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シュトラール辺境伯領屋敷にて――
ライオネルの決意も、ミレイユにとってはどこ吹く風。
「ライオネル様、赤ちゃんは――いつお作りになります?」
小首を傾げるミレイユ。
まとめた白金の髪が、ふわりと落ちると、白いうなじがあらわになった。
虹色に輝く宝石色の瞳が、灯りに照らされ、ゆらりと光る。
夫婦の寝室にて、そんなことを聞いてくるミレイユにライオネルは危うく、椅子から転げ落ちそうになった。
ニコニコと微笑むミレイユ⋯⋯を見ていると嫌な予感しかしない。
(まさか、子作りの意味をいまひとつ、分かっていないのでは⋯⋯)
いや〜な考えがライオネルの脳裏を過ぎる。
ライオネルは、軽く咳払いをすると、
「その、な⋯⋯、ミレイユ。一応分かっているとは思うが、私たちは、その、もう⋯⋯しているのだ。子供を作る行為を⋯⋯。そして、赤子というものは、作ろうとして出来るものではない」
ライオネルは、ミレイユに対して失礼にならないように、恥をかかせないように慎重に言葉を選びながら、ミレイユに言うと、
「そういえば、⋯⋯そうでしたわね」
そう言いながらミレイユは、ふむと頷き、ライオネルの赤い瞳を覗き込みながら、そっと傍に近寄ると、ぽふんとライオネルの胸へと飛び込んだ。
「ミレイユ⋯⋯?」
ミレイユを抱きとめたライオネルは、不思議そうにミレイユを見つめた。
「セラが、仰っておりましたわ。全てはライオネル様にお任せすれば問題はない、と――」
ライオネルに身を委ねながら、ミレイユはそう言うと、にこりと微笑んだ。
「そして、セラが旦那様はきっと疲れていらっしゃるだろうから、私の煎じ薬を飲んでいただくと、赤子もすぐにやってくる、とそう仰っておりましたわ?」
ミレイユの言葉にいつぞやの、ヤギの乳を思い出すライオネル。
「⋯⋯そうだな、ミレイユの体調次第だが、魔物の実を煎じた煎じ薬さえ飲めば、すぐに子は⋯⋯授かる、だろうな」
なんせ、猛りきった己の全てを受け止める羽目になるのだから――。
家令であるモーリスの呆れた表情を思い浮かべるが⋯⋯。
そんな、家令は今や主であるライオネルよりも、ミレイユの体調ばかり心配している。
『いつ、お子が出来てもおかしくないのですから、なるべく体力がつくようにせねばなりませぬな』
ヴァヴァの言葉――近くで待機をしていた奥方付き侍女――セラの耳にもその言葉はしかと聞こえていたようで⋯⋯。
屋敷に戻り、ライオネルが湯浴みから上がると、やたら血色が良くなっているモーリスから、『セラからは、伺って存じます』という一言。
そこからは――早かった。
あっという間にヴァヴァの言葉は、屋敷の者に知らぬ者がいないほど、浸透した。
そのせいで屋敷は、まだ出来もしていないのに、赤子を迎える準備ばかりしている。
産着やら部屋の模様替えやら。
ライオネルが『まだ。まだだ』と、何度言っても聞いてはくれない。
主の声に、屋敷の者たちは、全く耳を貸してくれないのである。
後ろには、モーリスを筆頭に産着を手にした屋敷の者たち。
前には、侍女が後ろに控え煎じ薬を手にしたミレイユ。
そして、左右は、部下ら。
そんな状況の己を思い浮かべる。
ライオネルは、ふう、と溜息をひとつ吐くと、ミレイユの頬を愛しげに撫で、そっと摘むと、微笑むのだった。




