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わたしは…

鴉くんの家で話してから、一週間ほどがたちました。鴉くんは毎日来ますが、あんまりことは進んでいないようでした。

いつものポジションに止まっている鴉くんの隣にもう一羽鴉が止まっていました。宵さんでしょうか?まず、手を振ってみます。鴉くんは羽を広げましたが、隣の鴉は何の興味も無いかのように無視しました。

「無反応は意外とこたえますよ」

かなしいです。

バイトもさっと終わりましたので、いつも鴉くんとの待ち合わせ場所に行きました。予想通り宵さんがいました。

「あ、どうもです。今日はなんでこちらに来たんですか?」

「うむ、問題が山済みになったんで相談に来た」

はぁ。最近の鴉くんの様子からはそんなことは全く感じなかったのに、宵さんは意外と影で頑張る方なんですかね。

「で、ある程度まとめたから、とりあえず考えを教えてくれ」

宵さんから巻物を渡されました。やたらと古風なのですが、もう少し読みやすくしたものとか無いのでしょうか。

「ちょっと確認します。鴉君は向こうでしばらく遊んでていいですよ。多分結構かかりそうですから」

「うん!」

鴉君は、すぐに興味があるのか神社の奥の方へ進んで行きました。

さて、渡された巻物を開いて確認します。

「・・・・・・わたしはなんでも屋ではないですよ」

「そんなことは言わなくてもわかる」

わたしにできそうなことは果てしなく少ない気がしますが、いくつか抜粋しましょうか。



・息子が川に流されました探してください by河童


警察にでも言ってください。


・最近メイクがうまくいきません byのっぺらぼう


メイクする顔のパーツはありますか?


・仕事をください by夜鳴き爺 


これに関してはただの中年の泣き言ですね。



「・・・私に何をしろというのですか?」

完全に人間社会になじんでるようにしか思えないのがちらほら見えるのですがね。

「あぁ、見ての通りだ」

「? どういうことですか?」

「やることが無い」

「ですよね」

うすうすわかってはいましたよ。こんなの見せられたら完全にやることがないんだろうなくらいは。

「そしてもうひとつ渡すものがある」

「なんですか?」

今度出したものは書類とかよく入っている封筒です。最初から巻物なんかではなく、こういう解かりやすいものを出してくれたらよかったんですよ。

「どちらさまからですかね?」

「さぁ?私にはよくわからん」

「はい?」

持ってきたのに誰からなのかわからないとは、これ一体?

とりあえず、封筒を開けてみます。

「・・・・・・はえ?」

こんなとこにはどう考えても似つかわしくない人間の名前が書いてありました。

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、この人総理大臣ですよ」

「そうなのか?」

妖怪はみんなそういうのは興味ないですものね。

「しかし、不思議ですね。なんでこんなものをわたすのでしょうか?」

「何か悪いことでも企んでるのか?」

「いえ、そんなことではなく、多分私が妖怪と関わりをもっているのをしっているのでしょうね」

「最近ストーカーとかに追われたりしているのか?」

「そんな気はしてなかったと思うんですけどね。もしかしたらそうなのかもしれないですけど」

宵さんは、わずかにため息をついてなにか考えています。

「それで、その手紙の内容はなんだ?」

そうでした。差出人にしか目がいっておらず内容は確認していませんでした。すぐに手紙をあけて内容を確認します。

「そもそもそれは本物なのか?」

「あ、そういうのは最初から疑いだしたらキリがないので一切気にしません」

内容を確認します。

「…やっぱり私が妖怪と関わりを持っていることは知っているようですね」

「そうか」

「あれ、以外に驚かないんですね」

「そんなことにいちいち驚いてもしょうがないだろ。今はそんなことより本題だ」

「そうでした。なになに…」

内容はまずなぜ私と妖怪が関わりを持っているかを知った方法。これは、国家機密で協力している妖怪がいるらしくその人がこの間のヴァンプさんの能力で聞いていたらしいのです。まぁそのくらいならありそうだとは思いましたが…。次に私にこの妖怪との関わりを私自身がどう思っているのか。確かにあまりにポジティブに考えることのできるものでもありませんが、それでも楽しいものになるとは思います。最後、これが一番重大ですかね。妖怪との記憶をすべて抹消して関わりを一切断ち切れというものです。

「…あれまー」

「なんか不都合なことでも書いてたか?」

「不都合を通りこえたものだと思いますよ。あなたたち妖怪との関係を断ち切れ、だそうです」

「なるほど、それで君の答えはどうなんだ?」

「まああの時言っちゃいましたからね。今更やめることはさせてくれませんよね?」

「当然だ」

そもそも選択肢がなければどうしようもありません。この妖怪たちの考えることはわかりませんが、この先総理大臣の方には同情を覚えます。

「かと言って一体どうするつもりなんですか?」

「たぶんそろそろくるだろう」

「え?」

すぐにわかりました。なんとも綺麗な高級車がこのオンボロ神社に近づいて来るではありませんか。

「あーあれですね」

「そうだな」

神社の入口付近まで来ると、中からスーツを着た中年が出てきました。中年というのは若干失礼な気もしますが、あの人が総理大臣なわけないですよね。こんな辺鄙な場所まで来るわけないですし。たぶん書記の方とかでしょう。

しかし、私の予想は簡単に超えられてしまいます。

「…私の目と記憶が確かなら総理大臣のような気がするのですが」

「そうか」

素っ気ないというか動じなすぎ!!

「確かにオーラとかそういうのは感じないかもしれませんが、一応この国のトップなんですよ!」

「君相手に聞こえるよ」

「え?口に出てましたか?」

これは失敗です。思ったことが簡単に口から出てしまいました。

「済まないが私も時間がないので手短に済ませて良いかね」

話を割ってきたのは、総理大臣田渕康介です。TVで見るのとはまたなんか雰囲気が違いますね。

「失礼しました。私は」

「いやいい。調べはもうついてる」

よくドラマとかでありますけど、こういう風に話を遮られると若干イラッときますよね。

「そうですか、では早速本題ですか」

「そうだ、君と妖怪との関わりを断ち切ってもらいたい」

「それはまた随分と身勝手な言い分だと思いますし、私自身それを拒否します」

私の言い分に総理は少し笑いながら、

「これはこれは随分と強気なお嬢さんだ。言い淀むと思ったがまさか反論してくるとは」

「お褒めの言葉痛み入ります」

横で宵さんがじっとしています。黙って事の享受を見守るつもりでしょうか。後日聞いた話だと笑いをこらえるのに必死だったらしいですが。

「もちろん君にも利点はある。まず妖怪という未知の生物との関係が断ち切れることにより、今まで通りの真っ当な生活を送ることができる。そして当然だが、国から金ももらえる。こちらは口止め料と思ってもらっても構わない。もちろんこれからの生活、身分、就職先、なんでもいくらでも私たちが支援することを約束しよう。君が望む生活をいくらでも行おうではないか」

「魅力的な提案ですが、まずそのお金はどこから来るのですか?」

「無論国民からの税金に決まっているだろう」

「まさに言葉通りの税金泥棒ですね」

「君が望むならそうなるのだよ」

「流石に予算はそうそう取れないのではないのでしょうか?」

「いくらでも改ざんすればいい。予算はもともと多くとっているからな、細かい金の使い道まで気になるものなどおらん」

「その口ぶりからして普段から行っているようですね」

「それ以上は言えんよ」

「肯定しているようにしか思えませんよ」

「ふふっ、君のことは調べさせてもらったと言ったな。当然家族・友人のこともな」

総理の雰囲気がガラッと変わった気がした。

「…それがなんですか?」

「君は実家は東北なのになぜ、こんな所の大学に進学したのかね?」

「‥‥‥」

「君の成績なら地元のいい大学にも行けたはずだ。それなのにこんな陳腐な神社でバイトしながら大学に通っている」

「陳腐とは余計です」

「失礼。しかし、こんな遠くまでこなくても良かったはずだ」

「そういうのは私の勝手です」

「君の家庭は裕福な家庭だったはずなのに奨学金も受けている」

「なにが言いたいのですか?」

「そんなに怖い顔しないでくれ。まず君は家庭内暴力を受けていただろう。だから、実家から離れて過ごすことにした。親に解られないよう綿密に計画し、地元の大学を受けたように見せかけここの大学に進学した」

「そんなことはありません」

「否定にしては、弱いんじゃないだろうかね。そして君の友人はこの京都にしかいない。地元には君を知っている人は全くと言っていいほどいなかった」

「‥‥‥」

やめてほしい。どうしてこういうことになってしまったのか。

「なんでだろうね……『今瀬真冬』さん」

「‥‥‥…」

言われてしまった。私の本名、『今瀬真冬』。私の嫌いな人。

「君の本名だよね。真冬さん」

「私は金瀬はるです!」

「諜報班は苦労したようですよ。まさか、ただの大学生と思っていたのが偽名を使っていたなんてね」

「私は今瀬真冬ではありません」

「まあそういうことでもいいでしょう。しかし、君にいい話があると言ったでしょう」

「なんでしょうか」

「君の欲しいものをなんでも支援しようと言ったではないか」

「私の欲しいものですか?」

「君は今のままでもいいと思っているようだけど、これから必要になるものを無くしてしまった。だから我々はそれを君にあげよう」

「それは一体なんですか?」

「先ほど言っただろう、身分も与える、と」

「なに『今瀬真冬』ではなく、『金瀬はる』という身分を保証しようではないか」

私が欲しいもの、それが手に入るならそれはとても…うれしい。

「では、妖怪との関わりを断ち切って全て忘れてくれるかね?」

「そうですね、それも良いかもしれないですね」

もうあの親から完全に離れられるのなら、妖怪と別れるのなんて対したものでもないのかもしれないですね。妖怪たちとの思い出も数日程度ですからこちらの利点がすごく大きいですね。

「では……」

横には完全に傍観者になっている宵さんがじっとしています。どちらに転んでもどうでもいいのでしょう。

私はこの数日にあったことを思い返します。鴉君が随分と楽しませてくれました。人間と話したことも全くない妖怪でしたね。たくさんからかいもしました。

はて、私はなぜ妖怪と関わったのでしょうか。元をたどれば鴉君にであったからですが、さらに様々な妖怪が私と関わりを持とうとしてきました。妖怪も人間が好きなのはみんなを見ていればわかります。そして私の目的は妖怪と人間の仲裁だったはずです。別に仲が悪いわけではないのに仲裁とはおかしな話です。

「すみません、私からの要求はいけませんか?」

「なんだね。まあ別に構わんが」

「最初を忘れていました。なぜ私から妖怪との関係を断ち切ろうとしたのですか?」

「そうだったな、最初を忘れていたな。なにもそんなに難しい話でもないよ。君は我々と妖怪との関係を知っているか?」

「いえあまり」

「なら知らなくてもいい。世の中には知らない方がいいことが多いのだよ」

そんな簡単にされても、こっちは納得がいくものではないがここは黙って後で聞くことにしよう。

「そうですか」

「君はそんなことよりも、欲しいモノがあるのだろう?」

否定はできない。確かに私には身分というものは喉から手が出るほど欲しい。

「私が妖怪と関わりを自ら持とうとしたことも知っていますよね」

「君の目的もな」

「あなたはそれを実現できますか?」

「出来るわけないだろ!そもそも考えが馬鹿げている。人間と妖怪が仲良く過ごすだと?そんなおとぎ話は絵本の中の世界だ!!」

私は忘れていました。

確かに身分を手に入れればあの親から逃げることもできますし、これから先も政府の支援でうまくいくことでしょう。けど、それでいいのでしょうか。妖怪の皆さんと一緒にいることは確かにきついかもしれません、驚かされることも多いです。けど、すごく楽しいです。

学校の友達と一緒にいることも決して悪いものじゃありません。けど、なにか物足りない。まるで、私が絵本の中に入ったような感覚が、今の私が欲しかったものではないのでしょうか。

「私はその絵本が好きです。妖怪と人間が仲良くしている。そんな絵本が」

「現実と妄想との区別が付かなくなってしまったのか!?」

「不可能な妄想と可能性のある夢は別物です!」

「君の夢はなんだというのだ!」

「私は、あくまでも楽しい暮らしがしたいだけです」

「先が真っ暗だとしてもか?」

「それは、今はまだわかりません。少なくとも私はそうでは無いとは思いますが」

「…君は妖怪と人間が同じく暮らせると思っているのか?」

「少なくともあなたの支持率が跳ね上がるよりは可能性があると思います」

「ひどい皮肉だな」

これで、なんとかなるはずです。まあ、なにかしらしてこない可能性がないわけではないですが。

「わかった。君がそうなら…」

「こんな女子大生一人に対して力ずくですか?」

「それでは我々には勝ち目は無いだろう。その横にいる妖怪がいる限りな」

「なるほど、ではどうするのですか?」

「…いや、もう諦めるよ。君は随分と気が強いようだからね」

一安心なのかな。これからも妖怪といられるのでしょうか。

「それと、ついでに巻き込まれてもらおうかね」

「え?どういうことですか?」

いきなり総理が変な感じになりました。なんというか嵐の前の静けさというかなんというか。

「もともとは君を守るための話でもあったんだけどね」

「守るため?どういうことですか?」

「君は多くの妖怪との関係を持っている。そして妖怪は多大な能力を持っている」

「つまり私を捕えて妖怪になにかしら協力させようとする輩が出てくると?」

「その通りだ。だから君に危害が行かないようにしたかったのだが、余計なお世話だったかね」

「いえ、ですがいろいろ過去を詮索されるのは最低だとは思いますけどね」

「それについてもすまないと思っている。とりあえず現状で出来る最低限のものをやろう」

「はい?」

総理から封筒を渡されます。なにかの書類かはてまた小切手でしょうか?

「君の身分を証明するものだ。そこの名前は君の好きなようにすればいい」

「もともとどちらでもこれはくれたものなんですか」

「そうだ、君の過去を知ってしまってはいてもたってもいられなくてな。今できるのはこれくらいしかないが」

「いえ、そんな十分すぎます」

「そう言ってもらえてなによりだ」

「それで、とりあえず私はどうしたらいいのでしょうか?」

「しばらくは今のままで構わないよ。いずれ時期が来たらもしかしたら手伝ってもらうかもしれないがね」

「手伝うことがないことを祈ってますよ」

「私もそう思うよ」

そういうと総理は乗ってきた高級車に乗って帰って行きました。残された私と宵さんは車が見えなくなるまで見ていました。

「なかなか気が強いな」

宵さんが随分と久しぶりに口を開きました。

「ありがとうございます。あなたたちからしたら随分と楽しい余興になったんじゃありませんか」

「まあな……お前の過去はあれは本当なのか?」

「嘘言ってもしょうがないですからね。全部本当ですよ」

「そうか、別にお前を批難しようというものもおらんからな。ま、これからもよろしく頼むよ『金瀬はる』」

「ええ、そうですね」

「はるお姉さん!」

「鴉君どうしたの?」

「今日ははるお姉さんの家に泊まる!」

「いきなりどうしたの?」

「なんとなく」

なんとなくですか。しょうがない妖怪ですね。

「わかりました。今日は泊まって行きますか」

「うん!」

いい返事です。

「ほら、早く行こうよ!」

「本当に元気なんですから鴉君は。宵さんにちゃんと言ってからにしなさい」

「いってきます」

「うむ。では、よろしく頼むぞ。私は気になることがあるので少し調べ物するから自分で帰ってこいよ」

「わかった!」

鴉君に引っ張られ、私は帰路につきました。今日も随分と大変な一日だったと思います。まさか総理がきて、私の過去まで触れられるとは思わなかった。私の親との関係もそのうちなんとかしないといけないのかもしれないな。でも今はこの人の布団を思いっきり自分のように使っている妖怪のためにももう少し頑張りましょうかね。

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