表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/246

種蒔きだ!



 フィルが一人で魔族の国へ行ってから、何日も経った。

 フィルは相変わらずの面倒くさがりだが、リタと仲良く元気に暮らしている。


 “サルでもわかる魔法陣”を使って、サクやクレアと話すこともよくある。




「リター、これなにー?」


 珍しく自分でキッチンに入りコップを取り出そうとしたフィルは、小さな袋を手に持ってソファでくつろいでいるリタに尋ねる。


「あ、花の種、そんなところにあったんだ」


 フィルが食器棚の隅から見つけ出したのは、リタが花屋で買った植物の種だった。買ってから長く経ってしまって、リタは存在すら忘れていた。


「ふーん」

「フィル、花好き?」

「んー、あの光ってるキノコは好きだよー」


 綺麗だったよねー、とフィルはうっとりとした顔をする。ちょっと見てすぐに寝てしまったのに、フィルはあのキノコのことをよく覚えている。


「その種、植えてみようよ!」


 リタはソファから立ち上がり、伸びをする。


「めんどくさーい、ていうか暑い……」


 ここ数日少し気温が高く、フィルは毎日のように溶けていた。とは言っても少し暑いだけで、一年のピークはまだまだ先だ。


「これからもっと暑くなるんだから、これくらいでバテてちゃ駄目だよ」


 リタはそう言って自分の部屋に移動した。

 クローゼットの中からフィルの服と帽子を二つ取り出す。フィルの服は三着に増えている。リタがこっそり買い足しているのだ。どんな服でも似合うとは思うのだが、着せやすい、という一点で三着ともワンピースになってしまっているのがリタは残念だった。

 リタはキャップをかぶり、麦わら帽子の方を手に持ってリビングに戻った。


 水の入ったコップを持って椅子に座ろうとしているフィルに、上からワンピースを被せる。長い髪を襟口から出し、麦わら帽子をかぶせる。


「おー、似合うねえ」


 真っ白なワンピースに、麦わら帽子。

 似合うとは言ったものの、もう少し暑くなってからする格好だな、とリタは思った。


「よーし、種蒔きだ!」


 拳を高く突き上げたリタに、フィルは面倒くさそうに従った。




「どこに植えるのー?」

「こっちこっち」


 リタは家の裏へと手を引く。

 小さな倉庫の隣にはレンガで囲われたスペースがある。リタはその前にしゃがみ込んだ。


「ここ昔は花壇だったんだけど、今も使えるかな?」

「草だらけだよ?」

「よし、まず雑草を抜こうか」


 リタは手でしゃがむように指示し、雑草引きに取り掛かった。

 無言でブチブチと抜くリタを見て、フィルは渋々手伝い始めた。




「おーわったー!」


 フィルは立ち上がり、伸びをする。花壇の外には雑草の山ができている。


「ほとんど私がやったけどね」

「そんなことないよー」

「はいはーい」


 少しムッとしたフィルの頭を軽く叩き、今度は種を手に取る。


「こっちが野菜で、こっちがお花なんだけど……一緒に植えてもいいのかな?」


 小さな袋を五つ手にして、リタは頭を悩ませる。

 リタは少し考えた後「まあいいか」と、花の種二種類をフィルに渡した。


「フィルは半分からそっちに蒔いてね」

「どうやるのー?」


 リタは土に指を軽く差し込み、穴を開ける。その穴一つに、数粒を蒔いてみせた。


「たぶん、こんな感じ?」

「ほんとにー?」


 疑問形で返事をしたリタに、フィルは眉をひそめる。

 リタもよくわかっていない。昔、両親と一緒にこうやって蒔いたような記憶があったのだ。


 フィルは見よう見まねで花の種を蒔いていく。リタもその隣で手を動かす。


「本当はさ、フィルの魔法でどうにかしてもらおうと思ってたんだよね」


 土を触りながら、リタはボソリと呟いた。


「クレアに教えてもらったやつ? 今も出来るよー」


 フィルが足元に生えている雑草に手をかざすと、にょきにょきと伸びる。得意げな顔をしたフィルにリタは拍手を送り、話を続けた。


「でもやっぱり駄目だなー、と思って」

「そうなの?」

「うまく言えないけど、間違ってる気がして」


 ふーん、とわかっているのかわかっていないのか、フィルは適当に頷いて種蒔きに戻る。


「だから、毎日水やり頑張ろうね!」

「え、わたしがー?」

「私もやるよ」


 リタはその後もテキパキと作業を続け、フィルより先に終わらせた。


「じょうろ探してくるね」


 まだ蒔いているフィルにそう声をかけ、リタは隣の倉庫に入る。ごちゃっとした倉庫の中、古い本の山の上にじょうろがあった。


 リタはそれを手に取り、倉庫を出て再びフィルに声をかける。


「ちょっと待っててねー」


 じょうろを手に家の中に戻ったリタは、キッチンでじょうろに水をたっぷり入れる。


「わ、重い」


 なみなみまで水の入ったじょうろは重く、リタはゆっくりと運び出す。


「フィル、終わった?」

「もう終わるー」


 手に持った残り数粒を蒔ききり、勢いよく立ち上がったフィルは両手を突き上げる。


「よし。じゃあ、初めての水やりはフィルに任せるよ」


 重いからね、とフィルにじょうろをそっと渡す。


「よーし!」


 フィルは楽しげにじょうろを傾けた。

 先からは何本もの細い水が勢いよく出る。太陽の光に当たってキラキラ光る水が綺麗だ。


「大きくなあれ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ