48騎 到着
アインツたちは、海岸沿いに北上し、スリード王国領に入ってから上陸、王都ケイティパレスへ到着していた。
「いやー、流石に小型ボートにはきつかったっスよー」
「海上とはいえ、あの国境線の近くの攻防は、よく無事に通れたと思います」
「まったくじゃわい」
王都ケイティパレスでは、国王クリング三世への謁見が許され、アインツたちは玉座の間へ通される。
玉座の間は、流石大陸随一のスリード王国だけあり、華美な装飾も洗練されたもので統一されていた。
全体が白を基調とした中で、青い色がワンポイントとなって際立たせていた。
入り口から玉座へは、緋色の絨毯が一直線に敷かれており、その両脇には十二本からなる白大理石の円柱が、見事な彫刻に飾られ天井を支えていた。
その奥、玉座には、老いを感じさせないたくましい身体つきに、最上級のきらびやかな衣装をまとい、頭にはシンボルとなる冠を乗せている男が座っていた。
国王、ブラッカ・ランドルス・ダム・クリング三世である。
「久しい、というところかな、白銀の守護者よ」
「陛下におかれましては、こたびの件、ご心中お察し申し上げます」
「まさか、このようなことにまでなろうとは予期しておらなんだが。これも余の不徳の致すところだ」
「近年、魔族をはじめ、陰で暗躍する者が多いと聞きます。私どもも、以前はお手伝いできたものもあったかとは思いますが、私どもが大変動と呼んでおります事象からこちら、更にその動きが活発になってきているように思われます」
「大変動、か。余も詳しくは知らぬが、特に王国に変化はないのだ。そなたは仔細を知っておるか」
「それについては、王立図書館長である私の方からご説明致しましょう」
「おお、モルグールか。そなたほどの知恵者であれば、頼もしい限りだ」
(モルグール? ああ、グレン砦の総督の血縁かなにかか)
実際には、グレン砦のモルグール総督の父に当たる、モルグール伯爵であるが、アインツはそこまでのことは知らない。
また、今回反旗を翻したルシェンドラに、アインツたちの情報を元老院として伝えたのも、モルグール伯爵である。
「大変動と呼ばれる件につきまして、王国で認識しておりますのは、王都より北西にありました、天からの管が崩壊したことが挙げられます。
天からの管とは、オウリス平原の西に位置する、スクイレル教会に建てられていた、天まで伸びる細い管のようなものでしたが、それが一夜にして崩れ、教会は瓦礫に埋もれたということがありました」
「天からの管は、余も以前見たことがあるが、そうか、あれが崩壊したというのか。辺りに被害は出なんだと聞いていたが」
「はい、不思議とそこには人がいなかったという報告でした。
そして、その大変動後、我らには特に変化はございませんでしたが、今まで死後砂となって消滅し、また復活をするという砂人間と呼ばれていた人物が、死後、消滅せず、復活もしないという現象が起きています」
「確かに、砂人間と呼ばれる者たちは、特異な能力や力を発揮していた。余もそれでかなり助けられたところはあったが」
「そのことですが、陛下」
「いかがした、アインツよ」
「私たち、地上世界と呼ばれる世界に住まう者が、こちらの地下世界と呼ばれる世界に訪れる際、様々な能力を付与されていました。
それは今も続いているものもあり、続いていない、使い方の解らないものもありますが、おおむね強大な能力であると言えるでしょう」
クリング三世が白くなった顎鬚をしごく。
「道理で、そなたらの強さは、王国の兵とは比肩できぬものであったのだな。うらやましくもあり、頼もしくもあるが」
「アビスクロニクルの効果が、どこまで相互に作用していたのかまでは判りかねますが、地上世界の者たち、特に高レベルの者たちが、数多の戦場で勝敗を決める鍵となることでしょう」
「なるほど、さすればこそ、そなたらの活躍に期待するところ大であるな」
「私も、できれば平和な世界、国を守りたいと思っています。
戦乱は望むところではなく、国民が塗炭の苦しみを味わうことは、避けねばなりません。
そのためであれば、この白銀の守護者一同、助力を惜しみません」
「既に王都より北、オウリス平原にて双方の軍がにらみ合っていると聞く。詳しくは将軍らから聞くとよい。
そなたらの力、頼りにしておるぞ、アインツ」
アインツは、深々と礼をし、国王に別れを告げる。
玉座の間から退出したアインツに、貴族の娘が声をかける。
「あの……、アインツ様、わたくしのことを、覚えていらっしゃるでしょうか」
「お久しぶりですね、カナーティア様。その後ご挨拶もできず、失礼いたしました。あれからご壮健であればよいのですが」
「ええ、その節はお世話になりました。わたくしも、無事今日まで命ながらえておりますのよ」
「流石は聖騎士アインツ様じゃ。レディの扱いには慣れたものじゃの」
「からかわないでくださいよ、エレーナさん」
カナーティア・マリル・アフナ侯爵令嬢。
以前、アインツたちが魔神リバーモアから救った、貴族の令嬢である。
「ルシェンドラの妹たちには、かわいそうなことをしました。わたくしのせいで、あなたが悪く思われていなければよいのですが」
「あれは、護衛の任を果たせなかった私たちの落ち度。責められて当然です。
それに、ひとつ間違えば、あなたがここにいなかったかもしれません。そう思えば、あなたに恨まれることもおかしくはないと、覚悟しておりますよ」
「そんな。あなたはわたくしの命を救ってくださった、大恩あるお方。そのようなことは、天地が逆さまになっても、ありえませんわ」
「そう言っていただけると、私も心安らぎます」
「こたびの戦、相手にはルシェンドラがいるものと聞きます。
ルシェンドラは、あの戦いで亡くなった妹たちのことを根に持っている様子。
恨みを持った想いは、普段の力を越えると言います。どうか、お気をつけて」
「大丈夫っスよ、アインツさんは、以前とは比べ物にならない程パワーアップしてるっスからね」
「おぬしの物言いでは、安心できるものもできないじゃろうなぁ」
「またまた、エレちゃん、ドイヒーっスよ~!」
2人の掛け合い漫才を見て、カナーティアとアインツは苦笑いをする。
「ご案じ召さるな、姫。きっと、勝って戻るとお約束しましょう」
アインツたちはカナーティアに一礼をすると、出陣の準備をするため、兵舎に戻っていった。
「アインツ、今回は厄介なことになったな。
ガンツもおるし、件のルシェンドラも、反旗を翻して一軍を率いているらしいしな」
「そうですね、戦場で陣を構えている王国軍に、私たちも急ぎ合流しましょう」
兵舎で身支度を整え、装備を背負う。
アインツの武器は、嵐の魔神、ストーリアが化身するため、今は手にしていない。
軽く、風がアインツの周りを取り巻いている様子だった。
「それにしても、白銀の村を出る時、クロノスさんに、ガンツさんが敵対するようなことがあれば、日常の様子を書いた手紙を送れと言われていましたが、あれでよかったのでしょうかね」
「そんなことも言っておったのう。しかし、あのような日常会話だけでは、何か意味があるのかのう」
「まったくです」
「そうっスね。ああ、終わったら宴会したいっスね~」
朝日が昇る。
スリード王国の中央、王都ケイティパレスの北に位置するオウリス平原には、かつてない規模の人間が集っていた。
勢力としては、スリード王国に属する者と、それに対抗する者。
「おうい、将軍さんよう」
ガンツが、帝国軍の陣でバルバウ将軍を探している。
「なんだ騒々しい。決戦前だぞ、控えんか」
陣幕をくぐると、部下と共に部隊配置について協議しているバルバウがいた。
「なんだ堅いことは言いっこなしだぜ。景気付けに、どうだ一杯?」
「なんだ、普段のお前らしくないな。将軍は今お忙しいのだ。酒なら私が付き合おう」
補佐官のメビウスが、右手を差し出す。
メビウスは、先の戦いでルシェンドラと対峙した際、バルバウをかばい左腕を失っていたのであった。
「では私はあちらでガンツ殿と一献やってきますので、監督官殿、後は頼みます」
メビウスがガンツを連れて本陣から出ていく。
「シュタウフェッツ、監督官の役目もあろうが、メビウスのことは責めないでやってくれぬか。奴も、ガンツがここにいては面倒だということは理解しているようだからな」
「解っていますよ。メビウス殿がこうでもしなければ、我が軍が敵の薄いところを狙っているのも筒抜けになってしまうでしょうから」
「密な連携が取れていれば、このようなことまでしなくともよいのだがな。所詮は寄せ集めの軍隊よ」
バルバウの一言は、そのまま連合軍が一枚岩でないことを示す証左であった。




