17話 ルール・ブリタニア
問題となりそうな部分をカットしました。
1937年5月 イギリス ロンドン
グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国の皆様、ごきげんよう。
大日本帝国の皇族である、私こと秩父宮桜子内親王が日本国民を代表して、イギリスの皆様へご挨拶を申し上げます。
『るーるぶりたっにゃ! ぶりたっにゃっるっうぇっ!』
頭の中で、ルール・ブリタニアが鳴り響いてる桜子であります。
統べよ、ブリタニア! 大海原を統治せよ!
言い換えれば、英国が世界を支配して統治するのだから、英国がルールだということですね。
それに、英国の民は、断じて! 断じて! 断じて! 奴隷にはならぬ!
つまり、穿った見方をすれば、『俺、飼い主だから、おまえらが奴隷な』
こうとも捉えられるのですよね。
さすがは、世界を統べ牛耳るブリカス。そこにしびれる! あこがれる!
話が逸れた……
「ジョージ6世陛下におかれましては、この度は国王への即位、誠におめでとう…ございます? …でいいのかな?」
この御仁は、ダークマターとか出せるのかな?
見た感じ、暗黒面には落ちてない気がしますね。
「こ、これ! 桜子さん、国王陛下に対して失礼ですよ」
「はははっ、子供は素直でよろしいですな」
さすがは、国王陛下。わかってらっしゃる。
「娘がとんだ粗相を致しまして、ご無礼、何卒ご容赦くださいませ」
お父様もお母様も、そんなに慌てなくてもいいのに。英国流のエスプリの効いたジョークでんがな。
イギリスのブラックジョークは世界一なのですから、これぐらいは、笑って流すはずですよ。
あの第一次世界大戦当時に流行った、遥かなティペラリーという名曲ですら、ロンドンへのお上りさんのアイルランド人を小馬鹿にした歌詞だった気がしますしね。
でも、アイルランド人も喜んで歌っていたらしいので、遥かなティペラリーの歌詞はブラックの境地までは行ってなかったのかな?
また、自国の飯がクソ不味いと外国に馬鹿にされても、『その通りだ』と、自国の大臣が肯定しちゃうぐらいには、度量も広い国がイギリスなのであります。
さすがは、世界に冠たる大英帝国の余裕ですよね!
未来でも、あの天下のBBCが、公然と人種差別を笑いの種にして放送しても、許される土壌があるのが、イギリスという国なのですから。
圧力団体の顔色を窺って、逆のベクトルでしか放送ができない日本の放送局も、少しはBBCを見習って欲しいですね。
「いやなに、実は言うと僕も、兄が突然に放り出した王位を継ぐ破目になったので、この王位継承は僕にとっても些か災難だったと思ってはいるのだよ」
「は、はぁ……」
あー、やっぱりね。本当は国王なんかにはなりたくなかったんだね。でも、吃音は気にならないけどなぁ。
もっとも、私がネイティブじゃないから、ちゃんとしたヒアリングができてないだけなのかも知れないけどさ。
でも、子供の頭ってスゲーわ。前世では、ほとんど喋れなかった英語が、この身体になったらスポンジが水を吸収するが如く、英語を覚えてしまったのだから。
子供はみんな天才とかとも言うし、きっと脳味噌がニュートラルなんでしょうね。
断じて、私の脳味噌自体がスポンジという訳ではない! 断じて!
これ、重要なことですから。
それにしても、オックスブリッジ系のキングスイングリッシュって、日本人には聞き取りやすい英語の気がしますね。カタカナ英語とでもいうのでしょうか? あまり巻き舌を使ってない感じがします。
これが、ロンドンの下町やアメリカ英語とかでは、また違うのでしょうけれども。
日本語の『危ない!』これが、ロンドンの下町で通用するぐらいには、汚い英語みたいなのです。
要約すると、『どこに目を付けてやがるんでぇ! このすっとこどっこい!』こんな感じでしょうかね?
Eyesほにゃらら… とか言うのでしょうか? でも、頭にEyesが来るのか甚だ疑問だ。
でも、車に轢かれそうになって、『危ない!』と叫んだら、タクシーの運転手が謝りに来たと、前世で私の親が言ってましたので、実際に通用したのでしょうね。
「それでは、子供は子供同士で仲良くということで、プリンセス藤宮には、私の娘のお相手をお願いできるかな?」
「ええ、こちらこそ喜んで、お相手させて頂きます」
ジョージ6世陛下に頼まれてしまいましたので、慌ててスカートの両裾を摘まんで、カーテシーで優雅に礼をしつつ答えたけど、思考が明後日の方向に飛んでいたから危なかったぜ。
咄嗟にでも、カーテシーの動作を取れるだなんて、私も女性という性別と貴人としての立ち振る舞いに、随分と馴染んでしまったみたいです。
その分、私の魂の成分から、ナニかが抜けてしまってるような気がするのですが、きっと気のせいでしょう。うん、そう思おう……
それにしても、カーテシーって腰痛持ちには辛い動作の気がしますね。
腰痛持ちにならないように、腹筋と背筋を鍛えねば。
あそこで、恥ずかしそうにソワソワとしている女の子が、どうやらジョージ6世陛下の娘さんみたいですね。
ソワソワはしているけど、でもちゃんと、お行儀よく待っていられるのだから、躾と教育が行き届きている証拠ですね。さすがは、英国王室だと思います。魂が平民の私とは大違いですよね。
それでは、私は私で子供同士の、日英国際親善と洒落込みますか!
「桜子さん、お淑やかにお願いしますよ」
「粗相のないようにして下さいね」
お父様もお母様も心配性ですね。これでも私もTOBをわきまえていますってば!
あれ? PTOだったっけ? TOP? TPOだったかな?
まあ、なんでもいいや。
アメリカ人は、なんでもかんでも、頭文字から取って、三文字や四文字に略しすぎなんですよ。
前世での曾爺ちゃんが、発狂してGHQを辞めたのも分かる三文字具合の気がしますね。
まったくもう、ぷんすかぷんであります。




