ひょんなことから
これは私の鴉君と出会ってからあった話しです。
基本的に待ったりしているので、そこらへんは気にしないでください。
私、金瀬はるはここ京都で巫女のバイトをしています。
そして今日も私のバイトしている寺は、閑古鳥が鳴いています。
それももう慣れました。
「本当にこんな寺に来る人なんているのかしらね。ひっそりとしていて目立たないのに。」
「あの、すみません」
後ろから声が聞こえました。もしかして、さっきの独り言が聞かれたのではないでしょうか。
「この扇子ください」
扇子を買いに来ただけのようでした。
さっきの話を聞かれていれば、思いっきり口止めしなければいけなかったので良かったです。
「525円になります」
「はい、えっとこれでいいですか?」
そういって少年は小判を出してきました。
「えっ。これ、ですか」
どう考えても500円程度の価値ではありません。
私の心に綺麗な悪事が働きました。
「いいですよ」
おそらくどこかのファーストフード店などでやるような営業スマイルなんか比ではない笑顔をしました。
あとで、私の500円を入れておきましょう。
すると少年は、パッと明るい笑顔を見せてくれました。
まるで天使のような笑顔です。
「それでお姉さん一つ話があるんだけどいいかな?」
「いいですよ。けれど私をお姉さんと呼ばないで、金瀬はるっていう名前があるんですからね」
「なら僕のことは、鴉って呼んで。はるお姉さん」
お姉さんを治そうと思ったのですが、これもこれで微笑ましいのでよしとします。
「ねぇ、僕がさっきのお金を渡したら、いろんな人が『もっとくれ』って言うんです。でもお母さんから『そんな人だったら、渡してはいけないよ。』って言われていたんです。一体人間はどう考えているんですか?」
さっきの小判をまだたくさん持っているのですか。確かに価値が分かる人には、喉から手がですほどほしいものかもしれませんね。
「でも人間って、あなたも人間でしょうに?」
「違うんです。僕は八咫烏っていう妖怪の子どもなんです。お母さんにお使いを頼まれてきているんです」
これはまた、ずいぶんな相談な気がしました。
「妖怪ですか。でもなんで妖怪の鴉君がこんなところにまで来るのですか?」
こんな自分でも言うのがなんですが、へんぴな寺に来ようと思ったもでしょうか。
そもそも、妖怪と分かっていて普通に接している私も考え深いかもしれませんね。
「いま、夏で暑いから涼しくしたいってお母さんに言ったら、これを人里まで持って行って涼しくなれるものを買ってきなさい、って言われたんです。ただしさっきも言った通り『もっとくれ』っていう人には絶対にやってはいけ無いと言われました」
「妖怪も暑いときは暑いんですね。むしろ人間たちの肝を冷やすんじゃないんですかね」
「昔は人間たちを驚かしたりもしましたが、現代ではそういうのは全くありません。どちらとも関わりをもちたくないのです」
妖怪さんも大変なんですね。
でも今では、人間がいろんなところにいるのに妖怪が全く見られないのはなんででしょうかね。
「ねぇ、鴉君は普段はなにをしてるの?」
「普段は鴉に化けて人間たちの観察をしています。それも修行の一つだと言われてきたので」
「ふふっ、早く一人前になりたいのですね」
「うんっ」
相変わらず素直なので、いたずら小僧にはなりそうにはありませんね。
「よく妖怪は人間より長生きって言い伝えとか聞くけど、鴉君は人間で大体何歳くらいなんですか?」
見た目は、十歳にいかないくらいでしょうか。
見た目年齢など私はまだ気にする歳でもないのですが、いずれは気にしないといけませんから。
「僕なんかまだ幼くて、大体200歳くらいでしょうか。妖怪はみんな歳を取るのがゆっくりなんです」
それにしてはずいぶんとゆっくり過ぎませんかね。もはや不老不死に近いのではないでしょうか。
「でも、長く生きるのは辛いっていつも両親が言っています。昔仲の良かった人間はもう誰もいないって」
確かにそれはそうかもしれませんね。早く死ぬのはしょうがないことではあるけども、その人生がいいものであれば良かったのではないのでしょうか。
「だから人間とは関わらなくなってしまったのです。昔みたいにみんなが仲良くするためにはどうしたらいいのでしょうかね?」
なんか知らない間にすっごいヘビーな話になってしまっているのですけど一体どうしてなんですか。
だれか教えてくださいよ。
「そうね、大きいことをやるにはまずは小さいことをとも言うし、何か思いついたことでもやってみたらどうかしら」
「やってみたいこと・・・。」
「分からなかったらお姉さんに相談してもいいしね」
私はあまり自信のない胸を、思いっきり叩きました。脂肪が無いためか結構痛かったです。
ただこの子は私よりも、大幅に年上なのでお姉さんというのは少し無理があったのかもしれませんね。
本人は気にしていないのでいいですけど。
「わかった!それなら、また明日も来てもいいかな?」
「いいですよ。今日と同じ時間に来てくださいね」
今考えるとどうしてこんなことを引き受けてしまったのか、知りたいです。
でも、後悔はあんまりしていないのでいいですけどね。
「じゃあね。はるお姉さん」
そういうと、鴉になって飛んで行ってしましました。
本当に妖怪だったようです。今更な感じもしますが。
気になりもしたので、住職さんに妖怪はいるのだろうかと聞いてみたのですが「たまに話せば、新しいギャグか?」と言われました。
私ってそんな感じの人間だったのでしょうかね。
正直全く参考にならなかったので、ただの骨折り損でした。
次の日、鴉君はというと午前中から屋根の上にいるようでした。
おそらく人間観察なのでしょうけど、残念なことにここは人の出入りが果てしなく無に近いところなのでそれも意味のないことだと思いますね。
本人がよければいいのですが。
昨日と同じ時間になって、屋根の上にいた鴉君が降りてきました。
「こんにちは、はるお姉さん」
「はい、こんにちは。今日もちゃんと修行していたのかしら」
ずっと屋根にいるのがわかっていたので、すこしいぢわるをしてしまいました。
「もしかしてわかっていましたか?」
しまった、ような顔をして私に聞いてきました。
返答してもよかったのですが、ここはあえてにっこりと微笑んであげましょう。
「まだまだですか」
少し落ち込んでしまったようです。かわいそうなので、慰めましょう。
「大丈夫ですよ。なにも知らない人でしたら、絶対わかりませんからね」
当然普通の人が気付くはずもないと思いますからね。
そもそも、ここはただでさえ人の出入りが少ないですから。
「でも、ここの神社って人の出入りが少ないんですね」
素直なのはたまに地雷を踏んでしまうということを教えないといけないようです。
「鴉君、ちょっとそこに座ってください。お話があります」
そういうと、ただならぬ空気を感じたのでしょうか、素直に聞いてくれました。
「世の中には言っていいここと悪いことがあるんですよ。それもわからないままではいい大人になりません。しっかり人の話や行動を確認しながら発言しないと、友達もいなくなってしまいます。KYって知っていますか?空気の読めない人ですよ。自分のことばっかり言ったりして、人の話を全く聞かない人です。こんな人、いえそんな妖怪には鴉君にはなってもらいたくないです。確かに、ここの神社は人の出入りが少ないことでもはや取り壊しすら話されていますが、それでも一応成り立ってはいますよ。きちんと毎月のバイト代も出してくれますよ。ものの本質を見た目だけで判断するのはいささか早計な気もしますが・・・・・・って鴉君?」
私の話が長かったせいか寝てしまったようです。
そうでもない気がしましたけど、せいぜい小一時間程度でしょうか。
起こそうかと迷いもしましたけど、かわいい寝顔なのでこのまま自然に起きるのを待つことにしましょうね。
鴉くんが寝てから2時間くらいたちました。一向に起きる気配がありません。あまりにも起きないのでそろそろ起こしてあげましょう。
「鴉くん、起きて下さい。時間があんまりありませんよ」
そう言ってもなかなか起きそうにありません。永く生きているためか図太い神経を持っているようです。
「か・ら・す・く・ん・!」
耳元でハキハキと大きな声で言ってあげました。さすがに耳元で言ったのか、『ん』と起きてくれたようです。
「すいません、寝てしまったようです。それでどのくらい寝ていましたか?」
「そうですね、だいたい3時間くらいでしょうかね。お昼寝には少し長いと思いますよ」
「昨日はそんなに寝れなかったので」
「考えごとですか。なにかいい考えが思い付きましたか?」
「それでひとつ話しがあるんですけど、いいですか?」
「ええ、別に構いませんよ」
どことなく嫌な予感がしましたが、この際気にしないでおきましょう。これはやってはいけないことですがね。
「・・・なるほど。つまり、私をあなたのおうちに連れて行ってくださるのですか?」
その後鴉君の言ったのは要約するとこうです。
1.自分だけで考えるのには無理がある
2.私と一緒に考えても時間が足りない
3.鴉君のご両親が久しぶりに人間に会いたい
4.鴉君が私と一緒にご飯が食べたい
詳しいところは鴉くんの為にも割愛します。すごい顔を赤らめていましたしね。
はい、後半はどうかと思いますが、大体納得しましょう。
「話は分かりましたけど、私は空も飛べませんから鴉君について行くことも出来ませんよ」
「なら、一緒に行くからいいでしょ?」
たしかに私の家には誰もいませんから、そんなに問題はありませんけどね。
「わかりました、でもすぐには無理ですよ。準備が必要なので。」
バイトを終わらせた後も、私は大変なのです。休み期間中のレポートも書かないといけませんので。
「なら、後ではるお姉ちゃんの家に迎えに行くからね」
「え?どういうことなの?」
聞く前にすごくうれしそうな顔をして、真夏の太陽の下飛んでいきました。
子供なので元気なことは良いことなのですが、もう少し落ち着いて人の話を聞いて欲しいものです。
「というか、鴉君は私の家が分かるのかしらね?」
まあ、鴉だからちゃっかり着いてきたりするのでしょう。
実際ここからしばらくは寝られない夜が続きそうです。いえ、続きました。
鴉くんに連れられて山岡へ来ること3時間ほどがたちました。やっぱりだだのしがない女子大生には無理なものでした。
「鴉くんは元気ですね」
子供は体力が底無しといいますか、妖怪だからなのか、既に私はおぶってもらっています。私も最初のうちは頑張ろうとしました。が、そのような体力も有るはずも無く早々にリタイアです。以降悲しいことに現在に至るまでずっと鴉くんにおぶってもらっている始末です。
「鴉くんごめんなさいね」
「謝ることはないですよ。人間の体力なんてたかが知れていますし、はるお姉さんは軽いですしね」
軽いと言われるのは滅多にないので、少し嬉しいです。それでもずっと背負ってもらうのもとても悪い気がします。
「後どれくらいですか?」
「あとちょっとだよ」
その言葉に何度騙されたことか、そんな言葉に騙される私ではありませんが今回は信じたいと思いたいです。
えっ?ならなんで下りないのか、ですって?答えは簡単。歩きたくないからですよ。当たり前ではありませんか。
「さすがにこんなところにまで来る人はそうそういないでしょうね」
「あはは、自殺願望のある人しかきませんよ」
私は帰ってもいいでしょうか?
家に帰れる気がしないのですが…。
「帰る時にはちゃんと送りますので心配しないでいいですよ」
「むしろ送ってくれないと困ります」
しかし、夜中に帰るとしたらどう考えても厳しいものがあるのですが。幽霊とかが出てきそうです。
「さぁ、着きましたよ」
本当にすぐに着きました。しかし、そこにあるのは家というにはいろいろと物足りない倉庫みたいなものでした。
「ここに住んでいるのですか?」
「そうだけど…?」
「そ、それでは少し休ませてもらってもいいですか?」
もう私はくたくたなので部屋についてはなにも気にしないでおきました。
が、気にしないわけにもなかなかいかないのが人間です。
「ここに住んで何年目くらいですか?」
聴いてはいけなさそうな地雷をあえて触れることで、どうなるかなんて皆さんご存知ですよね?
高確率で後悔します。
たぶん今回も後悔すると思います。
「そうですね、ぼくが生まれる前にはあったらしいですよ」
「ですよね」
古いの一言では済まされないレベルの家には、いつの時代の物なのかもわからない物が多量に積まれていました。
「帰ってきたのかい?」
奥の方から声が聞こえてきました。鴉くんのご両親でしょう。お邪魔するのですから最低限挨拶はしないと失礼なものです。
「お邪魔しています」
「人間なんて久しぶりだな」
「お父さんったらあまり失礼の無いようにね」
「話すなんて何百年振りだ」
「そうですね~、だいたい五百年くらいじゃないですかね?」
ジェネレーションギャップが凄まじい気がするのですが。戦国時代の人達と比べられたら常識が通じそうもありません。
「えーと、金瀬はるです。鴉くんに連れられて来たのですけど、だいたいここはどの辺りなんですか?」
ちなみに当然のことながら携帯の電波は圏外です。GPSも使えないので、ここがどこなのかもわかりません。
「興味が無いから知らないな」
「どこへにも飛んで行けますからね」
「わたしでは、それは飛べないので」
「確かにそうだったわね」
「それと、私から見えていないので早く姿を見せて欲しいのですけど」
「失礼、あまり姿を見せるのは好まないのでね」
「あなたはかわいいからいいじゃありませんか」
そう言って奥の部屋から来たのは鴉くんとあまり見た目が変わらない、子供(?)でした。
「妖怪は基本的に不老なんですか?」
百歩譲っても鴉くんで二百歳です。そしてこの鴉くんのご両親(未確認)は最後に人間と話したのは、五百年と言っています。
「実はヤタ鴉は見た目は人間でいう、十代前半からしばらくは変わらないのよ」
「そういうことだ」
「大変失礼なのですが年齢の方を教えてもらってもいいでしょうか?」
「そんなに畏まらなくてもいいのに」
鴉くんの人懐っこさは間違いなく母親譲りのものだと確信しました。
「私が1654歳で、彼は1986歳よ」
しばらくの期間を教えて欲しくなりました。約二千年程度では見た目はなかなか変わらないようです。そして、年齢差が三百歳ってそれはいいのでしょうか。
「そのくらいでいいでしょ?ホラ、はるお姉ちゃん早くこっちに来てよ~」
ずっと黙って聞いていたのにも飽きてしまった鴉くんは、私を引っ張り別の部屋に連れていきました。私は別にここの部屋でご両親も含めて話し合いをしたほうがいいと思うのですが。
鴉くんはワクワクした表情で先に進んで行きます。
「これを診てよ!」
鴉くんに渡されたものを確認します。随分と古いものなので、イロイロとわかりにくいです。
「…………正直私にはどうしようも無いのですが」
意味がわかりませんでした。
はい、鴉くんに渡されたもの。それはまぁなんとボロい巻物なのでしょうか。
「とりあえずみんなで解読しましょうね?」
なにか目的を間違えてきたような気もしますが、この際行けるところまで行ってみましょう。
私には読めないものなのでとりあえず鴉くんのご両親に見せたところ直ぐに内容を教えてくれました。さすがに長生きしているだけはありますね。
「これは妖術の一つみたいだな」
「妖術ですか?」
「人間には使えないものだから正直いらないとおもうし、これはあまり使わない方がいいだろうな」
「え?」
使わない方がいいって一体何なのかが凄い気になるのですが。
「一種の洗脳だな」
「洗脳…」
「なんか危ない考えが思いついた顔だな」
「なっ!別にバイト先の神社のバイト代を上げて貰うとか、大学の単位を別に行かなくてももらえるようにしたいとか全く思っていませんからね」
しまった、つい本音を言ってしまいました。しかし大学の堅物教授共にはたまにはいい薬にもなるのではないでしょうかね。
「君の考えは正直どうでもいいのだが、どうしてもと言えばやってやらんこともないが…」
「別に気にしなくて結構ですよ」
洗脳を実際に出来たらどんなにうれしいことでしょうかね。……怪しい宗教みたいな考えになったので諦めましょう。
「そもそも鴉くんはこれをどこで見つけたのですか?」
「よく覚えてないからわからないけど、たしか家のそこのものの積んである場所にあったばずだよ」
「まさか家にあったなら最初からわかっていたんですか?」
「いや、記憶に無いな」
「私もさっぱりね」
ご両親は家にあったというのに記憶に無いと言っています。「さすがに何百年もたっているので忘れたのでは無いですか?」なんて聞こうにも恐ろしくて聞けません。
「ホントに謎ですね」
話し合った結果とりあえずこれは別の場所に保管することになりました。こんな便利なもの自分が使えたらどんなにうれしいことですかね。
*
「ねぇ、近年の人間の生活ってどんな感じなの?」
鴉くん母がふとした疑問を話しました。永年係わり合いがないからしょうがない……ちょっと待ってください。
「人間と係わり合いは無くなっても人間観察は行っていたのではないですか?」
「ちょっと面倒でここ三百年はやってないのよ」
面倒なのですか、わからなくもないですけど。まぁ見ているだけっていうのも退屈なものですからね。というか三百年は結構大きいですよ。
「…近年では、機械溢れる社会になっていますよ。それに昔とは違い病気もかかってもいいお医者さんもいます。食べ物に関しては少なくとも現代の日本では餓死をすることは無いと思うほど食べ物が溢れていて、美味しいものもたくさんあります。パスタ、スイーツ、寿司、タコ焼き、チョコレート、ステーキ、ポテト、ハンバーガー、焼鳥、他にも鍋は外せないですよね、キムチ鍋やだまこ鍋、きりたんぽなんかも良いですよ」
「わ、わかったわ。とりあえず食べ物が美味しいというのがわかったわ」
あら、いけません。つい食べ物の話しになると話し過ぎてしまいます。
「あと政治は全くダメですね。支持率絶賛下降中です」
「大変ですね」
実際そんなに気にしないですけどね。私の生活に大きな影響がでなければそれでいいのです。
「本当にいつの時代も人間は大変ですね」
「返す言葉もございません」
世界中には今だに内戦中の国だってあります。ただ、争いが無くなって平和になれば私たち人間は平和ボケで衰退していくのかもしれませんから、忙しいのもいいのかもしれません。
「妖怪のほうは派閥ごとの争いとかないのですか?」
「もともと妖怪どうしの関わりはほとんど無いんだよ」
「居るかどうかも解らないのだけれどね」
「はぁ…そういうものなのですか」
現にここに妖怪が居ますから捜せば何人くらいかは見付かるのではないでしょうか?
私は絶対に探しませんが…
「けど、今日は特別に実は呼んでいるのよね」
「どうしてこのタイミングで言うんですか?」
「すっかり忘れてたのよね」
一体どこからツッコめばいいでしょうか?
実は他の妖怪と関わりがあった、ところでしょうかね。さっき自分が話した話しを完全無視です。
「ちなみにどなたですか?」
「うふふ、それは後のお楽しみ」
可愛くウィンクしたのはどうみてもただの少女にしか見えません。妖怪なんてそうそう人間と姿は変わりませんですがね。
その後、約30分程で例の妖怪が来たみたいです。嬉しいような、不安なような、そんな気分です。
「それでは登場してもらいましょう」
鴉くんママが楽しそうに言いました。
ゴクリと固唾を呑んで待ちます。幼い子供が来ても驚きません。なんか耳とか変なところから生えていても、驚かないはずです。
「…やあ、どうも。ヴァンプです」
今にも死にそうなおじいさんがやって来ました。
「大丈夫ですか?」
「はぁ?」
「………」
歳をとったおじいさんたちは場合によっては子供より面倒です。このおじいさんは一体なんの妖怪なのでしょうか?
「彼は吸血鬼だ。けれど彼は今まで吸血を行っていない。ただそろそろ限界だろうな」
「私にトラウマを植え付ける気ですか?」
「安心しろ。ただ死んだら灰になるだけだ」
「それならなおさらです!」
言い争っている内におじいさん吸血鬼がこっちに向かって来て。
「あっ」
こけました。
しばらく動かないのでどうしたのかと思いましたが、はい。灰になってしまいました。別にギャグというわけではありませんよ。
「し…ししし、死にました?」
「ああ、死んだな」
軽っ!
死んだというのにあまりにも軽すぎます。寿命が永い分慣れているのかもしれません。
「心配するな。灰になるぶんずいぶん後始末も楽ではないか」
「そういう問題ではありません!」
「そうですよ。いくら生き返っても死ぬ苦しみはあるのですから」
えっ?
私の後ろに見たことのない妖怪(?)がいました。
「今回は何年くらいだ?」
鴉くん父の言うことがどういう意味か全くわかりません。
「そうですね……だいたい40年くらいでしょうか」
「今回はそんなに伸びてないな」
「左様で」
「えっと、どういうことなのですか?」
「そうだな。軽く説明しようか。彼は吸血鬼だ。ただし血は呑まないがね。正確には呑まなくなったが正しいか。故に血を呑みつづければ不老不死なのだが、呑まないがため不死だけが残り、ある時期から激しい老化が始まり寿命がくれば灰になり、また蘇えるわけだ」
「恥ずかしながら」
「吸血鬼ですか…なぜ血を呑まなくなったのですか?」
「………」
ふたりはこっちから目を逸らして気まずい顔をしました。また地雷を踏んだ様です。
「このことについては説明しなくてもいいだろ。そこまで重要なことでもないしな」
「そうですね。軽はずみで聞いてしまって申し訳ありません」
「いやいや、気にしていませんよ。好奇心旺盛なのはいいことですよ」
「好奇心の塊が何を言うか」
「若い者には負けませんよ」
「そいつはいいことだ」
なんか、私がいなくても、このままはなしが永遠と続きそうなのですが。
「それで、君が人間と妖怪の間になって、仲裁を取るつもりなのかい?若いのによくやるね」
「あはは・・・なんか、なりゆきで」
ええ、本当に成り行きですとも。
「ふむ、それじゃ軽く今の現状でも説明しようかね」
「そうしてもらえれば、少しうれしいです」
「現在妖怪と人間は関係を断ち切っている、これは双方が認めていることだ。むしろ双方に利点があるといえるからな」
「利点ですか?」
「ああ、君たちは今まで妖怪にあったことが無いのには、理由があったのにな。まっ、国家機密だからわかるわけも無いか」
「さすがにそこらへんは、私が触れていいことではない気がしますが」
ヴァンプさんが少し笑いながら「確かにな」といいました。私にとっては、笑い事ではないのですが。
「それでは、少し入り組むので、表面上だけの話でいいかね?」
「最初からそれでお願いします」
「うむ、人間との関係はそうだなおよそ今から5世紀くらい前まではあったな。あのころは、今より戦が激しくてな、どこの国も領土を取るために必死だった」
「戦国時代ですね。そのころはまだ妖怪と人間の関係はあったのですね」
「そうだ、しかしあのタヌキは、将軍などという役職に付く時に、妖怪との関係を一切無かったことにしようとするためにわれわれを殺そうとしたのだ」
「タヌキですか?」
「なんだ知らんのか?なんといったか・・・徳川家康だったか?妖怪からはタヌキとしか言われておらん」
「その家康が妖怪を滅ぼそうとしたのですか?」
「その通りだ。やつはわれわれを大人数で囲み、殺そうとしたのだ」
「なぜですか?」
「考えてもみろ。自分が築いてきたものは、実は嫌いな天人よりも奇怪な存在だったらどう思う?」
「あまんと?」
「わかりやすく言えば他国の人間だな」
あ、外国人てことですね。確かに徳川家康は鎖国をしましたし、その天下は人間ではなく妖怪が絡んでいるのであったら、それがバレた時は幕府が崩れる可能性もあったはずです。
「えーと、それで妖怪がほかの幕府を潰そうとしている人と手を組んだら勝てなるなるからと?」
「大方はな」
「それでどれくらい殺されたのですか?」
「実際殺された人数はそんなにいない。ただ、われわれ妖怪の居場所が一瞬ですべて無くなった」
「居場所・・・」
「全員逃げるのに、必死だった。日本には幕府の人間が大量にいるから海を渡った者も多かったと聞く」
「ヴァンプさんはどうしていましたか?」
「わたしも海を渡って海外に逃げたものだよ。まぁ宵はずっと日本にいたらしいけどね」
鴉君のお父さんって『よい』っていうんですね。初めて知りました。
「よく無事でしたね」
「大したことじゃないよ。でも、海を渡る途中で嵐に巻き込まれた妖怪も何人かいるからね。彼らのことを考えたら、自分は本当に幸運だったよ」
「その後はそれぞれの妖怪は、人里を離れて山奥のさらに奥でひっそり暮らすようになっていたのさ」
「そうなのですか」
「一通りはこんなものか。知りたいなら、もっと教えるが?」
「いえ結構です。すでに私の頭は混乱しているので」
なんという歴史の裏事情でしょうか。そんなこと教科書も古い文献にも書いていないと思いますよ。まぁ、仮に書いていても信じませんけど。
「それで君はこれからどうするつもりだ?」
宵さんから質問されました。
「えっ?」
「話は聞いただろ。聞いた上で君は何がしたい?妖怪を探すだけでも、人間なら人生を使い切ってしまうぞ」
「・・・」
全く持ってその通りです。話は聞きましたが私にはこれからどうするかが、はっきりいってわかりません。
「そういうことでしたら全く問題ありませんよ?」
えっ?
「それはどういうことですか?」
「実は、最初からこの話は私の知る限りの全世界の妖怪に伝わるようになっています」
「はい?」
「まぁ妖術のひとつですね。それにあくまでも私が知る限りですからそこまでは多くないと思いますし」
「ちなみにどれくらいの人数ですか?」
「さぁ、数えたことないしせいぜい一万人弱じゃないかな?」
「多すぎです!」
「なかなかお前もやるな」
「なんで妙に感心しているんですか!」
「よかったな、これで人生を棒に振らなくてすむぞ」
「そんなポジティブに捉えられても困ります!」
「あはは、協力するから心配しなさいな。別にCIAやKGBに進入するわけでもないんだから」
「むしろ進入することは無いと思いますけどね」
「まぁ、そんなに気構え無くても心配ないよ。ちょっとしたことしかやらないと思うから」
それなら何とかなりそうでいいですけど。
「最初はどんなことでも始めることが大切だよ。レッツチャレンジ」
わたしの心が荒んできたからなのでしょうか、ヴァンプさんの笑顔がすごくまぶしかったです。
「そんな笑顔で言われて、断れる人がいるなら見てみたいですよ」
「それでは?」
「やります」
やるだけやってみて、人生を豊かにできるのならばとてもいいことなんだ、と自分に言い聞かせながら、私の妖怪と人間の仲裁という心底ブラックなボランティアが始まりました。




