……もう起きるの……?
「ついに完成した……あとは頼んだぞ……」
そう言い残して魔族の老人は死んだ。
深い森の奥で長年研究に没頭していた老人の死に気付く者は、誰一人としていなかった。
手を伸ばす形で倒れ込んだ老人の指の少し先には、大きなすりガラス状の卵のようなものが鎮座している。
卵の中は水で満たされ、中に人のようなものが透けて見える。
――生物兵器 F-11
それがその卵につけられた名前だった。
老人がなぜ生物兵器の研究に命をかけていたのか。
理由は簡単。魔族には世界を征服する力があると信じていたからだ。
強い魔力のせいで恐れられ、世界の隅でひっそりと生きている魔族たち。誰かが強い力で率いれば、必ず堂々と生きられる日が来ると信じていたのだ。
そのリーダーとして誕生させたのがF-11だった。
一から強力な魔力を持った生命体を誕生させるという点では、完璧に成功だった。
老人もそれを疑わなかったし、のちにF-11を目にした人々は口を揃えて素晴らしい研究の成果だと言った。
――――ただ、実際にF-11が誕生したのは老人の死から500年以上経った日のことだった。
◇◇◇◇◇
「うわああああああああああっ」
午前中の雨でぬかるんだ山道で足を滑らせたリタは、泥の上を滑り落ちごつんと硬いものにぶつかって止まった。
「いたたた……うわ、何これ?」
リタがぶつかった硬いものは、大きな卵型の"何か"だった。すりガラスのような素材で出来た卵は、雨の影響からキラキラと光り輝いている。
リタは泥の上をぴちゃぴちゃと跳ね回り、卵の周りを一周する。
「中は、見えないかなあ」
リタが卵に両手と額をくっつけ、もっと近くで見ようとしたその時だった。卵は内側から強く青い光を発し、ピキピキと不気味な音を発し出した。
あまりの眩しさにリタは目をふさぎ、その場に尻もちをついた。
卵はピキピキと音を立てて割れ始める。中からは液体が流れ出し、座り込んでいるリタは頭からそれをかぶることになってしまった。
暫くの間リタは流れ出る水に黙って耐えていた。徐々に流れは緩くなり、光もおさまってきたようだ。
恐る恐る目を開けると、大きな卵はボウルのように底を残して全て粉々に砕けていた。
リタは再び立ち上がり、ボウルの中を覗き込む。
「あ、あの、大丈夫ですか!」
ボウルの中には、リタと同じくらいの歳であろう女の子が胎児のように丸まっていた。……裸で。
目を閉じていてもわかる綺麗な顔立ち、濡れて銀色に光る長い髪。
リタの呼びかけに少女は目をこすり起き上がる。
長い髪に隠されていた体は、起き上がった勢いで惜しげもなく披露されることとなってしまった。
「……もう起きるの……?」
「あの、えっと、大丈夫ですか?」
「……眠い……」
少女はそう言うと体を横たえ、再び目を閉じた。
これがリタとフィルとの出会いだった。
この時のことをリタはのちにこう語ることとなる。
――美人な痴女が寝てると思った。




