まず服を着なさい
「はやく服を着なさい!」
衝撃的な出会いから2日が経った。
“生まれたて”の少女は自分の生い立ちを完全に理解していた。
500年以上前に小さな研究所で兵器として誕生したこと、老人の指先が少しでもあの卵に触れていればあの瞬間に生まれることができたこと。
リタが卵に触れたことによって、ようやく生まれることができたこと。
「めんどくさーい」
リタによって“フィル”と名付けられた少女は、未だ全裸のまま朝ごはんの焼き魚をかじっている。
500年という長い年月あの狭い空間に閉じ込められていたせいか、フィルはたいそう面倒くさがりだった。
あの日から服は一度も着ないし、あの森から出ることすらしばらくは嫌がった。
いくら呼びかけても動こうとしないフィルだったが、リタが諦めて家に帰ろうとすると後ろをついてきた。
フィル曰く、“刷り込み”らしい。
『目を開けたらリタがいて、この人は大切な人だからついていかなきゃいけないなー、仕方ないなーって感じたのー』と、フィルは説明した。
自覚している時点で刷り込みとは違うような気がするけど……という言葉を、リタは頭の中だけで留めておくことにした。
「リタも脱げばいいよー!」
フィルはそう言って食べかけの魚を皿に戻し、リタに駆け寄り抱き着く。
反射的に赤くなったリタの顔を見てニヤニヤと笑い、服の裾から手を入れる。
「もう、やめなさい!」
リタが大声を上げると、フィルは両手を上げいたずらっ子のようにニヤつく。
……完全に面白がられている。
リタは半ば諦め始めていた。2日間でもう数えきれないくらい服を着ろと言い続けてきたのにこの結果だ。
諦め顔でため息をつくリタを横目に、フィルは椅子に戻りまた魚をかじり始めた。
幸運なことに、この小さな村にはリタ1人しかいない。
少し前まで他の家族も暮らしていたのだが、隣町に移り住んでしまった。
まあだからといって裸のまま生活していいわけでもない。
フィルと出会ったあの森、通称“帰らずの森”を挟んで向こう側には大きな町がある。
人類と獣人族が共に過ごす平和な町だ。
年に一回くらい、その森に迷い込んだ人がこの村を訪れることがあるのだ。
彫刻のようにきれいなフィルの身体を、迷子に見せるわけにはいかないでしょう?
リタはそう思い、ハッと思いついた。
「フィル、町に行こうか!」
「えー、めんどくさーい」
間髪入れずに断られた。
それでも今回はリタも引かない。
「二日連続魚しか食べてないでしょ? 町に出れば他の食べ物も買ってあげられるよ?」
その言葉にフィルはピクリと反応した。
その反応に、もう少し押せばいけるとリタは確信した。
「もう一生魚しか食べなくてもいいの? 甘いものだって買ってあげようと思ったのになー」
「行く!」
よし、かかった。
町に出る=人がいる=裸では恥ずかしい そのくらいのことはフィルにもわかるだろう。リタにもそう思っていた時期がありました。
「今すぐ行こう!ね、リタ!」
椅子から勢い良く立ち上がったフィルはもうすでに玄関の扉に手をかけている。……もちろん裸で。
「いや、まず服を着なさい!」




