お家はどっち?
「わあ、すごい! カティがさっき来たときこんな所なかったよ!」
「すごいねー!」
「二人とも、あんまり離れないでね」
一面の花畑に、カティとフィルは走りだす。
いつの間に仲良くなったのか、二人は両手をつなぎグルグルと回る。目が回ったのかフィルが後ろ向けに倒れ、手を引かれたカティはフィルの上に倒れ込んだ。
危ない、と思ったリタだったが、倒れ込んだ二人は何事もなかったかのように笑いあっている。たくさんの小さな白い花がクッションとなって、どこも痛くないようだった。
良かったと胸を撫で下ろし、リタは改めて辺りを見回す。
リタの目についたのは、沢山の花の中でもひときわ大きく、薄いピンク色の花だ。太い茎に瑞々しく緑の大きな葉、背が高くてよく目立つ花だ。
「カティ、このお花はどう?」
駆け寄ってきたカティを抱き上げると、両手で花を抱き寄せ、笑顔を向ける。
「うん、可愛い! ママ喜んでくれるかなあ?」
「うん、きっと喜んでくれるよ」
リタがそう言うと、カティは体をひねり首に抱き着く。
「リタちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。
さ、このお花を摘んでお家に帰ろうね」
抱き着いたままのカティを地面に下ろすと、すぐに花に駆け寄った。
「リタちゃん、これ抜いていいの?」
「気を付けてね」
カティはたくさんの中から一本を選び、茎に手をかける。うーん、と力を入れて引くが、なかなか抜けないようだ。
リタはなんだか微笑ましくなり、離れて見守る。
そういえばフィルは?と思い辺りを見回すと、さっき倒れ込んだ場所に座り込んでいる。
こちらに背を向けているためよくわからないが、動いているように見える。何をしているんだろう、とリタはジッと観察をしはじめた。
「リタちゃん、抜けたー!」
フィルを気に掛けていると、カティが駆け寄ってきた。
大きな花の少し下を持ち、茎と根っこはほとんど引きずってしまっている。
「あと何本か採って、花束にしようか! 今度は私も手伝うよ」
リタの提案に、カティは目を輝かせて大きく頷いた。
「よし、じゃあカティが選んで」
「わかった!」
カティはぴょんぴょんと花の中を進み、一本一本丁寧に選び出す。
リタはその指示に従い、引っこ抜く。
五本目を抜いたところで、リタはカティを止めた。
カティが抜いた分と合わせて六本になった。大きな花だ、このくらいで充分だろう。
しかし、リタはそこで気付いた。
この花を綺麗な花束にする技術が私にあるだろうか? いや、ない。
かといってこのままプレゼントとして渡すのもどうだろうか。
「カティ、町にお花屋さんってあったっけ?」
「あるよ! えっとねー、おうちの近く!」
「じゃあそこで花束にしてもらえないかお願いしてみよう」
そう言ってリタは、六本の花を抱える。
思っていたよりもずっと重く、せめてハサミくらい持ってくればよかったと後悔をした。
「フィルー、行くよ!」
「はーい」
リタが声をかけると、フィルは立ち上がりこちらに歩いてくる。
両手を後ろに回し、何かを隠しているようでニヤニヤしている。
リタとカティの元までやってきたフィルは、カティの目線と合わせてしゃがみ込む。
「カティー、これあげるー」
そう言ってカティの頭に乗せたのは、倒れ込んだ場所にあった小さく白い花で作られた花かんむりだった。
フィルはあの場所に座り込んでこれを作っていたようだ。
「わあ、フィルちゃんありがとう!」
カティは自分の頭をペタペタと触り、フィルの首に腕をまわして抱き着く。
まんざらでもなさそうな顔でニヤつくフィル。
「さ、二人とも行くよ」
一通り喜び合った二人に、リタは声をかける。
カティが案内してくれた花屋では、快く花束を作ってくれた。
断られたらこのまま渡すしかない、と思っていたリタはホッと胸を撫で下ろした。
店主の提案で、その場でメッセージカードも書かせてもらえることになった。
店の奥から大きな白い画用紙とカラフルなペンを出してきて、カティに渡した。
「お、た、ん、じょ、う、び、お、め、で、と、う」
声に出し、一文字ずつ丁寧に書き進めていくカティをリタとフィルは温かく見つめる。
「できた!」
「お、上手だね」
カティが持ち上げた画用紙には、大きな三角耳の優しげな顔――たぶんカティのお母さんだろう、が描かれている。
「じゃあ帰ろうか」
「うん!」
リタが画用紙を軽く丸めると、店主がリボンをかける。
完成した大きな花束を見たカティは、とてもうれしそうだ。
あまりに大きいので花束はフィルが、画用紙をカティが持つことにした。
「カティのお家はどっち?」
「あそこを曲がったとこ!」
カティが指差すのは、花屋からすこし離れたところだった。
跳ねるように走り出したカティとフィルを、リタは追いかける。
「リタちゃん、はやくー!」
「リタおそーい」
曲がり角の少し手前で立ち止まったカティとフィルは、遅れて走るリタを振り返り手をふる。
ようやく二人に追いついたリタは、息を切らし膝に手をつく。
「ちょ、っと、待って……」
リタの息が整うまで、二人は足踏みをしてまだかまだかと待った。
ようやく息が整ったリタが二人に声をかける。
「……お待たせ、じゃあ行こうか」
「「おー!」」
再び声が揃った二人は、顔を見合わせてケラケラと笑った。




