81話 ごーすぃーばぁーぐれいしゃくいんっ!
お蔵入りしていた18話の一部を引っ張ってきました。
1940年6月24日 イギリス ロンドン
コンピエーニュの森でのドイツとフランスの休戦協定の締結も無事に終わって、ドーバー海峡を越えてブリテン島にやってきました。
ドゥーチェことムッソリーニおじさんとは、パリでお別れをしました。
なにやら、ドゥーチェとヒトラーは密談をしていたようでしたけど、仮に戦争が再開するにしても当分は先の話になるでしょう。
そうなるよね……?
『ごーすぃーばぁーぐれいしゃくいんっ!』
神よ女王陛下を護り賜え。これが頭の中で響き渡ってる桜子です。
だって、未来の女王陛下が、私の目の前にいるのだから仕方ないよね!
「桜子! ひさしぶりだね!」
「ローズもお元気でしたか?」
ローズ王女殿下とは三年ぶりの再会になります。この三年の間に、ローズが大きくなっているだろうとは思っていましたけど、可愛らしい女の子から綺麗な女の子に変身までしていたとは!
子供時代の三年は侮れませんね。まあ、可愛いと綺麗が同居している微妙な年頃ともいいますけど。
うん。ローズはまだ少女なのに既に貫禄といいますか、女王の風格の片鱗が見受けられる気がしますね。
前世の魂が平民、小市民の私では、彼女には到底太刀打ち出来そうにない、血に裏打ちされたナニかがあるようです。
気品とかなのかな? まあ、私に気品を求められても、ね?
ですが、私も日本を代表して遥々イギリスまでやって来たのです。血というのならば、こちとら、約2600年の伝統があるので、あるらしいので、私の魂はともかく、血だけはヴィクトリア朝にも負けてません!
日本の皇室の伝統が2600年は眉唾としても、最低でも1500年ぐらいは遡れそうですしね。初期の天皇の寿命は、誤魔化すとか、もう少しなんとかならなかったのかな? 百数十歳まで生きたとか、誰も信じませんってば……
あれ? 現英国王室は、ウィンザー朝だったかな? それとも、ザクセン・ゴータ朝? 詳しくは知らん。
もう一括りに、ハノーヴァーで良い気がしてきた。
こうやって、英国王室の系図を頭で描いてみると、イギリスなのにドイツ系なんだよね。その事実に、ヴィクトリア女王の時代までは王室の中では、ドイツ語が主流だったみたいですし。
そう考えると、欧州の王侯貴族って、どこかで必ず血が繋がっている感じがしますね。これが閨閥というヤツなのでしょう。王室や貴族の地位と財産を守るためには、近い身分同士で結び付きやすいということですね。
もっとも、日本も似たようなモノでしたか。洋の東西に関係なく、権力者の考えることは同じ思考になるってことだね。
しかし、その割には、欧州では戦争が絶えないような気がしないでもない。 第一次世界大戦なんて、ヴィクトリア女王の孫同士の戦争と言っても過言ではなかったはずですし……
ヴィルヘルム2世は外孫だし、ニコライ2世のお嫁さんもヴィクトリア女王の外孫だしね。それに、ヴィルヘルム2世とニコライ2世も"はとこ"ぐらいの関係だったはずでしたしね。
「ロンドンに爆弾が落ちてこないかとヒヤヒヤしていたんだよ」
「戦争が終わって良かったね」
「うん! これも桜子がドイツに停戦を呼び掛けてくれたおかげだから、桜子に感謝しなきゃね!」
「停戦が実現したのは、偶然と幸運にも恵まれたような気もするけどね」
停戦を呼び掛けはしたけど、まさか私も本当に停戦が成立するとは思ってなかっただなんて、いまさら言えない……
ただ単に、ええかっこしいをする機会があったから、口を挟んでみましただなんて言えるわけないよなぁ。
「タイムズの一面に桜子が載っているのを見てビックリしたんだよ!」
「あはは、私も一躍有名人になっちゃったかな?」
ローズは元気がありあまっていますね。子供は元気が一番ですよね!
ていうか、私も子供だったよ……
私は子供の役をちゃんと演じられているのだろうか? たまに不安に駆られます。
フィルムはあってもビデオカメラはないから、チェックが難しいのですよ。
「王室皇室の人間は元から有名人だとは思うけど、タイムズの一面に載ったことで、桜子がイギリスで有名になったことは間違いないわね」
「日英の友好親善に役立つのであれば、有名になるのも悪くはないのかな?」
「うんうん。王室の役割って、国内を纏めるのと外国との友好親善だもんね!」
「私はノブレス・オブリージュに従ったまでだよ」
「そうだよね! ノブレス・オブリージュに従わなければ、王室や貴族の価値が問われてしまうよねぇ」
さすがは、ちゃんとした帝王学の教育を受けているローズは言うことがひと味違いますよね。
私の場合は、皇室でも分家で更に女子ということで、帝王学もかなり緩めの教育なのであります。
「臣民、国民の税金で食べているのだから、王室や貴族は国民の役に立つことをしなければ、それこそロシアの二の舞になってしまうからね」
「そうだった! なにがなんでも共産革命は防がないとね。それにしても、桜子の英語は流暢で綺麗ですね」
「私のお父様もお母様も喋れますし、英語は日本の皇族の嗜みですので、お母様に躾けられました」
語るも涙、聞くも涙で、スパルタ式の英才教育でござった。あれは幼児にする教育か? そう、私が文句を言っても罰は当たらないと思います!
あと、何気に、侍女の夏子さんの語学力も優秀でしたね。
「そういえば、桜子のお母様である勢津子妃殿下はロンドンの生まれとか?」
「赤ちゃんの頃だけみたいですけど。一番英語に親しんだのはワシントンに住んでた時とか言ってました」
お母様のお父様は外交官でしたので、お母様は外国暮らしが長かったのですよね。
だから、英語もネイティブ並みにペラペラということであります。
「それでも、ロンドンの生まれなんだから、なにか縁を感じるわ」
私はロンドンの生まれじゃないっす!
しかも、魂は並行世界の未来から迷い込んだ、浮遊霊みたいなものっす!




