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69騎 安息に潜む

 グレン砦の大浴場。

 その入り口には、腹部から大量の出血をして倒れているヴィルヘンドルを守るかのように、完全武装のアインツが仁王立ちしていた。

 

 その脇には、マイキーの使役する魔神から放たれた石飛礫(つぶて)が命中し、絶命した兵士が一人。


(殿下が3人と言っていた。湯煙で視界は悪いが、あと2人はいることに……)

 

 アインツが【ストームランス】を構え、大浴場の入り口から脱衣所へ移る。

 

「らぁ!」

 剣を振りかぶって、襲いかかる兵が2名。

 

 激しい衝突音と火花を散らし、兵たちの剣がアインツの持つ盾に当たる。

 アインツが盾を突き出し、押し込むと、1人はそのまま盾に弾かれて吹き飛ばされる。

 もう1人の剣は、右手に持ったランスで受け流す。

 

 盾で弾かれた兵の剣が、軽い音を立てて床に転がる。

 

「くそっ、裸だっていう話はどうしたんだっ! 奴は完全武装じゃねぇか!」

 飛ばされて、鼻血を噴き出した男がわめき散らす。

 

「構うもんか、2対1だ、やっちまえ!」

 剣を構えた兵が、アインツにその剣を振り下ろす。

 

 アインツはゆるりと身体を逸らせ、剣の軌道から避ける。

 振り下ろされた剣が床を強打し、床石が欠片となって飛び散る。

 

 その剣をアインツが踏みつけ、動きを封じると同時に、ランスを逆手に持ち替える。

 剣を抑えられた兵が首を上げてアインツをを見ると、眼前にはランスの矛先が迫っていた。

 

 もう1人の兵が落ちていた剣を拾い、加勢に入ろうとした時、既に剣を抑えられた兵の頭部は、ランスで串刺しになっていた。

 

 兵は首に下げていた笛をくわえると、肺の中が空になるかと思われる程の勢いで吹き鳴らす。

 

 金切り声のような耳をつんざく音が、辺りに響き渡る。

 

「敵の増援が来ます! マイキー、装備を探して! 姫殿下は、殿下をお願いします!」

 言うが早いか、笛を吹いた兵の首を、ランスの突きで跳ね飛ばす。

 

 飛ばされた首が天井に当たり、水風船の割れるような音を立てて砕け散る。

 天井からは破裂した破片と体液が滴り、骨のかけらと肉片が赤黒い跡を残す。

 

 大浴場は廊下の一番端にあるため、袋小路になっている。

 

 笛の音を聞いたか、廊下の奥から足音と掛け声がした。

 

「遠音聴覚、気配感知!」

 マイキーが能力を発動させる。

 

「数、14。重装備5、あとは軽装っス!」

「了解! 通路前方に突撃をかけます!」

 

 アインツが増援に向かって【ストームランス】を構える。

 

「こんな通路で、長いランスが使えるかよ!」

 いかつい兵が、剣を2本持ってアインツへ斬りかかる。

 

「オレの二刀流、やぶることができらうばっ!」

 飛び込んだアインツの盾で、兵は顔面を強打する。

 

 血と一緒に、奥歯らしきものが二つ、口から出てきた。

 

「ひ、シールドで、だとっ」

 かろうじて剣は放していないが、頭はふらつき、足元がおぼつかない。


 その隙を見逃さず、胸板にランスを突き立てると、そのまま廊下を進んでいく。

 その奥にいた兵の身体も貫き、さらにもう1人の兵を弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた兵は、【ストームランス】の真空波に巻き込まれて切り刻まれていく。

 

 アインツの突進が終わり、ランスを振り抜くと、身体を上下に裂かれた兵の身体が床に落とされる。

 

「まず3人っ!」

 

 そこへ重装の戦士がアインツの前に立ちふさがる。


「ほほう、やるようだな。だが、このオレ様の斧は特別製、鎧も特別製だ。

 おまえごときのヒョロヒョロ槍で、貫けるものかっ」


「ふうっ」

 一呼吸入れると、アインツは身を屈め、ランスを突き出し前進する。

 騎士得意のチャージ攻撃である。

 

 重装戦士が、その重量ながら軽い身のこなしで、ランスの射線から外れる。

 盾が迫ってくるが、それに対しては、棘の付いた肩当てで迎え撃つ。


「させねぇよ!」

 

 アインツの突進に対し、重装戦士も真っ向から当たりに行く。

 アインツの床を蹴る足に力が入り、ストーリアによる空気の噴射がそれを補佐する。

 爆発的に加速したアインツは、盾を構え、ランスを突き立てて進む。

 

 アインツの盾に当たった瞬間、重装戦士の肩当てがひしゃげ、潰れていく。

 それと同時に、重装戦士の肩が壊れ、あらぬ方向へ折れ曲がる。

 近くにいた兵を巻き込み、重装戦士が吹き飛んだ。

 

 頭から壁に激突した重装戦士は、不自然な角度に首が曲がり、そのまま動かない。

 

 アインツはもとより倒した相手には目もくれず、まだ攻撃の意思を持った連中に、突撃を行うのみであった。

 

 

「なかなかやってくれるではないか、無爵の野良犬よ」

 

 兵の一団の後ろで、華美な貴族の衣装を着た男が、アインツに言葉を投げる。

 

「確か、総督、モルグール総督ですか」

 

「ほほう、下賤な野良犬風情が、この高貴なる名門貴族である私の名を口にするとは、不愉快極まるわ」

「なぜ、王都陥落の際に、砦を放棄されたと聞きますが」


「おまえのような奴と問答することそのものが汚らわしいが、ここは戯れに答えてやらぬでもないぞ」

 モルグールは、わざわざ顎を上げ、アインツを見下すような視線を送る。

 

「この私が逃げたとでも思うのかぁ!? ばぁかが、そのような戯言ざれごとを真に受けおってぇ!」

 腰の剣を抜くと、アインツに切っ先を向ける。

 

「ケヒャヒャヒャ! 王族の落人おちうどがこの砦に向かっていると聞いてなぁ、こうやって首を取るための罠を仕込んでおいたというのだよぉ!

 まんまと私の策略にはまったということだなぁ、この無能な駄犬がぁ!」

 

 激しい感情の高ぶりから一変、冷淡な表情になったモルグールは、脇に控える兵たちに命令する。

 

「やっておしまいなさい」

 

 モルグールの掛け声で、一斉に飛び出す兵たちに、アインツがシールドを展開してこれを防ぐ。

 脇に流れる兵は、ランスでことごとく討ち取る。


 だが、モルグールの後ろから、さらに兵が現れ、アインツへ向かっていく。

 

「アインツさん、装備は見当たらないっス! きっとどっかへ持ってかれてるっスよ!」

「そうですか。では、まずはここを切り抜けましょう」

「了解っス」

 

 アインツのランスが突き出され、マイキーの放つ石飛礫(つぶて)が弾丸となって打ち出される。

 モルグールの兵は、薙ぎ払われ、打ち倒され、貫かれていった。

 

「ええい、不甲斐ない! だが、どのような者であっても、これだけの兵を相手に、疲労は隠せまい!」

 

 モルグールは、焦りから出る冷や汗を流しながらも、アインツとマイキーを観察する。

 

「これくらいで疲れるって思われるなんて、見くびられたもんっスね」

「まったくです」

 

 氷のような視線を2人から受け、モルグールは顔を青ざめさせて後ずさる。

 

 アインツが抵抗する兵を突き倒し、その身体からランスを抜く。

「これで、兵は最後のようですが?」

 

 モルグールは尻餅をつくと、恐怖のあまり失禁して股間と床を濡らしてしまう。

 

「そ、総督閣下!」

 

 奥からモルグールを呼ぶ声がし、かすかな期待を込めて、総督と呼ばれた男は声の方へ振り向く。

「ベルンフォート!」

 

 そこには、スリード王国辺境守備隊、第四大隊討伐分隊、隊長のベルンフォートがいた。

 

「よく駆け付けた! ベルンフォート、私を助けろ、奴らは王都から落ちてきた敗残者だ! 新王の即位を邪魔する者だ!

 奴らを捕らえ、首をはねよ!」

 

「今までどこにいらしたのです、モルグール総督、いや、モルグール!」

「な、貴様、今なんと……」

 

「ここぞという時に、役目を果たさずいなくなったおまえに代わり、私が砦を守ってきたのだ。それを、のこのこと今頃になって。

 厚顔無恥にも程があろう!」

 

「わ、私は、王国の裏切り者が、グレン砦に向かっている、と、聞いて……」

「それでどこからか私兵を集め、手柄を取りに来たというのか」

「そ、そうだ、こやつらを捕らえれば、私も貴様も、栄誉と報奨は望みのままぞ! どうだ、貴様も晴れて貴族となることができよう。

 いや、そうなるよう私も手を尽くそう、な、悪い話ではなかろう」

 

 ベルンフォートのブーツのかかとが、歩くたびに大きな音を立てる。

 一歩、また一歩と、モルグールに迫る。

 

「あ、あふぁー……」

 

 白目をむいたモルグールが、泡を噴いて、座ったまま後ろに倒れ込む。

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