戦いを終えて
夏先輩……。夏先輩がやられてしまった。あてなはゴミ箱の裏から状況を察した。夏先輩の気?のようなものを感じない。
デパイズで確認すると思った通り夏先輩のライフゲージがゼロになってしまっている。
再びやってくる敵のスナイパー弾。ゴミ箱から移動しなきゃ……。あてなは地面にうつ伏せになり両手を使って匍匐前進のような姿勢をとる。ゴミ箱の周りは茂みになっており、その奥は外周フェンスが囲んでいる。
芋虫の様な格好で茂みの中を移動する。あてなは背がギリギリに隠れるくらいの茂みの中から体育館を眺めてみた。
相手のスナイパーが屋上の回り階段から降りてくるのが見えた。(メイちゃんが来るまでに最後の一人である私を消すつもりなんだ。)敵のスナイパーは途中で、アサルトライフルを持った仲間と合流して運動場を横切ってくる。その先はゴミ箱のある外周フェンスだ。
(はやく逃げなきゃ)あてなは外周フェンス沿いに茂みをはいながら進む。少し振り返るとゴミ箱の裏に敵のアサルトライフルが回り込んで来るのが見えた。スナイパーはその後ろに回ってデバイスを操作していた。アサルトライフルが外周フェンス沿いにあてなを追う。(ゴミ箱にいた事はもうバレてる……きっと二手に分かれて左右からフェンスを回るつもりなんだ)
「近くにいるぞ!」
あてなの20メートルほど後ろをアサルトライフルが追跡してくる声が聞こえる。そしてあてなは急いでフェンス沿いにあるベンチの裏に隠れた。
「どこだ。」
ベンチの裏に匍匐前進のまま入り込むあてな。敵の足がすぐ横にある。怖い……。もし見つかったら。そう思うとあてなの鼓動が爆速で響いている。足が通り過ぎた。今行けば背後を取れるかも!あてなは咄嗟にそう考えた。いく?怖いよ……。もし負けたら……。あてなの鼓動がますますはやくなる。(でも私デンサバやりたい!)こんなチャンスもうないかも知れない。あてなは、そっとベンチから体を出すタイミングを伺う。5秒……10秒……20秒くらいが経過した。
「今だ!」
迷いを捨ててベンチから抜け出すと前方に向かって銃を構えながら立ち上がる。
「いっけー」
巨大なエネルギー弾を溜め込みながら約10メートルほど前にいる敵に走りながら銃を放った!
銃弾は敵の背中に見事命中し、爆発エフェクトが発生した。あてなはエキドナちゃんに力を込める。エフェクトの中からゼロになった敵のライフバーが表示されているのを確認するあてな。
「倒した?やったぁー」
両手をあげてバンザイするあてな。(私、初めて倒したんだ!)
だがそのあてなをスナイパーライフルを持った最後の敵が狙っていた。
しまった。あてなは気づいて身を反転させる。最後の一人は無防備なあてなにライフルを構えていた。
(やばい!)
「くひゅひゅ……もらったでしゅ」
敵はゆっくりと銃口に手を掛けた。
次の瞬間銃声が発生して最後に残っていた敵の体がぐらつく。
目を瞑っていたあてなが恐る恐るあたりを確認してみる。
ライフバーがゼロの状態で倒れ込んだ敵から少し離れた場所に一人の少女が立っていた。
長い黒髪……。切れ長の瞳。メイちゃんだ!
「メイちゃーん」
抱きつくあてな。メイの胸に顔を埋める。
「んっあてな。やめなさいっ」
「怖かったよぅ。」
あてなの目から涙が溢れ出てしまう。メイの胸の中で溢れていた想いが溢れ出してしまった。
(負けたらデンサバ部できなくなっちゃうんだよ。危なかったんだよ!)
「もう……あてな……」
なおも泣きつくあてな。メイはそんなあてなの頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい……」
そう言って顔を背けたメイの横顔は隠れてしまい、あてなからは見ることが出来なかった。
◇
その日の夕方はあてな達四人は部室に集合するなり、先程の試合について盛り上がった。
「でよーそこであてなが敵を片付けた時は痺れたぜ。ぶちょーは即刻退散したけどな」
「もう!振り返らないで夏。恥ずかしい……」
「まあまあ。でもやっぱり最後はメイとあてなだよなー。かっこよかったぜ。」
「はい!ありがとうございますっ夏先輩!」
あてなは勢いよく返事した。
「にしてもあの後のくらげ姫の最後、傑作だったぜ」
あてなは試合後のクララの様子を思い浮かべた。
「わっ私が負けたなんてー覚えてなさい!今回だけ認めてあげるけど、メイ様の事諦めたわけじゃないから!」
肩をプルプル振るわせていたくらら。取り巻き達が宥めようとすると「しもべは黙って!」とかなり怒りモードだった。(あの人達なんで怒られてるのに嬉しそうなんだろ)あてなは遠い目をしながら思った。
「それでメイちゃんを襲った人物だけど、堕天高校と名乗っていたのね。」
さくらは急に表情を強張らせ、
「堕天って?」
あてなはさくらに聞いた。
「あてなちゃん……堕天知らないの?」
「えへへ。私選手しか知らなくて」
「堕天高校……ここ十年で全国優勝三度、準優勝二度を誇る全国屈指の名門よ。ちなみに夢見ヶ丘地区にあるから夏のアームズ杯は堕天を倒さなきゃうちは出れないわ。」
さくら先輩の説明にみんなの表情が固まる。特にメイちゃんは集中していないように見える。あてなはすうっと息をはく。(なんでだろう。ワクワクしてきた。)
「倒したい!そんなに強いなら私たちで堕天に勝ちたい!」
一瞬静まる部室。
「いいじゃねーか。せっかく部活再開したんだ。目標はデカくないとな。」
夏先輩もあてなに同調した。
「そうだよね!メイちゃん」
「……」
メイはおでこに右手をつけて目を瞑っていた。
「メイちゃーんもしもーし」
「ああっもうっ分かったわよ!」
こうして今日の部活は解散になった。
部活が終わりそれぞれが家路に向かう。さくら部長と夏先輩は用事があるらしくて、あてなとメイは二人で下校していた。
夢ヶ丘市を囲む山と遠くに見える湖(千龍湖と呼ばれる)の間から夕陽がこぼれ落ちていた。
隣にいるメイちゃんは黙ってしまっている。
「めいちゃーん」
あてなは何か話しかけなければと、とりあえず名前をよんでみた。
「メイちゃん?」
メイちゃんは相変わらずあてなの方を見ずに一言だけ
「あてな。ありがとう」
とだけ呟いた。
「めいちゃーん!」
あてなはその胸に飛びつく。メイちゃん可愛い!
「ちょっばっかじゃないっもう!」
メイは身を捩らせながら悲鳴を上げる。でもメイは笑っていた。あてなはなぜだかとても温かい気持ちが胸のそこから溢れ出ているのを実感した。
「あてな……」
メイは不意に切り出した。
「ん?何メイちゃん」
「あてなは、デンサバ楽しい?」
メイは目を合わせずにそう呟いた。
あてなは両手を胸に当てる仕草をしながらメイの質問に真っ直ぐ答える。
「うん!楽しい!正直怖いこともたくさんあるし、厳しそうなこともあるけど……」
更に両手を空に向け天に広げるポーズをとりながら、
「でも!もっともっともっと強くなりたい!もっともっとワクワクしたいっ」
とびっきりの笑顔でそう答える。
「……そう」
メイちゃんは節目がちにそう言って少しだけ笑ったように見えた。




