鬼に出会ったおはなし
私の撃った毒針をかわして、1匹の灰色の犬が私に噛み付こうと飛び掛ってくる。
いや、近づいてきて分かったけど、これは犬じゃなくて狼だ。
想像以上のスピードだが、おじいちゃん達ほどではない。
「っ!」
横に滑るように回避し、カウンター気味にオーク刀で首を一閃する。
狼は私に噛み付こうとした勢いのまま地面に落ちて、首と胴体に分かれて動かなくなった。
小春がまだ戦闘中だったので、手にしていたオーク刀を投げて隙を作る。小春はその隙を逃さず一気に狼を両断した。
あたりに静けさが戻る。
先ほどゴブリンから出たアイテムボックスを小春に取りに行かせている間に、周囲を再確認する。
幾つかの集団がまだ見えるが、こっちに来る気は無いようだ。
「綾姉っ!」
早速アイテムボックスを収納した小春が、中に入っていたアイテムを持って駆け寄ってくる。
小春の手を見ると、3センチくらいの丸い宝石が淡く光を放っていた。
「スキルシードね」
「やった。大当たり」
この宝石はスキルの元になるスキルシードだ。
スキルスロットが空いた状態で、これを使用することでスキルを覚えられる。
すでに私達は『魔石喰い』と『無限収納』で1つしかないスキルスロットが埋まっているから、今はこれ以上覚えられないけど、それでも、どんなスキルかは当然気になるわけで……。
小春からスキルシードを受け取って、どんなスキルか知りたいと思うとスキルの内容が頭に浮かんでくる。
「これは風魔法のスキルね。風を出して操ることができるみたい」
「おお、魔法っ!」
小春も私に習ってスキルを確認し、目をキラキラさせて喜んでいる。
色んなスキルがある中でも、魔法系のスキルはやっぱり人気があるからね。
今後レベルが10になればスロットが1つ増えるので、そのときの選択肢として小春に収納しておいてもらおう。
「ねぇ、こは――」
小春が持っているスキルシードに目が行く。
それにしても宝石みたい……。
ごくり……。
……。
「どうしたの綾姉?」
一瞬、頭によぎった変な考えを振り払う。
いくら私のスキルでもそんなことできるわけないよね。
「なんでもないよ。それよりさっき倒したゴブリンと狼の魔石を出してもらっていい?」
「うん」
小春がゴブリンと灰色の犬を収納して魔石だけを出してくれた。
深緑色の魔石と灰色の魔石で、両方とも下の階のモンスターから取れたものに比べて小さい。
順番に食べる。
ゴブリンの魔石は苦く、狼の魔石は甘かった。
ステータスを見ると『子鬼の角』と『灰狼の牙』と言うスキルが増えていた。
「う~ん……」
「どしたの綾姉。どんなスキルだった?」
「なんと言うか微妙? ちょっと使ってみるね」
新しく手に入れた2つのスキルをを発動する。
おでこの真ん中から角が生えた。 5センチくらいの短い角だ。
「それで?」
小春がわくわくしながら聞いてくる。
きっと角を生やした後に何かが起こると思っているんだろう。
「これだけ」
「え?」
「角が出ている間は少し凶暴になるみたいだけど、これで全部だよ」
『子鬼の角』は頭に角が生えて、その間は少し凶暴になる。それだけのスキルだ。
むしろ冷静な思考が奪われるのはデメリットしか感じない。
「それで、もう一個はこれ」
歯が見えるように軽く指で唇を持ち上げる。
「???」
顔中にハテナマークを浮かべていたので、スキルの詳細について説明してあげる。
『灰狼の牙』は、歯が鋭く頑丈になり、噛む力も増すスキルだ。
たぶん子鬼の角より見た目的にも効果的にも分かりにくい。鏡が無いから私も自分の歯がどうなっているか知らないし、舌で触っても犬歯が鋭くなっている事しか分からない。
使い道も食事の時意外では思いつかない。さすがに敵に噛み付くような戦い方は遠慮したい。
「綾姉、大丈夫。ダンジョンにはまだいっぱいモンスターいるよ」
小春がフォローしてくれる。
確かに、元のモンスターが弱ければ、獲得できるスキルも弱くて当たり前だ。
今後、ダンジョンに入る機会が増えれば、強力なモンスターのスキルも手に入るはずだし、そのためにもまずは脱出を急ごう。
「よしっ! それじゃぁ出口を探しに行くよ」
「お~」
小春と一緒に歩き出す。
見渡しのいい草原では、戦闘を避けるのは難しいと思ったが、モンスター同士にテリトリーがあるようで、予想より連戦せずに進めている。
森と違って飛行するモンスターがいないので、途中にある林の木の上で休むこともできた。
そして草原の中でも、一際大きな丘を越えると遠くに上層への階段が見えた。
隣を見ると小春と目が合った。
周りのモンスターの位置を確認する。このまま全力疾走すれば追いつかれる前に階段につけるだろう
お互いに無言で頷いて走り出そうとして――
足が止まった――
階段の前に何かがいる。
鬼だ。
全身から赤黒いオーラを漂わせた鬼が立っている。
目が合った。
「っっっ!!!!!!!」
一目で分かる。
――勝てない。




