出口へ駈け出す。走るとより一層、耳が揺れている。
「では、お気をつけて」
「ありがとうございました!」
出口で深く頭を下げた少女に、リタは手を振って森の中へ戻った。
「ね、寝てる……」
リタがフィルの元に戻ると、フィルは木にもたれかかり眠っていた。
リタはその隣に座り、郵便屋から受け取った手紙を開けた。
――リタへ
しばらくしたら帰りまーす☆
ママより
「え!?」
封筒を覗いてみたが、それだけが書かれた紙が一枚入っているだけだ。
リタの大きな声に、フィルは目を覚ました。
「……なにぃ?」
「わ、起こした?」
「何が書いてあったのー?」
ふぁあ、とあくびをしたフィルは、リタの手元の手紙を見てそう尋ねる。
「お母さんが、帰って来るって……」
「リタのお母さん!」
フィルは目を見開いて驚いた。
「しばらくしたら、っていつなんだろう……
ていうかお父さんは?」
どこから送ってきたんだろう、などたくさんの疑問がリタの頭をグルグルと巡った。
「リタのお母さん、どんな人なのー?」
「うーん……明るい人?」
苦笑いでそう答えたリタだったが、フィルはリタの母親を想像して楽しげに笑っている。
一方、リタは不安げにブツブツと何かを呟いていた。




