7騎 帰るところ
草原の中、5人が歩く。
日は高いがそれ程暑くはなく、ハイキングであれば、十分行楽に適していると言える。
空は晴れわたり、雲も所々に漂う程度。
涼しげな風が、草木をなびかせる。
しかし、歩く5人の面持ちは、誤っても明るいとは言えなかった。
歩きながら検証したこともある。
能力、スキルの使い方だ。
アイテムボックスやチャットなど、仮想画面のメニューから選択するような機能は、やり方が解らないため実行できない。
サーチの能力もありそうだが、どうやって発動するのか、そして結果をどう出力するのかが皆目見当がつかないのだ。
そのためか、イメージが湧かず、今まで成功したことはなかった。
それに比べ、直接作用する能力や、イメージしやすい能力は使うことができた。
レンジャーであるマイキーの能力、遠景視覚や遠音聴覚、気配感知などは、その効果が認められた。
マイキーの視力は、裸眼で0.7。
運転免許証には、ぎりぎり眼鏡等の制限はない程度だが、この能力のせいか、目を凝らすと遠く1キロ先にいるコヨーテがはっきりと見えた。
これは、アビスクロニクルプレイ時の動作と、発動の仕方も効果も同じであった。
(広いフィールドでは、マイキーのレンジャースキルが使えることは、なによりだったかな)
アインツは、そんな目を細めて辺りを見回しながら歩くマイキーの姿を見て、思った。
(ほんと、黙って真剣な顔をしていたら、イケメンなんだけどなぁ)
マイク・マイキー。
レンジャーを担当。
身長は、179センチ。体重60キロで若干細身だが、それなりに筋肉質である。
地上では、地元のゲームセンターの店員をやっているとか。
少し日に焼けた肌。
軽くブリーチを入れた茶髪は、肩までかかっていた。
右耳には、ピアスが二つ。
このピアスは、アビスクロニクルで手に入れたマジックアイテムらしい。
笑うと覗く左上の八重歯が、元カノにカワイイと言われたとか。
(あれ、元々カノだっけか? まぁいいや)
手先の器用さには、何度かアインツも助けられている。
基本的に人がいいマイキーは、敢えておどけているように見せているのか、そのちゃらんぽらんさが素になったのか、今となってはアインツでも判らないが、やるときはやってくれる点で、信頼は厚かった。
マイキーの後ろにつくのは、エレーナ。
キャラクター名は、エレーナ・ぽんぽこ。
ブツという宗教の、オショウという階級らしい。
アビスクロニクル内では、ヒーラーを担当している。
151センチ、43キロ。
背は低いが、バストは驚きの84らしい。
初めて聞いた時は、思わずアインツもガン見してしまった程である。
アインツは、何とはなしに、暗闇の中で鷲掴んでしまった左手を見てしまう。
金髪ストレートのロングは、腰まで届く長さ。それをポニーテールにまとめている。
目鼻立ちがしっかりしているが、子供っぽさも残すその面持ちに、知性を感じさせるハシバミ色の瞳が印象的だ。
地上では、北欧の出身で、両親の都合でこの国にやってきたと言っていた。
その出身地のせいか、肌は透き通るような白さ。
だが、本人曰く、魚肉ソーセージ色だとか。
そこからも解るように、見た目超ハイスペックながら、性格がとても痛い。
語尾には、何々じゃ、と老人語を使うし、発言の内容もひねくれている。
金髪ロングロリ巨乳美少女なのに、だ。
マイキーが残念なイケメン、残メンだとすれば、エレーナは痛いヒロイン、痛インと言ってもいい。
パーティの、惜しい双璧だ。
そのエレーナの隣を歩くのが、今回体験でゲストプレイヤーとなった、てろてろ。
役割りとしては、戦士で、アビスクロニクルではレベル2になったところだった。
クーネルの仕事関係のつながりらしいが、以前、クーネルが自分の仕事が広告代理店と言っていたから、その関連なのだろう。
身長は153センチ。
体重は、エレーナより重たそうだ。
だいぶしっかりしている。
髪は茶色で軽くウェーブがかかっているセミロング。
ゆるふわなところは、女子力が高そうだ。当然、エレーナはその点置いてけぼりだ。
整った顔立ちで、隣のお姉さんアイドルでも遜色ない、美人といってもいいレベルの容姿だ。
ただ、二の腕のぽたぽた具合が気になると、エレーナとの会話を、アインツは聞くとはなしに聞いてしまった。
(フィットネスの看板効果か……)
てろてろを見ていると、アインツは何とも言えない複雑な気持ちになる。
(とんだフィットネスになっちゃったもんなぁ)
運が悪いと言ったら、そうだと思わなくもない。
まさかこんな事態になるなんて、誰も思ってもみなかったのだから。
その連れてきたクーネルが、アインツの視界に入る。
クーネルとてろてろが、何か談笑をしている。
(エレーナさん程じゃないにしても、クーネルさんとも長い付き合いになっちゃったなぁ)
クーネル。
キャラ名は、クーネル・アン・ソヴリュ。魔法使い。
今年新卒で就職したばかり。
その時は、アインツらパーティのメンバーで、盛大に就職祝いをしたものだった。
光の加減で茶色く見える程度の黒髪。
繊細な髪質は、ぽわぽわで、女子ウケしそうだ。
少し垂れ目で、左目の下に泣きぼくろがある。
子犬みたいな上目遣いでウルっとされたら、女子ウケしそうだ。
腰は低いが、卑屈ではない。
自信を持った物言いもするし、判断力もある。
芯のある所は、女子ウケしそうだ。
魔法使いという知力勝負のポジションでも、戦場の要所要所を抑え、的確に魔法を展開していく視野の広さは十分に生かされている。
そんな益体も無いことを考えてしまうアインツであった。
アインツ・ヴァイ・ドライ。
クラスは聖騎士。
白銀の守護者、三代目リーダー。
176センチ、75キロ。
アインツの黒髪は、少し癖がある。
肩くらいまで伸びると、毛先が跳ねてしまう。
学生時代には、寝癖直しに1時間かかった記録もある。
容姿は住人並みの器量で、集団にいると埋もれてしまう程度の、あまり目立たない顔立ち。
学生ベンチャーを友人らと立ち上げ、出資者であり、取締役でもある。
聖騎士や、国王イベントをこなすのは、マネージメント能力を高めるためもある。
はぁ、と、ため息を漏らすアインツ。
(いけない、いけない。まだまだ安全でもなければ、セーフティエリアの教会も見えてこないっていうのに)
本当は、どれだけ命が危険にさらされているか解らないというのに、単調な歩くという動作の連続が、緊張感を薄めてしまっていた。
「アインツさん、考えていたんですが」
クーネルが、アインツに尋ねる。
アインツの意識が、夢想の世界から現実の世界に引き戻される。
「エンカウントモンスターとイベントモンスターの扱いについてなんですけど」
「あ、はい」
「エンカウントモンスターは、倒したら消えて、死体は残りませんよね」
「そうですね。映像なので、ブロック状になって、散っていくエフェクトがかかって、うっすらと消えていきます」
「イベントモンスターや、シナリオ上重要なNPCは、死んでも死体が残ります」
「残りますね。でないと、モンスター討伐イベントの証拠や、殺人事件イベントの現場で被害者の様子などが、判らなくなってしまいますから」
「そうなんです。そこでなんですけど、さっきのゴブリンたち、あれって、エンカウントモンスターだったんでしょうか」
「クーネルさんが言いたいことは判ります。ゴブリンがイベントモンスターで、倒しても消えない、重要な役割りがあったのではないか、ということですね」
「そうでなんですよ。もし、もともと消えない設定のモンスターだとしたら」
「死体が残っていても、不思議ではない」
「はい」
「アビスクロニクルは、続いている、と」
「ええ」
「これは悪魔的思考ではあるのですが」
「なんですか、アインツさん」
「これを確認するには、なんらかの命のやりとりが生じる、ということです」
「死体が消える消えないを検証するには、まず、死体を作らなければならいからです」
「!!」
「たとえエンカウントの小動物だとしても、リスポーン可能なNPCだとしても、それを証明するには、一度殺す必要があります」
「しかも、世界のルールが現実と同じだった場合、死んだら生き返らない場合、失敗イコール殺害者ということになります」
「私は、己の考えの正しさを確かめるための賭けに、たとえ小動物であっても、その命を供したくありません」
「今までの経験則から言って、あの場のゴブリンは、私たちから見れば、エンカウントモンスター扱いになると思います」
「イベントらしいつながりが見えていませんし、あったとしても、シナリオを組み立てる側の意図として、死体を消さない事に対するアプローチが足りない気がするので、イベントモンスターではないと」
「ただ、ここが現実の世界だとすれば、ゴブリンもデータが生み出し、消えるものではなくて、親がいて生まれてきたものであるはずです」
「エンカウントや、モブ、その他大勢などというのは、存在しえない事になります」
「逆に言えば、それだけ命の重要さが増した、とも言えるんじゃないですかね」
「答えは、出そうもないですね」
「ですね。でも、答えが出ないなりに、あの戦闘を経て、出来たらどんな命も、大切にしていきたいと思いましたよ」
「んー、なんだかよく解らないまま、はぐらかされちゃった?」
「そんな事ないですよ。いろいろ考えるきっかけになりましたし」
「ご立派な考えじゃの、聖騎士様は」
アインツとクーネルの会話に、いつからか隣にいたエレーナが割り込む。
「エレーナさん、そんなんじゃないですよ」
「怪物や魔族とも、命のやりとりはせぬという事かの?」
「できる事なら。でも、私も根は俗人ですから、知らない他人より、仲間の命を優先するでしょうね」
「だから、モンスターが襲ってきたら、仲間を守るために戦いますよ」
「ハハッ、十分高邁な志じゃよ」
「ご歓談中悪いンすけど」
「マイキーさん、すいません、どうですか」
「予定通り、と言えば予定通りなンすかね」
「2キロ先くらいに、あるっスよ」
アインツたちが目を凝らすが、ただ草原が広がるだけであった。
一息入れて、マイキーが呟く。
「教会」
そのマイキーの一言には、安堵というよりも深刻さを感じさせた。




