風邪、かなあ?
次の朝、ドサッと大きな音がして、フィルは驚いて目を覚ました。
「……んー」
「……フィル、ごめんね……はぁ、起こしたね」
リタのたどたどしい声に、フィルは声の方を向いた。リタはベッドの下に座り込み、赤い顔で荒い息をしている。
「え、リタ、だいじょーぶ?」
眠そうな目をしていたフィルが一気に覚醒した。勢いよくベッドから飛び出し、リタの隣にしゃがみ込む。
「風邪、かなあ?
でも、咳もくしゃみも出てないから、大丈夫だよ……」
ベッドに手をかけて、よいしょ、と立ち上がろうとするリタをフィルは制止する。
「わ、リタ、どこ行くの?」
「……フィル、朝ごはん食べるでしょ?」
フラフラと立ち上がったリタを、フィルも立ち上がって支える。リタの高い体温がフィルにも伝わる。ひどい熱だということがわかった。
「わたしのご飯はいいから、寝てなくちゃだめだよー」
「……わかった。棚にパンが入ってるから、食べてね」
弱々しい笑顔を作ったリタは、フィルの手を借りて倒れ込むようにベッドに戻る。
「ぅう、だいじょーぶ?」
「……大丈夫だよ」
「わたしが川に落としちゃったからだよね? ごめんね……」
「どうしてフィルが泣くのー」
ベッドの横に座り込み目に涙を浮かべたフィルは、リタの手を握る。手を握るだけでも体温の高さが伝わり、罪悪感がより一層目を潤ませた。
涙を流すフィルに、リタは困ったように笑顔を見せる。
その顔を見たフィルは、自分が弱っていては駄目だ、と目をこすって立ち上がった。
「なにしてほしい? なんでもするよ!」
「じゃあまず服を着てほしいかなあ」
そういうことじゃ……と言いかけたが、言われた通りにクローゼットから自分の服を引っ張り出して着る。焦って袖から首を出そうとし、モゴモゴともがいた。
リタはこのとき初めて、フィルが自分で服を着るのを見た。
「着た! あとは? なにが食べたい? 買いに行くよ?」
「フィル、一人で森に入っちゃ駄目だよ」
「でもー……」
「じゃあお水が飲みたいな」
「わかった、待ってて!」
ワンピースの裾をひるがえし、リタの部屋から走り出る。フィルの勢いの良い足音がボーっとした頭に響き、リタは少し辛そうな顔をした。
「はい、どーぞ」
フィルは、なみなみまで水の入れられたコップを、そーっと運んできた。リタに手渡す直前、油断したのか少し床にこぼれたが全く気にしていない様子だ。
「……ありがとう」
リタは注がれた水に口をつけて一気に飲み干す。
フィルはなぜか緊張した面持ちでリタを見つめている。リタが目を合わせると、慌てたように笑顔を作った。
「じゃあ、ちょっと寝るよ。移しちゃまずいからフィルはリビングに行っててね」
空になったコップをフィルに渡し、リタは布団にもぐる。
「で、でもー……」
「二人とも体調悪くなったら困るでしょ?」
「ぅう……」
フィルは後ろ髪を引かれながらも、言われた通りに部屋を出た。
フィルを見送ったリタは目を閉じる。
体は重いのにフワフワと浮いた感覚で、リタは目を閉じるとすぐに眠りについた。
リビングに入ったフィルはソファに座る。いつもならまだまだ寝ている時間なのだが、フィルの頭は冴えきっていた。
そわそわと落ち着きなく足を揺らし、思い出したようにキッチンに入って再びコップに水を注いだ。
「……リター、お水持ってきたよー」
リビングに行っていろ、と言われたばかりのフィルはこっそりと部屋を覗く。声をかけても反応がなかったのでもう寝てしまったのだ、とフィルは安心して部屋に入った。
「……置いとくねー」
注ぎたてのコップをテーブルに置く。今度は一滴もこぼさない。
フィルは言いつけ通りリビングに戻ろうとしたが、少し心配になってベッドを覗く。
「はぁ、はあはぁ……ぅーん……」
リタはさっきよりもより一層荒い息をしていた。汗で前髪が額に張り付いている。
ぅう、と時折苦しそうに声を発する。
「リタ!!」
苦しそうなリタに、どうすることもできずにオロオロとベッドの周りをうろつく。
再び涙が流れそうになるが、グッと堪えて目をこする。
「わたしが……わたしが、どうにかしなくっちゃ」
強く拳を握り、気合を入れてリビングへ向かった。




