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ダンジョンに落ちたおはなし



「きゃっ!」

「んぅっ!」


 「()()」に呑み込まれたと思ったら、次の瞬間には尻餅をついていた。


 いったい何があったの?


 隣を見ると小春が小さなお尻を抑えて「う~」と唸っている。


「小春、大丈夫?」

「お尻痛いけど、大丈夫」

 

 ぺたぺた

 小春の体を確かめる。

 良かった。怪我はしてなさそう。


「綾姉、ここどこ?」


 周りを見る。


 森の中だ。


 さっきまで街の中にいたのに、今は森の中にいる。


 なんで?


 どうして?


「綾姉?」


 小春が不安そうな顔で覗き込んでくる。


 そうだ、こんな時こそしっかりしないと。


「ごめん、私にもわからない。おじさん達に電話して調べてもらお」


 分からない事は一旦置いておいて、まずは助けを呼ぼう。

 たしか小春のスマホにはGPSが付いていたはず、連絡して迎えに来てもらえば……


「え?」


 鞄の中からスマートフォンを出すが、操作できなかった。

 いや、動いてはいるが、私の意志では操作できない。

 勝手にアプリを起動し、無茶苦茶な文章を打ち、圏外なのに見たことも無い電話番号に電話をかけようとしている。

 止めることも電源を落とすこともできなかった。


 ウイルスが入ったのかな、でも、さっきまでは普通に使えてたし……

 

「もしかしてダンジョンの中?」

「えっ!」


 小春の声にはっとする。

 

 ここが、ダンジョン?


 小春がこっちにスマートフォンを向けてくる。私のと同じように画面が無茶苦茶に動いていた。


「たぶん。グレムリン」


 あっ!

 周りを良く見てみる。

 見たことも無い植物が生い茂っている。でも外国にも私達の知らない植物は沢山ある。これだけではここがダンジョンだという証拠にはならない。

 それでも、私達が知っている森とは決定的に違う点がある。

 

 光が浮いている。

 直視しても眩しくは無いのに、それでいて広範囲を照らしている。

 そんな光が空に幾つも浮かんでいる。

 


 ―グレムリン


 初期のダンジョン探索で多くの人命を奪うことになった原因。


 ダンジョンに無数に漂う光る非物質的存在で、当初はただの光源だと思われていたが、後の調査によりモンスターの一種だと判明している。

 まったく攻撃してこないが、あらゆる攻撃が効かないこのモンスターは、人類にとって最悪なスキルを持っていた。

 それは周辺の兵器や機械に誤作動を誘発するというものだ。

 銃は暴発し、通信機器は置物になり、カメラなどの記録機器も正常に動かないため、碌な情報も得られず多くの部隊が全滅した。

 その性質からこの光るモンスターは、伝承の妖精の名前を取って『グレムリン』と呼ばれている。


 なるほど、確かにグレムリンならこのスマートフォンの惨状も理解できる。


「はぁぁぁ……」


 認めたくないけど、ここはダンジョンで間違いないみたい。

 

 そして、状況証拠から考えると、私達は新しく生まれたダンジョンに巻き込まれてしまったらしい。


 これから、どうしよう……


 小春を見る。


 無言で頷いてくれた。


 そうだよね。悩んでもしょうがないよね。

 

 ここがダンジョンなら、取るべき行動はひとつしかない。


「小春、武器を装備。その後、持ち物を確認。それから、交互に『ステータス』を確認して、もしも『スキル』を獲得していたら教えて」

「わかった」

「絶対生きて帰るわよ」

「もちろん!」


 鞄から小太刀を出す。一振りを地面に突き刺し、もう一振りを片手に持つ。

 周囲を警戒しつつ、空いている手で鞄から不要なものを捨てる。

 肩にかけると邪魔になるので、ショルダーストラップを短くして背中に背負うようにする。


「小春、銃とスマートフォン、モバイルバッテリーは危ないから捨てていって。あっ、ペットボトルとか水が入りそうな容器は捨てないでね。」

「んっ」


 ここがダンジョンの何階かはわからない。

 帰るまでにどれだけの戦闘をするのかわからない以上、水分は絶対必要になる。

 確か森タイプのダンジョンには水源もあったはず。


 地面に刺した小太刀を抜いて二刀流になると、小春と小春と背中合わせに立つ。


「それじゃ私からステータスを確認するわね『ステータス』」


 自分のステータスを見たいと考えながらそう唱えると、目の前に半透明の画面が現れた。

 



西風田綾乃(あちだあやの)

種族 :【人間】

レベル:【 0】

スキル:【魔石喰い】




 やったっ!

 スキルを獲得してる。

 

 スキルとは、『剣闘気』や『従魔術』のような超常の力で、ダンジョンでモンスターを倒した時にごくまれに出現する『スキルシード』を、自分の『スキルスロット』にセットすることで獲得できる。

 スキルスロットは誰でも最初から1つ持っていて、レベルが10上がるごとに1つずつ追加されていく。

 たとえば、おじいちゃんはレベル37なので4つスキルスロットを持っている。

 一度スキルシードをセットしてしまうともう外せないので、スキルスロットが空いても欲しいスキルが出るまで厳選する探索者もいる。

 

 でも、私は唯一の例外、スキルシードを用いないでスキルを獲得した事例を思い出していた。

 以前何かの雑誌で、私達のように偶然迷宮が生まれる所に巻き込まれた人が、帰還後のインタビューで「スキルシードをセットしていないのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」と答えていたのだ。

 検証しようにも、迷宮の発生に巻き込まれるなんて滅多に起こらない上に、生還できたのはこの人以外いなかったので、誰も検証できなかった。

 結局、極限の状況で記憶が曖昧になっていたと結論付けられていたが……


「まさか本当だったなんてね……」


 ステータスの【魔石喰い】の項目に集中すると、どんなスキルで、どう使えばいいかが頭に浮かんできた。

 

……なるほど。


これはかなりチートね。






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