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30騎 新しい村の形

 アインツたちは、拠点となる教会にいる。

 ルミナイトと赤髪のブレンを仲間に加え、全員で95人となった。


 これまでの戦いで亡くなった者たちの鎮魂のため、エレーナが経を唱える。

 教会脇の墓地に、遺品を埋葬し、故人を偲ぶ。

 死者を弔う儀式は、また、生きている者たちの心に区切りをつけるためのものでもあった。

 過去にとらわれてばかりもいられず、未来へ進むためのけじめの一つである。


 

 初めは、教会で寝泊まりする日々が続いたが、それだけの人数をただ押し込めているわけにもいかない。

 狩猟や採取はしているが、備蓄品を含めて在庫が少なくなる。


 仮設ではあるが、住居を造り、田畑を広げる。

 

 教会を中心に、皆が寝泊まりをするための宿舎を造り、また、家族用の小屋を造る。

 小屋は仮設ではあるが、プライバシーを確保できるようにある程度互いに距離を取り、なるべく早い段階で建てるようにした。

 独身者には、集合住宅として大きめの部屋を集め、数人で住まわせるようにもする。


 建築用資材となるものとして、木材であれば近くの森から伐採し、すぐにでも使うことができる。

 

 資材を運んでいる内に、教会と森林までの道が整備される。

 ところどころには休憩ができるように日よけが設けられ、数キロの道のりも、多少は楽に行き来できるようになった。

 

 荷車や馬車といった道具も揃えられ、道が整備されることで、運搬に使われるようになる。

 荷車が通ることで、道が固められ、轍もできる。

 

 森の入り口には、材木の一時置き場が作られ、簡易的な支度小屋もできた。

 こうした作業の積み重ねで、効率よく仕事ができるようになる。

 

 

 木を切るための斧や、荷車を作るときの釘などは、レオロ村で鍛冶職人として包丁や農機具を作っていたムルガが中心となって作っていた。

 そして、道具を揃え、村人たちに使ってもらうことで、さらに効率が上がる。

 

 

 鍛冶に使う炉は、レンガ職人のビスチェが指揮を執った。

 

 ビスチェは、教会の近くの土を集めて塗り固めた窯を造る。

 その窯は炭焼きにも使えたが、土窯でレンガを焼成して、そのレンガを積み上げ、さらに高熱に耐えられるレンガ造りの窯を造る。

 レンガ造りの窯からは、さらに硬質のレンガが作れる。

 

 これを建築材として使用するのである。

 

 幸い、森林が近くにあるという事もあり、窯に入れる薪には困らなかった。

 

 また、炭も作れるようになったおかげで、夜の明かりや暖を取るのにも困らなくなった。

 季節が冬に向かうところで、この点は大きかった。

 

 

 さらには、外敵からの侵攻も考慮し、柵を作り、その中に家屋を置くようにした。

 その柵も、初めは木の杭を打ち付け、それにロープを渡したものだったが、木材の供給を経て、2メートル程度の木の板を柵として立て、外壁と呼べる程度の物を作っていった。

 

「よーし、その壁を少し外に拡張させるぞー。一度抜いた板は、後で使うからな」

 外壁の工事を仕切るのは、レオロ村のブエナだった。

 ブエナは、林業と木材加工で生計を立てていたが、その木の特徴や加工技術の知識と経験を活かし、外壁工事の担当となっている。

 

 木の外壁も、連動性と拡張性を考慮したものだ。

 ある程度防御力は犠牲になるものの、拠点を拡張するにあたり、比較的容易に配置を変えることができた。

 そのため、家屋の建築に合わせて、外壁の移動もできるようになっていた。

 

 それなりに区画整理ができたところには、レンガ造りの壁を設置するように計画している。

 建物もレンガ造りにすることで、建物自体も防御壁とすることができ、耐火性にも優れるからだ。

 また、区画整理といっても、レンガで造られた街並みは、迷路のようにする。

 その場合、目抜き通りは整備するものの、ところどころにアーチを設け、頑丈な石扉が閉まるように考えられていた。

 

 

 これらの壁の外には、畑を広げる。

 

 気候としては、それ程乾燥することも無いため、貯水池を作っておけば、雨が降ったときにある程度の水は確保できる。

 それに水路を広げて、畑に水を送るようにする。

 

 もともとレオロ村周辺は、水回りに恵まれた耕作地帯であり、穀倉地帯としてスリード王国の食糧事情を支えていた。

 教会近辺も、気候的には同じようなものであったため、今までの耕作方法と同じような作業が可能であった。

 

「アインツ君、これを使ってくれたまえ」

 クエスがアインツに袋を渡す。

「これはなんです?」

 アインツは袋の中を見る。

 そこには、小さな粒がたくさん入っていた。

「それは野菜の種だよ、アインツ君」

 

 避難するときに持ち出した種が、ここで役に立ったのだ。

 

 まずは生きるため、狩猟や採取によって得られた、獣や木の実、魚などに食料を求めた。

 その上で、中長期的視野をもって、耕作にあたる重要性については、クエスが村人に伝えたものであった。

 

 狩猟などに比べ、農作物は、収穫時期を調整し保存を考慮すれば、安定した供給が可能となる。

 

 村人たちにすれば、当然自分の村に戻ることが望みであったが、それが何年先になるか皆目見当がつかない。

 1年に満たない期間であれば、収穫までは気にせずともよい。何とか食つなぐことはできるだろうから。

 ただ、いつまで、どれくらいかかるか判らない状況においては、未来を見据えた収穫も検討すべきである、と。

 たとえそれが無駄になったとしても、それは村に戻れるということであるわけで、すなわち喜ばしいことであるから。

 村人たちも、何もせずただ日々を過ごすのではなく、作物を育てるということで、未来を見据えて生きて行こうとしたのだった。

 

 とはいえ、1年近くもかかる長期的な収穫を期待するわけにもいかないため、短期的に収穫可能な作物として、葉物の野菜を中心に育てることになる。

 並行して、少しではあるが、早めに成長する麦なども植えてみた。

 その他には多少収穫期間は長くなるが、イモ類を育てることにする。

 畑には周囲を木の杭とロープで囲い、鳴子を付けることで、イノシシなどの動物から守れるようにする。

 

 

 周りの草原に自生している草を、レオロ村から一緒に連れてきた牛や羊たちにませる。

 ある程度の量を刈り取って乾燥させたものを持ち帰り、倉庫にその干し草を入れ、冬に備える。

 動物たちの小屋も作られ、牛や羊もそこで寝泊まりできるようになった。

 鶏小屋もにぎやかとなり、3羽だがヒヨコも生まれていた。



 今のところ水には困っていないが、南に流れる川を利用しようという思いはあった。

 南の川までは数キロあるため、引き込むほどの用水路は今のところ作れないが、ゆくゆくは川を利用した耕作地帯にできる可能性はあるし、今でも魚を獲ったりすることはできる。

 

 川までは、そうして魚を獲ったり水辺の食べられる草を採ったりする人たちの足跡が、自然と道になっていた。

 そこでアインツたちは、川べりにも簡単な小屋を作り、道具を置いたり、魚を捕まえる際の休憩所にした。

 

「てろてろさん、手伝います」

 村の女性たちがてろてろの作業を見て、声をかける。

 てろてろが木の皮などから籠や網を作り、教会の近くに自生していた綿を紡いで、糸を作ったりしていた。

 

 木の皮や蔓の皮などを煮て繊維を取り出し、それを糸として使うのである。

 機織りの機械は無かったが、木の棒をうまく編み棒にして、手編みで布を作っていた。


 植物の繊維で作られた布は、上質とは言えないまでも、あると便利であり、様々な用途に使えた。

 手編みの技術も含め、これらは村の女性たちにも教え、道具を作るのに役立たせた。

 そうして作った籠などで、魚を獲ったりしたものだ。


 

 これらと並行して、女性も子供も老人も、武器を持つことができる者には、軍事教練を行う事とした。

 万が一、外敵からの侵攻があった場合に、兵士として戦う事は無理としても、己の身を守るだけの力はつけさせたいという思いがアインツたちにはある。


「少しでも自分の身を守ることができれば、生き残る確率が上がる。強くなれば、他の者を守ることができる」

 ルミナイトとブレンが、仕事の合間に教官役として村人たちに武器の使い方を教える。

 武器といっても、木の槍や竹槍などがほとんどであり、金属製の武器は用意すること自体が難しい。

 

 今後、鉄鉱石でも採掘できれば供給も可能ではあったが、今の鍛冶の炉では、打ち直す程度がせいぜいであり、そもそも資源となるものが近くにはなかった。

 これら鉱石の探索も、今後の課題となるかもしれない。


「足手まといが1人でも減れば、それだけ全員の勝つ確率が高くなるというものだぞ!」

 口の悪いブレンが、叱咤激励する。

 それに応えるかのように、村人たちが武器を振るう。

 

 

 全員で拠点を作り、全員で守る。

 自衛のための、生き抜くコミュニティーが、ここに生まれたのだった。

 

 

 季節が巡る。

 

 

「長老さま、畑で採れた野菜です。どうか食べてください」

 村人が、クエスに野菜を満載にした籠を持ってくる。

「こんなに!? すごい量だな。こんなにもらっては、おまえさんたちの食べる分が」

「いえいえ、そんな気にされることはありませんよ。この土地に来てからというもの、マイキー様やクロノス様から教わった方法で育てていれば、虫は付かねぇし病気もしねぇ、出来のいい野菜がいっぱい採れるんですよー」

 村人が、さも嬉しそうにクエスへ喜びの声を伝える。

 

 マイキーやクロノスは、薪から炭を作る際に、木酢液も作っていた。

 炭を作るときの煙を集めて冷やしただけのものであるが、この木酢液を薄めて農作物にかければ、防虫や作物の病気予防に効果がある。

 耕作や農薬の概念を取り入れることで、収穫量を格段に増やすことができるのだ。

 

 クエスは転生者であるため、地上世界ガイアの知識は持ち合わせていない。

 あくまで、マキナがアビスクロニクル上でプレイした記憶のみがコピーされているに過ぎない。

 そういう点では、産業革命後の現代知識を有するアインツたちと比べると、レオロ村の人々と同じ知識レベルだといえた。

 

「そうか、こんな効果があるとは。うん、ありがたく頂くことにするよ」

 クエスは、にこやかに笑う村人たちに応えるが、その笑顔にはアインツとの存在の壁を感じた影が宿っていた。

 

 ともかく、何事も無く春が来てくれることをクエスは祈った。

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