お花を見つけて早くお家に帰ろうね
ドンドンドン
お昼ご飯を食べ、洗い終わった食器を片付けているリタの耳に届いたのは玄関の扉を叩く音だった。
誰かが訪れてくるだなんて考えられない。
聞き間違いか、と思ったリタは片付けを続ける。
ドンドンドン
ああそうか、両親からの荷物が郵便受けに入らなかったんだ、と思いフィルに声をかける。
「ちょっと手が離せないからフィル出てよ」
「やーだー」
ベーッと舌を出すフィルに、リタはため息をついた。
「はーい、開いてますよー」
キッチンから玄関に向かって大声を出す。
「リタ、うるさい……」
「フィルが出ないからでしょ」
少しの間なんの反応もなく、リタとフィルは顔を見合わせ首をかしげる。
リタは慌てて食器を机に置き、玄関へ向かう。
「ありがとうございま……うわっ」
扉を開けるとそこには、三角の耳を持った獣人族の小さな女の子が立っていた。
「え、こんなところでどうしたの?」
「ぅにゃああああああ……ぐすっ…にゃ……」
リタが女の子の目線に合わせるようにしゃがみ込み話しかけると、女の子をはその小さな体から出ているとは思えないほど大きな声で泣き出した。
目からは大粒の涙がポロポロと零れ落ちている。三角の大きな耳は完全に垂れていて、悲しみを表しているようだ。
「え、っと、迷子かな?」
リタが優しく彼女の頭に触れ問いかけると、帰らずの森の方を指さす。
完全に迷子だ。
とりあえず早く送ってあげよう、と頭を優しくなでてなだめる。
リタの優しい手に、少女は少しずつ落ち着き始めた。
少女が濡れた目をごしごしと手でこする。まだ少しじんわりと涙がにじんでいるようだが、ほとんど泣き止んだようだ。
とりあえずリタがホッと胸を撫で下ろした瞬間だった。
「リター、どうしたのー?」
少女の大きな声に反応したのか、フィルが玄関を開けた。
ヤバい、と思った瞬間にはもう遅かった。
少女は完全にフィルの姿を確認し、再び泣き叫ぶこととなった。
「フィル、謝って」
「なんでわたしが……」
「いいから!」
フィルは渋々、ごめんなさい、と少女に頭を下げる。
一方の少女はソファの端でリタにべったりとくっつき、不思議ものを見るような目でフィルを見つめている。
そりゃあそうだろう。
迷子になった先で知らない人が突然裸で出てきたら……私でも泣くかもしれない、とリタは少女に心底同情した。
謝らせられたことも、無理やりワンピースを着せられたことも不服なフィルは、いつも以上に頬を膨らませている。
「落ち着いた?」
「……ん」
「お名前は?」
「……カティ」
カティと名乗った少女は目に残った涙をぬぐい、突然立ち上がった。
「お花! 誕生日だからね、お花探してたの!」
そう言って手を大きく広げる。
「こーんなにいっぱいあげるの!
それでね、森に行ったの。でもね、行っちゃだめって言われてたのにね……」
そこまで言って、思い出したかのように再び涙を流す。
「プレゼントしようと思って森に入ったんだね?」
リタは、無言でうなずくカティの涙を優しくぬぐう。こすりすぎて目の周りが真っ赤だ。
「じゃあ私も手伝ってあげるから、お花を見つけて早くお家に帰ろうね」
「……いいの?」
カティの顔がパッと明るくなり、三角の耳も立ち上がる。
「じゃあ行こうか」
リタがカティの手を取り玄関に向かおうとすると、フィルが服の裾を掴んだ。
「あ、フィルは家にいていいからね。
昨日残したクッキーも棚に入ってるから……」
「わたしも行く……」
「え?」
「わたしも行く!」
ムッとしてそう言い切ったフィルは、跳ねるように立ち上がった。
突然のその動きに、カティの耳がピクリと反応したのをリタは見逃さない。
「カティ、フィルも行きたいって言ってるんだけど、どうかな?」
「……いいよ」
気を使っている……、と思ったリタだったが、少し違ったようだ。
カティはフィルに手を差し出す。
差し出された手を恐る恐るつかんだフィルに、カティは笑顔を向けさえした。
子供はわからないな、とリタは不思議に思った。
「そういえば、私たちまだ名前を言ってなかったね。
私はリタ、そっちの子はフィル」
「リタちゃんと、フィルちゃん」
カティは小さくそう呟いて、ふっとフィルの方を見た。
「フィルちゃんはどうして裸だったの?」
「だってー、服って……」
「フィルはお風呂上がりだったんだよ! ね、フィル」
服を着るのが面倒くさい、と言いかけたフィルの声を遮るように大声を出したリタ。
面倒くさいから着ない、なんてよく考えれば子供に聞かせるような話ではない。
リタの声に圧倒されて、フィルは反射的に頷く。
「そ、そうなんだよー! お風呂上がりだったの」
「そうなの? お風呂上りでもね、外に出るときは、お服着た方がいいよ」
小さな子に諭されてシュンとするフィルに、リタは苦笑いをした。
「さ、フィルもカティも行くよ」
「「おー!」」
二人の声が綺麗に重なり、三人は笑いながら帰らずの森へ向かった。




