6王 技量と王位
「殿下、ここはお退き下さい」
マーハラーンがガンツとルシェンドラの間に入る。
「どけい、ジジイ。オレと王子とやらの戦いの邪魔をするな」
ガンツがマーハラーンに詰め寄る。
「老いたりとはいえ、剣技ではだれにも後れを取らぬという自負がある。お相手願おうか」
マーハラーンが抜いた剣をガンツに向けて構える。
ガンツが一閃するが、それを躱してバトルアックスをいなす。
「ほほう、確かにその剣さばき、いいものを持っていると見える。いいだろう、相手してやるわ」
ガンツは、【赫斧】をマーハラーンに向ける。
「参る!」
マーハラーンがガンツに向かって突っかける。
「あいよ」
ガンツはそれを【赫斧】で受け流そうとする。
マーハラーンの一撃を【赫斧】が受け、火花が散る。
振り下ろした【赫斧】の炎が、マーハラーンに襲いかかるが、マーハラーンが剣圧でこれを霧散させる。
「やるね、ジイさん」
「なんの」
マーハラーンが激しい突きを繰り出すが、ガンツはそれを剣ごと弾き返す。
ガンツはそこから更に突き上げをしようと【赫斧】を振り上げるが、姿勢を低くして懐に潜り込もうとしたマーハラーンに躱されてしまう。
マーハラーンが、地面すれすれのところから急接近し、アッパーカットの要領で剣を突き上げる。
ガンツは【赫斧】の柄で、これを防ぐ。
戦場には、剣戟と火花が散る。
マーハラーンの剣技は流石で、半世紀以上鍛え上げたその技量は、確かに圧巻であった。
ガンツも、筋力上昇の能力で、かろうじて耐えているといえた。
「確かに、こやつの力は圧倒的だ。だが、圧倒的な武力も、当たらなければどうということはない。
いいですか、殿下。受けるだけが守りではない。打ち合うだけが攻撃ではないのですぞ」
斬り上げた剣を、即座に振り下ろす。
隙をついた一撃は、ガンツの鎧に一筋の傷跡を残す。
アビスクロニクルをプレイしていた当時のガンツであれば、己の肉体を誇示するあまり、鎧の類はほとんど付けていなかったが、大変動後、装備を整えることには心を砕いていた。
それは、この時のように、生き残るために。
その行為が、致命傷となるところを助けたともいえる。
だが、ガンツは負けない。生きることに対して、強さに対しての執着が、圧倒的な力となる。
ガンツの鎧に傷を付けたその剣を、身体ごと押し潰したのである。
切っ先から真っ向にぶつかれば、鎧も貫通して身体まで届くであろう。
そこを、刃先が過ぎ去った時を見計らい、身体を前に押し当てる。
突き立てられない剣は、強力な圧に負けて、地面へマーハラーンの手首ごと持って行かれる。
老齢となったマーハラーンに、剣技の冴えはあるものの、このガンツの圧力を跳ね返すだけの力が無かった。
マーハラーンの両手が、剣を握った形のまま、押し潰されていた。
指がその機能を果たさず、剣を持つことすらままならない。
「!!」
唇を噛み締め、うめき声すら上げないマーハラーンを見て、起き上がったガンツが【赫斧】を振りかぶる。
「見事」
ガンツの【赫斧】が、マーハラーンの首めがけて振り下ろされる。
マーハラーンの首をガンツの【赫斧】が切り落とすと思われたその直前。
「待ってくれ!」
【赫斧】の前に、ルシェンドラが躍り出し、【氷雨】でそれを受ける。
バトルアックスは止まるが、吹き上げた炎がルシェンドラを襲う。
肉の焼ける匂いと音が、ルシェンドラのうめき声と共に辺りに響く。
「どうした、王子」
ガンツは、自分の行為を止められたことに、多少の不満はあったものの、その止めに入ったルシェンドラに対し、問いを投げかける。
「まだオレが戦えるのに、ジイを見殺しにはできん」
「殊勝だな」
ガンツが【赫斧】を振り下ろす。
「だが愚かだ」
ルシェンドラは、マーハラーンを抱えて飛び退く。
ルシェンドラの背中を、炎の渦が焼く。
「残念だが、オレではこの化け物には勝てん……」
ルシェンドラが独白する。
「なんだ、解ってんじゃねぇか」
ガンツが独白に相槌する。
「しかしだ、オレも王国第7位の王位継承者。むざむざとやられるわけにはいかぬ」
「ほほう、王子、王子とは聞いていたが、そうか、王位継承権を持った、本物の王子だったか」
「ああ。王家の者は最期の時まで王家の物らしく、だ。
だが、妹たちの仇、白銀の者どもをこの手で討ち果たせないのは、心残りではあるがな」
ガンツの眉が、ひくりと動く。
「白銀? 白銀の守護者のことか」
思いもよらぬところから飛び出した言葉に、ルシェンドラが目を丸くする。
「知っているのか! 白銀の者どもを!!」
ガンツにしてみれば、知らないどころか以前はそのパーティに所属していたこともあるし、先だってはそのリーダーたるアインツと、刃を交えたばかりであった。
「白銀の者どもは、我が妹たちの仇! 何か知っている事があれば、教えてはくれまいか!」
戦いの最中であるというのに、自分たちがかなり劣勢だというのに、ルシェンドラはガンツに問う。
ガンツは、ルシェンドラの豹変ぶりに多少気圧されながらも、復讐心に猛る王子を見て、【赫斧】を引かせる。
「知ってどうなる。今オレに殺されようとしているお前が」
ガンツがルシェンドラに問う。
「オレの命などどうでもよい。妹たちの無念今晴らせずとも、死したる後は悪鬼羅刹となりて、かの者どもに鉄槌を食らわせてくれようぞ。オレが死すことで、神に望みを伝えることができる、その好機と取ればよい」
まさに血涙を流すがの如く、ルシェンドラが訴えかける。
「神なぞいるかどうかも判らんが、それに賭けるというのか」
「神はいる。信じる信じないの事ではなく、神はいるのだ。何かを成した強い魂には、神に通じる。そうして、後世に伝えることができるのだ」
「世迷言を。それであれば、なぜお前は死ぬ。なぜお前の妹たちは助からなかった」
「神は、生者には力を与えぬ。死者の魂にのみ、力を与えたもうものだ。そして、その大いなる力が、次なる命へと受け継がれていくのだ」
(神? 輪廻を司るとか、そういうことか……?)
ガンツは、新たな概念に戸惑う。
「ふむ。まぁいいだろう」
ガンツが【赫斧】を肩に担ぐと、【赫斧】は纏っていた火の粉を消す。
「王子よ、お前の命は助けよう」
ルシェンドラは、ガンツが何を言っているのか一瞬理解できなかった。
「蒼の王子、お前は王となれ。そして国を統べろ」
ルシェンドラは、ガンツの言葉に目を見張る。
「な、何を言っている……」
「お前は面白い。素質もあって、王位継承権もある。オレがお前を王にしてやる。スリード王国をお前が治め、南部連合も併呑するのだ」
ルシェンドラは面食らう。
「バカを言え。王国を裏切れというのか」
「殿下、こやつの妄言、聞き入れてはなりませぬぞ!」
マーハラーンがルシェンドラを諫める。
「殿下のお血筋は複雑なものでありましょう。ですが、今まで王国に尽くしてこられたのは、反旗を翻すためではありますまい」
「確かに今の王朝には矛盾や不満はある。だが、叔父上を、現国王をこの手にかけるなど……」
「こまけぇこたあいいんだよ」
ガンツが、ルシェンドラたちの話を遮る。
「お前の意思はもう死んでいる。これからはオレの指示に従え。でなければ、身体の方も死ね」
次回、アインツたちに戻って、新しい仕事を請け負うお話です。




