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29話 天皇陛下は言いました


 1937年11月 東京 青山 女子学習院 本科前期校舎



 大日本帝国臣民の皆様、ごきげんよう。女子学習院の本科に来ている桜子です。


 ……暇だ。勉強することがない。暇を持て余しているといってもいいでしょう。


 女子学習院の本科とは、未来で言ったら小学校に該当します。それで、前期課程は4年で、小学一年生から四年生までの期間と同じですね。中期過程も4年間で、小学五年から中二までに当たります。後期は3年で、中三から高二ですね。

 その上に、高等科がありまして、これは2年間となります。短大みたいなモノですね。


 つまり、4・4・3・2の合わせて、13年という変則的な教育課程となっているのです。

 それ以外に、幼稚園が2年あって、この春までは私も、一応は幼稚園に通っていたのだ!


 つまり、この春からは、二度目の小学校一年生を体験しているというわけなのです。

 もっとも、入学する前に欧州へと旅立ってしまったので、書類上は在籍しているけど、実際に通い始めたのは帰国してからなのですがね。でも、幼稚園からの内部入学組が半数以上いますので、けして、一人ぼっちとかではないのですよ?


 前世での、6・3・3・4制に慣れていた身としては、いささか戸惑っているといったところが、正直な感想でしょう。






「天のうへい下は、玉音でこういいました。赤石山には金がある!」



 ん……?



「それをきいた竹中村の大男は、足早に赤石山へとむかいました」



 竹中村と赤石山ってドコだよ?



「天のうへい下は、玉音でこういいました。ぞう木林には、大きなかぶと虫がいる!」



 カブトムシやクワガタって栗の木が好きなんだっけ? 忘れてしまったなぁ。



「目立ちたがりの男の子は、学校を休んで、かぶと虫をつかまえようと森に入っていきました」



 学校をズル休みしたら、あきまへんがな……



「天のうへい下は、玉音でこういいました。月火水木金土日、まい日まい日、糸車をまわせと」



 糸車を回せって、ガンジーみたいな気がしますね。



「女の子は、糸車をまい日まい日、百かい千かいとまわしました」



 なんという、野麦峠……

 それにしても、なんだか、この朗読には聞き覚えがある気がしますね。



「つかれて、石にすわって休んでいると、女の子の目の先で虫がたく山とんでいました」


「女の子は、こわくなって目をつぶりました」



 目の前で虫が沢山飛んでいたら、そりゃ怖いだろうね。



「耳をすませば、右の森からざわざわと音がきこえてきます」


「木や草の音でしょうか? それとも、川の水の音かもしれません」



 ふむ、ちゃんと文章が繋がっているのか。



「女の子は、ゆう気を出して目をひらけば、足下の土には文字をかいたような、水玉もようがうかんでいました」



 うん? どういう状況なんだ?



「女の子は、手を出してみると、水にぬれました」


「青い空を見上げれば、天から雨がふってきました」



 あー、なるほどね。



「女の子は、あわてて犬の五十六と一しょに林へと足をむけました」



 五十六って…… 山本?



「しばらく林で休んでいると、雨は上がったみたいでした」


「赤い夕日がとてもきれいだとおもいました」


「六じのかねの音が貝田の町からきこえてきました」



 貝田町ってドコにあるのでしょうかね?



「どーん! という音で空を見れば、花火が上がっていました」


「よ空には、三日月のお月さまが見えました」



 花火もお月様も綺麗なので、その光景が目に浮かぶような気がします。



「三左、おぬしは文字がよめぬから、上人にだまされておるのに気づいてないのだ」



 いきなし、話が飛んだな。それと、三左? 森蘭丸のお父さんの、森三左衛門可成ですかね? それに、上人って本願寺顕如? 坊主は口が上手いから、三左もコロっと騙されたのでしょうね。

 織田家と一向宗の争いの元は、こんなところにあったのか…… そりゃあ憎しみ合うはずだよ。



「王さまの耳はロバの耳という名まえがついているのじゃ」



 なんで、そこでロバの耳が出てくるんだ?



「こうして一休さんは、学びの大せつさを、年はもいかぬ子どもたちにおしえてくれたのです。おしまい」



 語り部は一休さんだったのか!

 でも、年代も洋の東西もあべこべの気がするのですが?


 誰だ、こんなデタラメな教科書を書いたのは!






 私でしたよ……


 昨年のある時期に、来年入学する女子学習院の本科一年生で習う漢字のみで、文章を書いてみたくなって、思わず作ってしまった駄文だったよ。

 多少の抜けがあるとは思いますけど、一年生で習う漢字をほぼ網羅していると、自負する出来ではあるのです。


 だがしかし!


 なんで、教科書になんかなっているんだ?

 アレは暇つぶしの手慰み、遊びで書いたモノなんだぞ!


 書き散らしたら満足して、すっかり忘れていたのに、まさかこんな形で再会するとは……


 それにしても、こんな脳味噌が膿みそうな文章が、よく検定を通ったよな。

 不思議ですよね? こんなんで、日本は大丈夫なのでしょうか? 心配になります。






「はい、みなさんよく読めましたね」



 うん、楽しかった! 暇つぶしにはなったよ。



「では、最後に、金剛石、水の器を、みなさん一緒に歌いましょう」


「「「「「はーい!」」」」」






「金ごう石も、みがかずば~♪」



 まあ、そうだよね。金剛石も磨かなかったら、光り輝かないもんね。私も初心に帰って、学ぶ大切さを思い出させて貰いました。


 それにしても、この歌って、明治の初め頃に作られたはずの歌なのに、ちっとも古めかしさがなくって、現代で歌っても違和感がないのが凄いと思いますね。









 赤坂御用地 秩父宮邸



「ねぇ、夏子さん……」


「藤宮様、なんでしょうか?」


「昨年の今頃に、私が書いた台本形式の小説って、何処に仕舞ったか知らないかな?」


「さ、さぁ~、掃除のおばちゃんが捨ててしまったのでは?」



 私の部屋を掃除するのは、アンタだろーが!

 やっぱり、犯人はコイツだったのか!


 まったくもう、ぷんすかぷんであります!



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