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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
63/106

61.外から眺めると

「え?今日も陽悟(ひご)くんと話してから帰るの?」

「あ、あぁうん。まぁそういうことだから」

 久米(くめ)に半信半疑の目を向けられる。

 まぁそりゃそうか俺だって変だと思ってるもん。

 普段なら絶対しないだろうなぁ。

 正直に言えば確かに俺はもう陽悟と話す必要はないのかもしれない。

 だがそれでも山内(やまうち)の依頼を受けた手前、その相手である久米と一緒の時間が多いのはどうなのか、という考えで動いている。

 ……山内もわざわざ俺に頼むってことは俺と久米がそういう関係ではないっていうのは分かってるんだと思うんだけど。

 まぁ一種の線引きってやつだ。


 櫛芭(くしは)が首を傾げて呟くように声を出す。

「でも今日ってサッカー部、活動日だったかしら?」

 いくらサッカー部でも毎日が活動日ではない。

 サッカー部の定休日は木曜日。

 その他の部活も週に1日は休みがある。

 逆にこの扶助部がおかしいまである。

 なんだこの部活。

 そういうところを突かれると論破された気分になってしまうが怯まず返す。

「あいつ休みの日も自主トレしてんだよ。特に難関の生徒が部活に来れなかった週とか一緒に」

 今週は夏休み明けテストがあったからな。

 難関の方で色々と反省とか復習だとかで放課後潰れたとかなんとか。

 トレーニング同好会っていう筋トレ好きな先生が先立って始めた同好会に混ざってやってるって話だ。

 村上(むらかみ)先生だっけ。

 体育教師。

 自腹でトレーニング用具を高校に用意してるって噂あるけど……同好会だしおそらく間違いないだろう。

 よっぽど筋トレ好きなんだろうなぁ。


「は、初めて聞いたよそんなの…。胡麻(こま)ちゃんは知ってるのかなぁ……」

 久米は手に入れた情報をどうやって扱うか困っているようだ。

 ……もしかして言っちゃダメだったのかな。

 だって陽悟内緒話みたいなテンションじゃなかったし……。

 ……今まであいつ声潜めたことあったっけ、俺と話してる時。

 もうなんか認めさせようとしてるよな、意地でも俺と仲良いって、周りに。

 ……別にいいか、陽悟だし。

 難関の生徒なら俺に関わることないだろうし…ないよな?


 今日は誰も来客が来る様子は無く、コホン、と咳払いをしてから、

「じゃあ、今日は終わろう。誰も来なそうだし」

 とおもむろに提案した。

 それを受けて久米と櫛芭も席を立ち、部室を出る。

「じゃあね。また明日」

「さよなら。雨芽(うめ)くん」

 最後に俺が部室を出て扉に鍵を掛ける。

 廊下で2人を見送ってから鍵を目安箱の中に仕舞う。


 結局、陽悟と会って話したと言っても、この前とほとんど内容の変わらない確認作業みたいな感じだった。

 まぁこればっかりは文化祭近くになんないと予定立てられないよな。

 それなのに陽悟は楽しそうに話すし、難関の生徒には変な目で見られるしで……はぁ。


 その日の帰宅中。

 最寄りの路線に乗り換える際の駅のホーム。

「よっ!」

 肩をポンと叩かれて振り向いた先、隼真(はやま)美穂(みほ)が立っていた。

「おう。今帰りか?」

「そう。今帰りー」

 電車を待つ時間を3人で過ごす。

 各停の電車が停まるのを眺める。

 次が急行か。


笠真(りゅうま)。なんかあった?」

「え?なんかって?」

 美穂がそんなことを聞くからよく分からないまま聞き返してしまった。

 聞き返された美穂は言いづらそうに、いやぁ、と小さく頬を掻いて言葉を濁す。

「今日の笠真、なんか暗く見えてな」

 多分美穂が言いたかったであろうことを隼真が続ける。

 暗く…かぁ。

「今日の?いつか会ったっけ?」

 それよりも気になることを言われた。

 まるでいつも見ているような言い草だ。

「2年生になってからかな。結構見かけるぞ」

 2年生……あぁ扶助部のせいか。

 帰る時間遅くなったからな。


 まぁこの人が増えた電車にもだいぶ慣れてきたけど。

 急行の電車が駅に停まる。

 扉から出る人の邪魔にならないように一旦電車の側、そして扉の前を空ける。

 もう時期夜になるこの時間にここで降りる人とかごく少数だけど、そこはまぁマナーってことで。

「いつもの笠真なら、家に帰りたくてうずうずしてる感じだけど、なんか今日は、ボーッとしてるっていうか?」

 あぁ多分これだな、声掛けない理由。

 見かけてるなら声掛けてよって思ったけどそんな奴声掛けたくないもん…俺の話だけど。


 隼真がサッカー部で、美穂がそのマネージャーって言ってたっけ。

 美穂はテニス部だったけど続けなかったんだよな。

 2人とも頑張ってるんだろうなぁ。

「ふーん、まぁそう言われれるとそんな感じする」

 さっきの隼真の言葉にはまぁ多分同意せざるを得ない。

 扶助部の活動もあって、疲れてんのかな。

 ただ暑さがだるいだけって可能性もある。

 最近の日本って四季から秋が消えてる可能性がするんだけど、気候的に。

 早く涼しくなってほしい。


 電車の席が空いている。

 視線だけでなんとなく合図を送ってみて隼真がそれを受け流す。

 結果的に美穂に視線が集まり、その視線を感じた美穂は口を閉じてはいるがモゴモゴして何か言いたそうだ。

 溜まっていた思考を押し出すように大きくため息を吐き、

「無理したらダメだよ?」

 と、一言入れてから、美穂はその空いている席に座った。

 座るのとほとんど同じタイミングで扉が閉まり、電車が動き出す。


 むすっとした顔で席に座っている美穂を見ていると、おかしかったのか隼真がクスクス笑い出した。

 それを見た美穂がさらに顔をしかめて隼真の脛を蹴った。

 痛そう。

 隼真は中腰のような変な姿勢になり、まじで痛そうにしている。

 え、どんだけ力入れて蹴ったの…?

 肝心の美穂は流れる外の景色を口を尖らせて見ていた。

 その様子が懐かしくて、俺も笑いそうになったけど、必死に真顔を維持して顔を逸らした。

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