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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
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63.覚えて

 今日も無事に高校に登校し、あくびを噛み殺して文化祭実行委員が立っている教壇を見る。

 黒板にいくつか書いてある案を見るに、クラスの出し物はやはり劇で大方決まっているようだ。

 今はまず劇をやるとして、その劇で何をやるかと言う話をしているらしかった。


 D組の担任である我らが希西(けにし)先生は生徒にそういった学校行事をほとんど任せている。

 いわゆる自由主義とかいうやつかもしれない。

 クラスで発言力が無いからとか言っちゃいけない。

 ……まぁ一年目はそんなもんなのかなぁ…。

 菊瀬(きくせ)先生が担任を持っていないのはそういう若い先生をカバーするためだったりする。

 進路のことを相談できないー、とか前にクラスの女子が言っていた気がするが、まぁ分からなくもない。

 でも菊瀬先生にそのことをぶっちゃけ聞いたことがあるが、菊瀬先生に言わせると希西先生の方がそういうことは適任らしい。

 なんでだろ?


 というか菊瀬先生と希西先生の関係って謎なんだよな。

 少なくとも京両高校の先生になる前から知り合いみたいだけど。

 4…いや5歳…6歳か……?

 ………あまり大人の年齢なんて考えるもんじゃないな。


 そして、話し合いは終わり、授業も終わり、流れるように放課後の扶助部部室。

雨芽(うめ)。お前何か失礼なこと考えてないか」

「いや、そんなことないっすよ。本当。本当ですって」

「………そうか」

 ……信じてください………多分無理だろうけど。

 突然扶助部に訪問してきた菊瀬先生は要件も言わずにまずそんなどうでもいいことを……もしかしてどうでもよくないのか…?


 菊瀬先生はムカついている顔を隠しもせず俺に睨みを効かせる。

 が、突然ニヤリと笑い一つ指を俺の顔の前に立てる。

「よし雨芽。君には文化祭を手伝ってもらうことにしよう」

「え、なんで」

「分かるな?」

「………はい」

 この人絶対に俺への当てつけのつもりだ…。

「雨芽くんが手伝うなら私たちも手伝います!いいよね!未白(みしろ)ちゃん!」

「え、えぇ。まぁ。雪羽(せつは)さんがそう言うなら」

「では扶助部として文化祭を手伝ってもらおうか」

 そう言う菊瀬先生はそれはとてもしてやったりという顔をしていた。


 菊瀬先生に先導されて、俺と久米(くめ)櫛芭(くしは)は文化祭の会議室に通される。

 部屋の中をゆっくりと見渡すと………ん?あいつ浅間(あさま)じゃん。

 なんでサッカー部のマネージャーがこんなところに…。

 それにそこ生徒会長のせ……き…。

『はぁ……普通なら情報も当然もらってるはずなんだけどな………』

 ……えまじで?

蕉野(しょうや)くん!今日のサッカー部のことなんだけど……』

『すごいよなぁ、あいつも』

『まぁしょうがないよな。俺からも伝えとくから』

『いつもありがとう蕉野くん!』

 ……いや薄々そうなんじゃないかとは思ってたけど、え、まじで?

 ましてや会長だと……?


 ……そうだよ情報って……うん。

 全校生徒に一律伝わってる情報じゃん…。

 なんだよクラス名簿って……俺が自分で気付くならともかく、流石にそれを陽悟(ひご)が提案するのはいくらなんでもおかしいだろ……何で気づかなかったんだ俺…。


「じゃ、これ持って」

「これ……カメラですね」

「カメラだ」

 菊瀬先生はさも当然のようにそこにある事実を述べる。

「君にやって欲しいのはPV作成だ。見て学べ、気になったものを撮っていいから」

「同じ高校生から学べることなんてないですよ……」

 そういうのは偉人とか、先駆者に当てはめて使うものじゃないのか?

「なんでよりにもよってPV担当なんですか」

 俺の質問に少しの間だけ顎に手を置き、まぁ…たしかに少し遠回しすぎか…と呟く。

 そして、でも…と菊瀬先生は一呼吸置いてから

「この役職でしか知れないことがあるからな」

 そんなことを言った。

 いつの間にか菊瀬先生はいつもの俺に仕事を頼む時と同じような表情に戻っている。


 たしかにカメラを文化祭で持つなんて唯一無二な役割だけどさ……いや…正確には唯一無二ではないか。

「ちょっと私もいますよ!何でちょっと辛そうな顔してるんですか!」

 そう、何を隠そう生徒会副会長の小瀬奏恵(おせかなえ)もこの文化祭PVの仕事を担当している。

 前の黒板に書いてあるPV担当の役職の欄には小瀬の横に俺の氏名が足されたような形で書かれている。

「菊瀬先生も言い方考えてくださいよー。これじゃあ雨芽くんがメインみたいじゃないですか」

「えー。でもあながち間違いじゃないだろう?小瀬は他の仕事もあるんだし。1人じゃとても大変だと思ったんだけど」

「ぐ……まぁ、一理あります」

 なんか不穏な言葉が聞こえた気がしたが無視だ無視。

 …これ編集も俺がやんのかな……。

「PVは私も手伝うんで、準備期間の写真を主に撮ってくださいね」

「あぁうん。分かった」

 手伝うって言葉に不安しか湧かない。


 話を終えて、前を見ると久米と櫛芭も文化祭での役割が決まったようだ。

 各クラス…出し物……… 各クラスの出し物をまとめる係かな。

 2人は浅間に文化祭での役回りの内容でも聞いてるのか、役職に名前が書かれた後も真剣な表情で話し合っている。

 それからしばらくすると会議室に人が多数入ってきた。

 その人達を見て浅間は久米と櫛芭によろしくと頭を軽く下げてお願いして別れる。

 2人がこっちに歩いてきた。


「悪いな。なんか仕事巻き込んだみたいになって」

 菊瀬先生の指示にも参ったものだ。

 1人で働くと怠けるって予想してるだろうし、久米と櫛芭がわざわざいるところで俺に文化祭を手伝えと言ったのは恐らくそういう意味を含んで、意図しての行為だろう。

「だから、雨芽くんだけ働いて私たちが休んでるのって変でしょ?そういうこと気にしなくていいの。一緒にやろうって」

「そう……じゃあそういうことで…」

 櫛芭も同歩、とそんな風に無言で久米の考えに合わせるみたいだ。

 文化祭の運営に関われるの楽しみー、と櫛芭と手を取り合う久米を見て、ある考えが頭に浮かぶ。

「これからは文化祭が終わるまで会議室集合でいいか?その方がやりやすいだろうし」

 陽悟と山内(やまうち)との作戦会議が、とは絶対に言えない。

「うーん…。まぁそれもそうだね。分かった」

「えぇ、分かったわ」

 よしこれでしばらく行えていない話し合いが、今度こそ誰にも見られずに出来そうだ。

 特に久米に見られるのが1番アウトだからな…。


 先程入ってきた前で浅間を中心に集まっている人達を眺める。

 文化祭実行委員……ではないな、もうこの教室にいるし。

 陽悟がいる、田中(たなか)もいるな。

 部長をやっている人……。

 ん……あいつもいるってことは…。

「部活とか、委員会で出し物をしたい場合はあなたたち部長と委員長が出来ればクラスの出し物の期限よりも前に出してほしい」

 浅間の要望でやはりとピンと来る。

 ……あいつ図書委員長になったのか。

 名前は緒倉小冬(おぐらこふゆ)

 去年から引き続き図書委員を務めていて、去年の後期には委員長だったんだろうか。

 生徒会はともかく、委員会の委員長は内部で静かに決まって名前が小さく出される程度だからな。

 まぁ俺ってそのともかくで出した生徒会長が誰かもさっきまで分かってなかったけど。

 にしても図書委員長かぁ。

 いやだって星予(ほしよ)さんってば名前呼ぶ時、小冬ちゃんで一貫してたんだよ、すっごい親しみを込めて。

 分かりっこないって。

 手元の資料を見ながら浅間は指示を出す。

「少し別の方法で宣伝しなきゃだからさ」

 と、理由を付け加えるのも忘れない。

 俺としては頭に浅間がこうやって働いてる姿を定着させるのに時間がかかりそうだ。

 みんなうんとかはいとかしっかり返事してるし、そういうの俺だけなんだろうなぁ……。

 ……どっかで浅間の声に聞き覚えあったのって朝礼の時か…多分。


 浅間も話したいことは全部話したようで、集まりは解散のようだ。

 そのまま目を泳がしていると件の図書委員長と目が合った。

 くいっくいっと手招きされる。

 どうしたんだろう。

 え……と背後で声が聞こえた、久米のようだ。

「なに?」

 と問うが反応は鈍い。

「い、行くの?」

「呼ばれたら行くだろ普通」

「そ、そうだよね。うん」

 久米はそれきり黙ってしまった。

 櫛芭はその沈黙に呆れた様子で言葉を切り出す。

「どういう関係なの?」

 うわめっちゃど真ん中ストレート。

 軽蔑するような目に見えるのは気のせいだろうか。

 緒倉って櫛芭と同じC組だったし友達なのかな。

「1年生の時図書室で何回か会ったことがある。それだけ」

 何回というか何十回……図書室行くたびに会ってた。

 ってのは少し大袈裟か。

 でもあいつ図書委員の仕事ない日も入り浸ってたからなぁ。

 ……それを何にも属してないくせに図書室入り浸ってたお前が言うなって感じだけど。


 2人の不審な目というか、冷めた目をなんとか知らないふりをしてその場を離れる。

 そのまま緒倉と合流し、誘われるまま廊下に出る。

「どうしたの?」

「最近……2年生になってから図書室に1度も来てないから……って星予さんが心配してるんです」

「あぁ星予さんね。まだ大丈夫?健康?」

 言ってから思ったけどこの質問の方こそ大丈夫か?

 失礼じゃないか心配になってきた。

「それに体育祭の時も、あの木陰にいなかったですし……」

 今体育祭関係なくない?

 あった?あったのかな。あったんだろうか。

「……扶助部って言うんですよね」

「うん」

 それ以外答えようがないので短く返す。

「図書委員で手伝ってほしいことがあるんです」

 あぁそういう。

 体育祭の時俺が働いてたのを見ていたのか。

 まぁ、あの日陰にいなかったら緒倉としては俺がクラス席にいるとは思わないだろうから探しやすかったのだろう。

 俺も俺自身がクラス席に長時間座ってる姿が想像できないし。

 息抜きみたいなもんで去年あの日陰に行ったら、偶然緒倉も居たんだよな。

 ……高校そのものを休んでいるとは思わなかったんだろうか。

 まぁ俺が地味にちょっとだけ誇りに思っている皆勤賞……つまり今のところ無遅刻無欠席であるということについてはここではわざわざ触れなくていいかもしれないですね、えぇ。

 …いやそんなこと緒倉が知ってるわけないだろ。

 まぁ多分偶然目に入ったとか、そんなところが妥当だろう。

 こんな俺個人のことを知ってるのは1人しか思い付かない。

 ……何故か鳥肌が立ってきた。

 さっきまで会議室にいたし近くにいるんだよなぁ…出来れば早く離れたい。


 そう、無遅刻無欠席なんですよ俺。

 高校行きたくない行きたくない口では言っていても我慢して行っているんですよ、偉くない?

 まぁ、所詮ただの無遅刻無欠席止まりなんですけどね。

 受験に何の役にも立たないし、珍しいことでもないし。

 なんなら意識してる人の方が少ないし。

「分かった。手伝うよ」

 どうでもいい思考が長すぎた。

 めんどくさい自慢話……どっかの親のスネを齧る男の子みたいになってしまった。

 星予さんのことも気になるし、まぁ引き受けてもいいかな。


 ……いつの間にか仕事だらけの文化祭になってる………。

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