43騎 鉱石の出会い
白銀の村の東の森に、クロノスはいる。
「なぁ、オレたちも手伝った方がいいかい?」
クロノスと一緒に来たブレンが、手にした得物をいじりながらゴブリンたちを見る。
そこには、ゴブリンとしては異形の、身長が2メートルはあるかという大きなゴブリンがいた。
ゴブリンは個体としてはあまり大きくなく、1メートル前後の者がほとんどである。
たまに背の高いゴブリンがいたりするが、それでもせいぜい1メートル50センチ程度で、このように2メートル近いゴブリンは、異様と言える。
「皆聞け! よいか、ゴブリンを殺すな! 多少の怪我は仕方が無いが、命だけは奪うな!」
「おい、それはオレにも当てはまるのか?」
「そうだ。ブレン、ルミナイト、オレに考えがある。殺すなよ」
「他のゴブリンはともかく、あのデカブツはそううまくいくかね」
「お前たちなら、簡単だろ?」
クロノスの問いに、ブレンとルミナイトは、口角を上げて応える。
ジャイアントゴブリンが、手にした木の棒を振り回す。
「いってぇ!」
村人が、こちらも木の棒で応戦するが、弾き飛ばされてしまう。
「がたいがでかいだけじゃねぇぞ、ゴブリンのくせに、力も強え!」
「そりゃああのでかさだもんなぁ」
そこへ、ブレンが赤髪をなびかせ割り込んでくる。
「お前たちは下がってろ。あんな奴相手に、手加減して勝てるなんてのは、オレたちだけじゃなきゃ無理だろ」
「おお、ブレンさん、助かった~。オレたちだけじゃ、勝てるかどうかも不安でしたから」
「ま、しゃーないわな」
ブレンは、腰のグレートソードを抜き払う。
「私が援護しようか?」
「いや、オレ1人で大丈夫だ」
「なんだ、それでは私が来た意味がなくなってしまうではないか」
「まぁそう言うなって」
振り下ろされる木の棒ををグレートソードですらしながら、ブレンが間合いを測る。
ジャイアントゴブリンが木の棒を上段から振り下ろそうとする。
ブレンは、その棒を一閃、グレートソードでジャイアントゴブリンが持っている木の棒を切り落とす。
「グガ……?」
それを見たジャイアントゴブリンは、きょろきょろと辺りを見回すと、手頃な木に手を置き、それを鷲掴みにする。
「お、まさか、な」
ジャイアントゴブリンは掴んだ木の幹を揺すると、それを引き抜こうと力を籠める。
「おいおいおい、本気かぁ!?」
ブレンの驚きをよそに、ジャイアントゴブリンが奇声を上げ、一気に木を引き抜く。
パラパラと抜かれた根から土の塊が落ちる。
ジャイアントゴブリンが抜いた木を小脇に抱え、横薙ぎに振り回す。
勢いの付いた木は、唸りを上げて森の木々を薙ぎ倒していく。
ジャイアントゴブリンの周辺には立木が無くなり、一面の広場と化す。
「なんだこいつ、どんだけだよー!」
「ブレン、怪我はさせてもいいが、命は取るなよ」
木の幹を振り回すジャイアントゴブリンの腕にグレートソードで斬りつけるが、皮が厚いのか筋肉で弾くのか、深手を負わせることはできない。
ならばと足の動きを止めようと、脚を狙ってグレートソードを振るうが、大振りの幹に打ち払われてしまう。
「いやいやいや、むりむりむり! お前だって見ただろ、ルミナイト! これをどうやって殺さずに倒せってんだよ!」
「こんな相手でも、1人で立ち向かう勇敢なブレンさんなら、お手の物だよなぁ」
「わかった、悪かったよ。一緒に戦ってくれ、な」
すんでのところでブレンが身を屈めて避ける。その頭上を木の幹が空気を切り裂く音を出しながら素通りする。
「しょうがねえな、逃げるんなら手伝うぜ」
「うえー、マジかー」
クロノスが辺りを見回すと、あらかたゴブリンが捕らえられており、双方ともに数人は怪我をしている者を見るが、それ程重傷でもなさそうだった。
伐採小屋から少し離れたところで、大立ち回りを演じているブレンたちを除いて。
「やれやれ、なにを遊んでいるんだか……。皆は怪我をしている者の手当てを。ゴブリンにも同様にだ。私は少しあちらを見てくる」
クロノスが村人に指示を送ると、自らはジャイアントゴブリンの方へ向かった。
「だいぶ苦戦しているようだな」
「へへっ、カッコ悪いところ見られちまったな」
「魔法で何とかなるかい?」
「魅了!」
クロノスの呪文が発動した瞬間、ジャイアントゴブリンの動きが止まる。
「お!」
「効いた!」
「よし、手に持った物を離してくれないか」
ジャイアントゴブリンがクロノスの顔をじっと見つめ、ぼろぼろになった木の幹を手放した。
地響きと共に木が地面に横たわり、辺りに静寂が訪れる。
「手を後ろで組んでくれないかな」
魅了の魔法は、あくまで魅了するだけである。無理難題を命令しても、受け入れられないこともある。
そのため、クロノスはお願いという形で自分のして欲しいことを伝えるのだ。
ジャイアントゴブリンは自発的に後ろ手に組み、それをルミナイトがロープで縛る。
「少し不自由だろうけど、我慢しておくれ」
クロノスの声に、ジャイアントゴブリンが潤んだ瞳を向ける。
「よし、では適当な広場もできたことだし、少し話をしようか。共通語が話せるゴブリンシャーマンに、今いる中で一番位の高い奴が誰か聞いて、そいつらと話をしよう」
クロノスは、捕らえたゴブリンシャーマンの所へ行く。
「この中で、誰が一番偉いんだ?」
「偉イ、族長、偉イ」
「その族長は誰だ?」
ゴブリンシャーマンが、ジャイアントゴブリンの方を向く。
「族長、大キイ、強イ、偉イ」
「うえ、まさか」
ブレンは驚くが、考えてみれば強い者が群れを治めるというのは、理に適っているともいえる。
「よし、なら話をしよう。この魔鉱石についてだが」
「魔鉱石だって?」
ルミナイトがクロノスの持っている鉱石を覗き見る。
「そうだろうな。これは魔鉱石で、術者が外部から力を加えると、魔力が回復するというやつだ。確かにこのサイズの魔鉱石は、滅多に出ないものだな」
クロノスがゴブリンシャーマンを通訳として、ジャイアントゴブリンと話をした後にブレンたちの元へ戻ってくる。
「で、なんだって?」
「うーむ。このゴブリンたちは、この森の奥にある洞窟に住んでいる者たちだそうだ。
この魔鉱石は、ゴブリンの宝で、とても疲れた時、魔力を消費した時だな、その時に、癒しを与えてくれる不思議な神の石、なんだとか」
「それがなぜ森に落ちているなんてことになったんだ?」
「彼らにしてみれば、落ちているなんてことでは無くて、彼らなりの祭壇を設け、昼間太陽が出ている時にその力を吸収しようとして、祭壇に安置していたのだという」
村人の話では、石のテーブルのようなものが作られていて、その上に置いてあったそうだ。
「なるほど、情報に不整合は無さそうだな」
「太陽に当てて魔力補充とか、そんなことできるのか?」
「いや、聞いたことはないが、彼らなりの風習なのだろうよ」
「それで、どうするんだ。石を奪って、こいつらも皆殺しにするか?」
「それをしないために、苦労したんだろうが」
「違いない」
クロノスは思案していたが、一つの結論に思い至った。
「この小屋を、学校にしよう」
「な、それってどういう……」
「不幸な遭遇戦は、意思の疎通ができないことにあった。であれば、まず言葉を教えよう。
そのための学校として、この小屋を使う。
丁度いい庭もできたことだし、青空学級から始めようとするか」
「そんなことをして、なんのメリットがあるんだよ」
「ゴブリンたちは生活が豊かだとは言えない様子で、その日の食事も事欠く有り様らしい。
だが、大量ではないものの、その住んでいる洞窟には、魔鉱石が採れるようだ。
他にも、金属の鉱脈があるらしい」
クロノスは、ゴブリンたちと友好関係を結び、村からは安定した食料や道具の提供、ゴブリンたちからは、魔鉱石や金属などの鉱石や、木材伐採の力仕事の手伝いといった労働力を提供してもらうことにする。
「そのための、学校だ。
先程の戦闘でも見たが、このゴブリンたちは、必ずしも敵対行動を取るわけではない。会話ができれば、友好関係を築くことも可能なのではないかと思ったまでだ」
それが可能かどうか、魅了の魔法を解いた状態で、ジャイアントゴブリンと話をする。
ジャイアントゴブリンは、初めは興奮気味ではあったが、次第に落ち着きを取り戻した。
「そこで学校の話だが、給食制度を導入しようと思う。
学校に来て、共通語を覚える。授業に来れば、給食をもらえる。どうだ、これならばゴブリンたちも、目先のメリットが生まれようというものだ」
「その食事はどうするのだ」
「少しの間は、備蓄から借りることにする。なんなら私が買い取ってもいい。先行投資として、今まで得られなかった魔鉱石が手に入るのであれば、それくらいは安いものだからな」
お互い、接触が無ければ殺し合いに発展することも無いが、こうして出会ってしまったからには、なんらかの関係が必要となる。
ゴブリンの中でも、ジャイアントゴブリンとゴブリンシャーマンは、それなりに知恵が働くようで、クロノスの提案を受け入れた。
クロノスは、ゴブリンの族長であるジャイアントゴブリンに魔鉱石を返し、これらの約束事を取り付ける。
ひとまず、伐採小屋に予備の食糧として保管していた食べ物をゴブリンたちに提供し、翌日から授業を開始する旨を伝える。
怪我をしたゴブリンも手当てによって癒され、たいした傷も残らなかった。
こうして、白銀の村の端に、クロノスのゴブリン学校が開校する。
次回、アインツたちがアルフォンス男爵の所へ行くお話です。




