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31騎 白銀の村

 教会の周辺も集落らしくなっていき、当然不便なものが多いが、生きるという点では日々の生活も送れるようになっていた。

 

 アインツたちは、さらに視野を広げるべく、探索を検討する。

 特に戦力として期待されるアインツやルミナイトたちには、武器や防具が必要であるといえた。

 これは、レオロ村での戦いで、ガンツと剣を交えたアインツが、特に痛感するところだった。

 

 基礎能力なのかどうかは判らないが、確かにアインツたち地上世界ガイアのメンバーは、他の連中に比べて、戦闘力が高いようだった。

 そのため、掻き集めの装備でも、近隣のモンスターでは脅威にすらならなかった。

 

 ただ、ガンツなど他の地上世界ガイアの者や、上位魔族といった相手では、裸で相対するようなものであるのも確かだった。

 

 ムルガが鍛冶で革鎧にプレートを打ち付けたりして多少の補強を試みてはいるが、元々武器職人ではないムルガには、頑強な鎧を製作する技術も道具も無かった。


 ある程度の集落の規模も確保できたところで、防衛という点でも装備を整える段階といえよう。

 

 そこで、アインツはメンバーを選んで、周辺調査と国々の動向を調べるため、旅に出ようと考えたのだ。

 アインツの他に、メンバーはマイキーとエレーナを選択した。

 調査に必要な能力を持ったレンジャーのマイキーと、有事の際の回復役としてのヒーラーのエレーナだった。

 

「ぜひ、お供にお加えください、アインツ様!」

 クロノスが執拗に懇願するが、アインツは聞き入れなかった。

「クロノスさん、あなたには、この集落を守っていただきたいのです。

 村人の心のよりどころとしては、クエスに引き続き長老の役割を担ってもらおうと思っています。

 その補佐役として、クロノスさんの知識と経験を、集落の発展に役立ててもらいたいのです」

 

 確かに、クロノスの持っている知識は、開拓し始めのこの集落にはうってつけであり、クロノスが町並みの整備や食料の供給などを的確に采配したその手腕は、目を見張るものがあった。

 見た目は骨と皮ばかりの異様な魔法使いだが、治政の能力に長けているのである。

 また、有事の際には、その魔法使いとしての技量も信用に足るものであり、ある程度の敵に対しては、撃退することができるものと考えての事でもある。

 こと、戦闘に関しては、前線部隊として、てろてろ、ルミナイト、ブレンなどの物理攻撃系メンバーがおり、後衛としてクロノス、クーネルが控え、サポート役としてはクエスがいた。

 

 集落の備えとしては、地上世界ガイアのメンツが揃っており、なかなかの陣容といえた。

 それに、村人の中にも、武器を持って戦える者が増えてきたこともある。

 

「よろしいでしょう。であれば、一つわがままをお許し願いたいのですが」

 クロノスがアインツに食い下がる。

「できるだけ、そえるようにしたいところですが」

「では」

 クロノスが咳ばらいをする。

 

「この集落を、白銀の村と称したいのですが、ご許可願えますでしょうか」

 

「え、あ、それはちょっと……」

 クロノスの斜め上からの攻撃に、アインツは口ごもる。

 

「いつまでも、教会とか、集落とかで済ませるのもなんでしたし、かといって、レオロ村(ツー)というのもあれなので、そうであれば白銀の守護者の村、白銀の村と呼んではいかがかと」

「しかし、いや」

「それとも、アインツ村でも私は構いませんが、そちらの方がよろしいでしょうか」

「や、それは無しの方向で!」

「では、白銀の村でよろしいですね?」

 

「他の皆さんの意見も聞いておかないと、ねぇ、どうでしょうか」

 うろたえるアインツが辺りを見回す。

「オレっちは賛成っスよ。なんか、自分のパーティ名が付く村なんて、嬉しいじゃないっスか」

 マイキーが同意する。

「儂も構わん。というより、アインツ村の方がよいがな」

 エレーナはお約束のようにアインツをからかう。

「わたしも、誇らしいです」

 クーネルも賛成し、てろてろもうなずく。

 他の面々も、親指を立ててウインクしたり、拍手をしたりで賛同の意を示した。

 

 不承不承、アインツは同意した。

 

 

「では、新たな村の門出として、今日は食糧庫を解放しようかね」

 クエスが早くも酒瓶を持ってきた。

「お、いいっスね~」

「そういう事なら、大歓迎だぜ」

 マイキーがブレンの杯に酒を注ぐ。

 

 ほどなくして、集会場の広場に、村人たちが集まる。

 

 冬の晴れ間、温かい日差しが村を照らす。

 雪解けの季節は、まもなくだった。

 

 スリード王国の南部の穀倉地帯から命からがら逃げてきた村人たちにとって、どうにか衣食住が確保でき、厳しい冬の季節を過ごしてきた今までを思うと、ようやく生きているということを楽しめるようになっていたのである。

 

 酒が振る舞われ、狩りで仕留めた肉を焼き、畑で採れた野菜を食べる。

 早生の麦でパンを作ったのは、この日が初めてだった。

 図らずも、収穫祭の様相も呈していた。

 

 人々は、飲み、食べ、語り、笑った。

 村人の輪の中に、クエスが躍り、アインツを誘う。

 皆がはやしたてて、はにかんだアインツがぎこちないダンスを披露する。

 気が付けば、マイキーが踊りに加わり、クーネルとてろてろも踊りの中に入る。

 

「エレーナはいかないのか」

 クロノスがエレーナに聞く。

「儂はよいのじゃ。あのアホ面を眺めているだけで、笑えてくるからの」

 

 

 宴会の中で、今後の調査方針を村人に伝える。

 

 アインツたちは、白銀の村の南に位置する川を調査することにした。

 川は目印として分かりやすく、川沿いに行けば道に迷わずに行ける。

 川は、西から東に流れていた。

 

 西は未開の土地であり、情報も無いため、周辺の国々の動向を調べることと、装備の増強という点では不適当と判断された。

 そうなると、下流となる東へ向かう事になるが、東は恐らく南部連合の土地に近づくことが予想される。

 

 地図は、マイキーの持っていた魔法の地図を持って行くことにした。

 ただし、ターゲットクオーツは、長老の役割を担うクエスが持つ。

 

 村に何かあったときには、そのターゲットクオーツを目印に合流することにしたのだ。

 もちろん、何もなければターゲットクオーツは動かない。

 そこが、白銀の村の位置ということになる。

 

 南部連合の国に行った時の用心として、今の段階で持てるだけ装備を整えていく事にする。

 おそらく戦時下にあって、連合の各国も緊迫した情勢であることは想像に難くない。

 

 ただ、活気があるということは期待できそうであり、また、そのような時期であれば、外部からの傭兵も多数入ってきているであろうという予測もある。

 できれば、冒険者の宿のようなものを探し、情報を集めたいと思うところである。

 

 

「アインツぅ~~~」

 不穏な声を聴いて、アインツは一瞬戸惑う。

「しまった!」

 クーネルが、今更ながらその事態に気付く。

 

「なんらよ、いつもいつも、あーしのことはほったらかひで~!」

「やばいっ、じゃ、アインツさん、あとはお願いします!」

 クーネルが、エレーナをアインツに押し付ける。

 

「うわ、ちょ……」

(今日はこんなことばっかりだ……)

 

 跳ね飛ばすわけにもいかず、クーネルに押されて飛び掛かってきたエレーナを受け止める。

「だ、大丈夫ですか、エレーナさん……」

 アインツが恐る恐るエレーナの顔色を窺う。

 

「らーいじょーぶらって」

「酒飲みの大丈夫が一番大丈夫じゃないんですよう」

「よし、アインツ、あっち行こう、あっち!」

 エレーナがアインツを引っ張っていこうとする。

「ちょ、そっち行ってどうするんです!?」

「少し話があるのだ。ほれ、耳を貸せ」

「えー、なんですか、もう」

 アインツが耳をエレーナの顔に近づける。

 

 エレーナが囁く。

「お前の村だ、人口を増やす手伝いをしてやる。……子種を寄こせ」

「……」

 アインツは顔を真っ赤にし、口をつぐんでしまう。

 

「なんてな、冗談じゃ」

「は、び、びっくりした……そんなこ」

 エレーナの方に振り向いたアインツの唇に、エレーナの唇が重なった。

 

 永遠とも思える一瞬、2人の時が動きを止めた。

 

「ふっ。酔いが醒めたわ」

 顔を離したエレーナが、呆けているアインツを見て、木の実を乗せた盆に手を伸ばす。

「存外、おぬしもウブよのう」

「……」

「じゃが、酒の上でのこととはいえ、偽りはないぞ。フフッ」

 

 木の実を唇で挟んだまま、エレーナがアインツを見る。

「明日からの旅が楽しみじゃ」

 

 アインツの顔が、さらに赤みを増す。

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