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33話 艦政本部長ですけど少女の絵を検分しています


 東京 秩父宮邸



「フフフンフンフン♪」


「藤宮様、ご機嫌ですね」


「まあねー」


「今度は何を描いておられるのですか?」


「じゃじゃーん!」



 桜子ちゃん特製、機関のシフト配置図であります!


 これを、艦政本部のお偉いさんに渡せば、片側の機関がやられても、もう片方の機関は生き残る可能性が高いので、軍艦の生存性も高まるというものです。

 日本の軍艦は、ダメージコントロールが弱かったのが弱点の一つでしたので、これで、改善されることを期待しましょう。


 といいますか、こう聞かれるパターン多い気がしますね。前にも同じパターンが何度かあったような気がするし、既にパターン化されているような気がしないでもない。


 でも、様式美って大切だと思いませんか?



「シフト配置ですか?」


「そうだよ。片方の機関を敵の魚雷とかでやられたとしても、もう片方の機関で動けるようにする方法だよ!」


「なるほど、それは素晴らしい方法ですね」


「そうでしょ! そうでしょ!」



 もっとも、もう既に、フランス海軍とかでは取り入られている方法ではあるようなのですがね。

 どうも、日本の陸海軍は、防弾やら被弾に対しての認識が甘いような気がしますね。将兵の生命を軽んじている風潮が見受けられるのですよ。


 軍艦や航空機もそうですけど、専門職の軍人を育てるのには、国民の血税が使われているというのに、その認識が欠如しているのではないかと思われるのですよね。

 これは、大問題だと思います。


 その国民の血税で育てた、専門職の軍人を簡単に死なせるわけにはいかないということを、もっと軍人には理解して欲しいですね。

 魚屋で一山いくらで売られている、シジミとかではないのですから……


 いや、シジミは美味しいけどさ。



「でも、空から爆弾を落とされたら、どうなります?」


「缶と主機の配置場所が違うから、爆弾一つ落とされただけでは、全部は壊れないよ! 多分……」


「本当ですかねぇ……」



 す、少しは、信じなさいってば!


 史実よりも、対空兵装も強化されてるはずですし、きっと大丈夫だよね?









 東京 赤レンガ 艦政本部



「ふーむ…… シフト配置とな?」


「あー、これはもしかして、藤宮様のお描きになった絵ですよね? 懐かしいなぁ」


「何故分かった? 貴官は、この絵を知っておったのか?」



挿絵(By みてみん)



「いえ、この絵は初めて見ましたけど、過去に似たような絵を見ていますので」


「ふむ?」


「過去にも藤宮様のお描きになった絵が、二枚ほど艦政本部に届けられたのです」


「百武さんからの申し送り事項としては、聞かされてないぞ?」


「二年近く前の話でしたし、もしかしたら、前本部長も申し送りで伝える程ではないと、そう判断したのかも知れません」


「それでは、あの軍機の判を押してあった絵がそうだったのか?」


「本部長も、ご存知じゃないですか。ええ、そうなりますね」


「子供の描いた絵が、何故、軍機なのか疑問に思ったものだが……」


何分なにぶんにも、軍の沽券に係わるとのことなので、前本部長からは内密にとのお達しでしたもので、引き継ぎでも触れなかったのでしょう」


「あの絵は、ブロック工法や電波探知機のアイデアだったな」


「はい。ブロック工法は情報が漏れるのは仕方ないにしろ、電波探知機は最重要の軍事機密ですから、藤宮様のお描きになった絵も、当然の如く軍機という訳です」


「なるほど…… しかし、これは本当に、藤宮様のアイデアなのか?」


「実際に、このシフト配置の設計図とも言えない設計図の絵は、どう見ても子供の描いた絵ですよ」


「まあ、大人が描いたとしたら、稚拙すぎる絵ではあるな」


「この際、藤宮様が描いたのかそうでないのかは、些細な問題だと思います」


「と言うと?」


「誰が描いた絵であろうと、有用なアイデアであれば活用するべきかと」


「それは、確かにその通りだな」


「その証拠に、ブロック工法で建造された船は、従来の工法で建造された船に比べて、平均して工期が三割ほど短縮するなど、藤宮様のアイデアは既に実績を残しております」


「確かに、ブロック工法は画期的な造船技術ではあるな」


「そうですね。また、電探も実用化の目途が付いております」


「それは理解したが、しかし、なんでまた、この時期になって突然、アイデアを絵に描いて寄越したのだ? 二年振りぐらいなんだろう?」


「さあ? それは藤宮様に聞いてみなければ、小官ではなんとも……」


「まあ、それもそうだな」


「ただ単に、アイデアが浮かんだから、それを絵に描いてみただけなのかも知れませんね」


「アイデアが浮かばなければ、描きようがないのは事実ではあるな」


「もしかしたら、本部長が機関科出身というのもあるかも知れませんが」


「藤宮様は、私の出身まで調べていたというのか?」


「その可能性はあるかと」


「私が機関科出身だから、機関のシフト配置のアイデアも採用されやすい。そう、藤宮様が考えたということか」


「あくまでも、推測の域ですがね」


「ふーむ……」


「それで、この機関のシフト配置ですけど、是が非にでも採用すべきかと存じます」


「貴官もそう思うか?」


「はい。この絵に注釈してあるように、仮に右舷の缶や主機が魚雷などでやられたとしても、左舷側の缶と主機は生き残る可能性が高まります」


「そうであろうな。シフト配置にすれば、一度に主機を全滅するのは避けれそうではあるな」


「はい。そうすれば、自沈や曳航をせずに、自力で港まで帰還することもできます」


「ふーむ…… 作戦行動中に他の艦の手を煩わせる手間が省けるのは大きいか」


「また、沈没を免れて帰港できれば、修理して戦線に復帰させることも可能かと」


「戦力は多いに越したことはないからな」


「我が国には、ボコスコと船を沈められても大丈夫な余裕などありませんしね」


「しかし、このシフト配置は、ブロック工法とは相容れないような気もするが?」


「機関をシフト配置にすれば、どうしても余分な工程数は掛かるでしょうね」


「そうであろう?」


「ですが、生存性が高まるのは魅力的ですよ」


「将兵の生命には代えられないということか」


「それは機関科出身の本部長が、一番ご理解しているのではありませんか?」


「そうであったな……」


「取り敢えず、小型の海防艦か何かで試してみませんか?」


「そうだな。マル3オマケ計画で建造予定である、択捉型海防艦の設計の一部を変更してみるか」


「さすがは、艦政本部長であります。話が早くて助かります!」


「おだてても、何も出んぞ?」









 東京 秩父宮邸



「う゛ー」


「藤宮様、頭を抱えていかがなされました?」


「うん、ちょっとね……」



 い、言えない。機関のシフト配置のアイデアを出し忘れていただなんて、いまさら言えない……



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