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51話 欧州情勢は複雑怪奇


 1939年8月中旬 ソビエト連邦 モスクワ



「東トルキスタンには石油がありますよ?」


「は……? 聞き取り難かったので、もう一度お願いします」


「東トルキスタンには石油があると申しました」


「ほう? それは大変興味深いお話ではありますな。まだ少しお時間に余裕があるのでしたら、お茶のおかわりでもいかがですか?」


「では、お言葉に甘えさせて頂きます。こう見えても、私は甘党でしてね。ロシアンティーには目がないのですよ」


「それは好都合というものです。おーい、大使殿に、お茶のおかわりをお出ししろ」






「玉門関までなら、貴国、ソビエト連邦の勢力圏として認めるのも、我が国としては、やぶさかではないのですがねぇ」


「ほう? つまり、我が国の支那に対する影響力を認めるという意味と受け取ってもよろしいので?」


「あくまでも、玉門関までという、但し書きは付きますがね」


「東トルキスタンは、玉門関の外側でしたなぁ」


「古来より、支那が何故、万里の長城や関を設けていたのか考えれば、おのずとお分かりになるかと存じますが?」


「なるほど…… その外側は、支那ではないという論理ですか」


「そういうことです」


「我が国が東トルキスタンを傀儡にするのを、貴国は黙認して頂けると?」


「我が国は既に、満州国を傀儡にしておりますからなぁ。貴国が東トルキスタンで何をしようが、非難する資格は我が国にはないでしょうね」


「やぶへびになるという事でしたか」


「今迄の貴国、ソビエト連邦の方針としては、我が大日本帝国と中華民国を争わせておいて、我が国の目を沿海州やシベリアに向けさせない方針が、貴国の国是であったと愚考します」


「それには、お答えしかねますな……」


「我が国と致しましては、貴国の方針は許容出来かねますが、貴国とも折り合いを付けなければなりません」


「それが、貴国は満州を取って、我が国が東トルキスタンを取る事に繋がるのでしたか」


「ええ、我が国だけ得をするのは、貴国からみれば、些か不公平でしょうからな」


「我が国の事情に配慮して頂けるのは嬉しいですね」


「我が国は、反共産主義ではありますが、反ロシアではないという事です」


「ほう? それはどういった意味でしょうか?」


「そのままの意味ですよ。それ以外の他意はありません」


「では、反ロシアではないと、言葉通りに受け取ってもよろしいのですな?」


「トロツキー氏の世界共産革命という過激な思想ではなくて、スターリン書記長は、一国共産主義ではなかったですかな?」


「それはまあ、確かに……」


「日露戦争以降、帝政ロシアが崩壊するまでは、我が国とロシアの仲は良好でした」


「先の欧州大戦の折には、同盟国同士として、共にドイツと戦いましたな」


「貴国がロシアを代表して、帝政ロシアの後継を自認するのであれば、友好の歴史に戻りたいですなぁ」


「それは、我が国もやぶさかではありません」


「貴国ソ連が、我が国の共産主義勢力に肩入れをしないのであれば、政治的な主義主張は関係なく、日ソの友好関係も築けるのでは?」


「共産主義を輸出するなという意味でしょうか?」


「トロツキスト粛清をしたからといって、貴国の国内には、まだまだ大勢の隠れトロツキストが潜んでいるのでしょう?」


「それについては、ノーコメントということで」


「つまり、本当の敵は身内にありという事でしょうなぁ。スターリン書記長の正当性を担保する意味においても、貴国が一国共産主義を貫き通すのであれば、我が国は貴国に対して資本主義を輸出しません」


「お互いに、内政不干渉という事ですな」


「ええ、そうであれば、我が国は貴国と争う理由はありませんな」


「書記長にお伝えしましょう……」


「ええ、是非そうして頂きたいですな。ああ、それともう一つ」


「なにか言い忘れでも?」


「少しばかり小耳に挟んだのですけど、貴国は最近、ドイツと仲がよろしいようですな」


「ドイツとは、先の欧州大戦以降、ずっと仲が良いですよ」


「左様でしたな。しかし、タキシードとウエディングドレスの姿が見られる日が来るとは、天地がひっくり返っても思いもしませんでしたもので」


「それは、どういう意味ですかな?」


「なに、他意はありません。お茶のおかわり、美味しかったですよ」


「それはどうも……」









 1939年8月24日 東京 秩父宮邸



【ドイツとソ連が不可侵条約を締結!】



 モロトフ=シャンパン商人協定キター!


 これはもう、第二次世界大戦の開戦は確定したも同然ですよね?

 ということは、ソ連も二正面作戦はしたくないでしょうし、ノモンハン事件はそろそろ停戦に合意する段階の気がしますね。


 ソ連がその次に取る行動は、冬戦争でしたか。フィンランドに義勇兵や物資を送って、フィンランドをテコ入れして是が非にでも、アカのおフェラ豚を苦しませたいですね!

 反共産主義の行動を取るというのは、後世では評価される項目なのですから。世界中がフィンランドを見捨てる中、大日本帝国は地球の裏側からフィンランドを救援したと、評価される日がきっと来るでしょう。


 え? ポーランドにバルト三国は、どうするのかだって? 知らんがな。残念ながらも、さすがに日本もそこまでは手が回りませんので、ごめんあそばせ。




 8月25日



【日本政府は、独ソ不可侵条約は防共協定違反だと、ドイツを非難!】



 まあ、普通はドイツを非難しますわな。といいますか、日独防共協定って締結してたのね。いつ締結していたのでしょうかね?

 この世界線では史実と違って、ドイツとは疎遠だったので、防共協定を締結した記念行事もイマイチ盛り上がらなかったのでしょうね。印象が薄過ぎて記憶にも残らなかったのだから、知らなかったよ。


 非難するに止まらず、防共協定なんか初めから骨抜きの協定なんだから、さっさと破棄してしまえばいいのにと思わなくもない。


 それに、元々ドイツ外務省は、日本よりも支那との友好に比重を置いていましたし、日独防共協定は、シャンパン商人の実績作りの為に、日本は利用された側面もあった気がしますね。

 ドイツ外務省の内輪での権力闘争に、日本を巻き込むなと言いたい。ノイラートなんかは、日本は役に立たないのだからと、日本との防共協定締結には否定的でしたしね。


 史実では、そのノイラートの言葉は、半分以上は正解だった気がしますね。

 ドイツはアメリカに対して宣戦布告する必要はなかったのに、ヒトラーが日本の真珠湾攻撃とマレー沖海戦の大戦果に舞い上がってしまい、結果的に日本に引きずられる形で、アメリカに宣戦布告をしたのは失敗だったと思います。


 まあ、たとえ、ドイツがアメリカに対して宣戦布告をしなくても、遅かれ早かれアメリカの方から宣戦布告されていたと思いますので、ドイツの敗戦という結果は変わらなかったような気もしますがね。




 8月26日



【独ソ不可侵条約に対抗する為に、イギリスとポーランドが相互援助条約を締結! 二度目の欧州大戦は秒読みか?】



 イギリスとポーランドが相互援助条約を締結しても、ポーランドは救えないんだよね…… でもまあ、イギリスがドイツに対して宣戦布告する、大義名分にはなるのかな?

 あと、ポーランドを見捨ててないよ! とかいう、イギリスの言い訳に利用される為の条約ともいうのかも知れません。


 でも、ポーランドの地政学上、イギリスが軍隊を派遣して助けるのは無理がありますので、ポーランドには致し方なしと諦めてもらいましょう。

 ゲームでは、無理をすれば助けられないこともないのですが、現実では無理なのです。




 8月29日



【『欧州情勢は複雑怪奇なり』との迷言を残して、近衛内閣が総辞職!】



 あーあ、お公家さんは、やっぱり内閣を投げ出してしまいましたか。でも、史実でこの迷言に似た言葉を言ったのって、別の総理大臣でしたよね?


 まあ、歴史を知らない、この当時を生きている人にとっては、独ソ不可侵条約は一瞬思考が停止してしまう程の、ショックな出来事だったのでしょう。

 だから、別人であっても、似たような言葉が出てきても、おかしくはないのかも知れませんね。


 しかし、それだからといって、内閣が総辞職することはないと思うのですけど?

 麻呂の考えていることは、イマイチ理解できません。


 日本も戦争を見据えての行動ということなのかも知れませんね。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確か、近衛文麿総理大臣=平成初期の「坊ったン」総理の爺ちゃん(だよね?)
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