26話 覚悟はよいか? よろしい、ならば……
1937年8月 スイス ローザンヌ
ぼんじゅーる! ぐーてんたーく! ぼんじょーるの! ぐっどあふたぬーん!
永世中立国である、スイス連邦の皆様、ごきげんよう。日本の皇族である藤宮桜子内親王が、日本国民を代表してスイスの皆様にご挨拶を申し上げます。
国民全てが兵士となって、最後の一兵になるまで戦う覚悟はできましたか?
祖国を、郷里を、我が家を焦土にしてまで戦い抜く準備は整っていますか?
平和とは、中立とは、けして、よその国から与えられるモノではないのです。自分の血を流す覚悟があって、外国に戦争は割に合わないと思わせられて、はじめて掴み取れるモノだと思います。
けして、脳内のお花畑には、現実の平和は存在し得ないのであります。
……覚悟完了ですか?
よろしい、ならば……
エリコン20mm機銃の性能をもっと改善してください。
小便のように垂れるって馬鹿にされてますよ?
あと、もっと携行弾数を増やしてください。60発しか撃てないだなんて、すぐに弾切れを起こして戦闘不能になってしまうではありませんか!
最低でも、250発は欲しいところであります。それには、ドラム式ではなくて、ベルト式の給弾装置が必要ですね。
対爆撃機だけでなく、ヘルキャットやコルセア、ムスタング等との対戦闘機戦闘においても、20mmの携行弾数は多いことに越したことはないのですから。
むしろ、対戦闘機戦闘の方が携行弾数の不足は命取りになりかねません。
でも、エリコン20mm機銃は、ベルト式には不向きとか聞きかじった記憶がありましたね。
まあ、そこは、日本伝統の魔改造で世界中で日本だけが、エリコン20mm機銃のベルト式給弾をを実用化しちゃうのですがね!
でも、開発を促進させるためにも私からもこっそりと、砲身の長身化とベルト式の情報を流しておいた方が、より早く実用化されることでしょう。
これで、B-17でも、B-24でも、B-29でも、バッタバッタと撃ち落としてやんよ!
20mmでも、十分に大型爆撃機を撃墜は出来るのですけど、やや威力不足な面も否めないので、25mm航空機関砲が欲しいところですね。
私、個人としましては、20mmの次の口径が30mmなのは、納得がいかないのです。
なぜ、25mmの航空機関砲を開発しなかったのでしょうか? 30mmは機体にも負荷が掛かりすぎるとかなんとかの問題もありましたし、30mmよりも25mmの方が重量的にも携行弾数も増やせるはずなのですから、継戦能力も高まると思うのですが。
せっかく、海軍の艦艇にホチキスの25mm対空機関砲が大量に配備されたのですから、その25mm対空機関砲をちょちょいのちょいっと改造して、航空機関砲に出来なかったものなのでしょうか?
これは、検討する余地がありそうな課題だと思います。
『よーろほーいにょほほにっにょほほいっよほほ♪』
脳内で変換されるアルプスの歌がリフレインして困っている桜子です。
レマン湖の畔、ローザンヌという町にやってきてます。遠くを見渡してみますと、東にはアイガーやユングフラウ、南にはマッターホルンやモンブランとか、4000m級の山々の頂が見えます。
こうやってみますと、スイスという国が永世中立を勝ち取れたのは、アルプス山脈やレマン湖、ボーデン湖などの天然の要害に守られていたからこそ、攻め寄せても占領するのが面倒くさい土地だというのが、永世中立を勝ち取れた理由の一つの気がしますね。
もっとも、周辺各国との外交、政治情勢の中から生まれた、妥協の産物だったのかも知れませんが。
しかし、スイスは三つも四つも言語がある国なのに、よくもまあ、一つの国として纏まれたなぁ。そう、思わないでもない。まあ、だからこそ、連邦制なのでしょうけれども。
それで、此処ローザンヌは風光明媚な保養地ですので、静養を兼ねて滞在中なのです。
お父様やお母様は、三年後に日本で東京オリンピックと札幌冬季オリンピックの開催がありますので、ピーアールの為にチラホラと社交の場にも顔を出してはいるのですけど、私は完全にダラけきっております。
ちなみに、私たちのヨーロッパ数ヶ国訪問の旅と観艦式に使われた比叡ですけど、ストックホルムでのボフォース40mm機関砲を装備する改装も終わって、7月の初めには一足先に日本への帰途についてます。
私たち一行は、9月一杯までは欧州に滞在している予定ですので、それから日本への帰国の途に就いていたら、日本に到着するのは12月になってしまいますしね。
比叡の日本への帰途の航海は、貴人を乗せずに航海できますので、8月中には日本に帰れることでしょう。私たちだけのために、3ヶ月以上も欧州で比叡を遊ばせておくわけにも参りませんので、残念ながらも比叡とはお別れとなりました。
私の個人的な願望では、比叡乗組員には港でフジツボを取る作業をしてもらっていても、一向に構わなかったのですがね。
ボフォース社の倉庫にストックされていた40mm連装機関砲を16基ほど、お土産に買い込んだらしいです。四連装に換算すると八基分ですね。そんなにも、沢山の機関砲が比叡に載るのでしょうか?
全部を合わせても100トン以下ですので、重量的には大したことはないのですけど。正式に設置をするわけではないのだから、第四砲塔を撤去した後部甲板にでも仮置きして、載せて帰るのかも知れませんね。
もっとも、日本かスウェーデンの商船に積み込んで運ぶのかも知れませんが。
それと、残りの40mm機関砲は、日本でのライセンス生産でしょうか? 現時点での日本の技術力では、歩止まりが悪そうで心配です。
でも、千里の道も一歩よりとか言いますし、模倣して技術力を高めなくては、いつまで経っても技術力が低いままですしね。
7月の後半には、ドイツのバイエルン州のバイロイトで、バイロイト音楽祭を見学してきました。
やっぱ、ワーグナーはいいよね!
この件に関しては、チョビ髭伍長とも気が合いそうな気がしますね。
ニーベルングの指環の4部作、ラインの黄金、ワルキューレの騎行、ジークフリート、神々の黄昏。それに加えて、ローエングリン、タンホイザー、マイスタージンガー。これらが上演されました。
どれもこれも素晴らしかったのですけど、ただ一つだけ欠点があったのです。
長い……
長すぎて、途中で飽きてしまったり、眠くなったり、疲れてしまうのですよ。
一時間半程度のダイジェストに纏めたのを、上演すればいいのにと思わなくもない。
ちなみに、ドイツ訪問は非公式の訪問でしたので、お父様も要人との公式な会談とかはありませんでした。でも、史実だと、この後の9月には、ニュルンベルクで開催されるナチスの党大会に招待されるのですよね。
怖いもの見たさで、一度は見てみたいような見てみたくないような、そんな複雑な気持ちにさせられます。
こうしてみると、歴史の中に生きているんだなぁって実感させられますよね?