第11話 入学式
「太陽の生まれ変わりを皆と共に祝いましょう! この空落ちる日が明日であろうとも、我らは民と共に誇り高く生きましょう!」
女王陛下の新年の挨拶に、そこに居た大人たち、生徒たち皆が拳を振り上げて応えると、講堂と呼ばれる広い部屋は拍手に包まれる。その講堂の奥、中二階の階段の広い踊り場には、女王陛下と、護衛の騎士、侍女、それから長衣の人が何人か。その中に、さっきの黒い長衣の女の人も居た。
「――魔術学院の生徒たちは王国の宝です! そこに加わる新入生の諸君! 君たちは古王国より連綿と受け継がれてきた知識と、その過去の記憶を継いだ神々の祝福によって、ここで魔術の知識を学習することとなります。それらはまず自らのため、そして民のため、国のために活かしてくれることと我々は信じます」
私たち、新入生が並ぶ列に、女王陛下がお声を掛けてくださった。
国王陛下はその後も、生徒や大人たちに労いと祝福の言葉をかけてくださると、あの黒い長衣の女の人にその場を譲った。
「学院長のエスラです。この王立魔術学院は、皆様もご存じの通り、アンリット・ラシス・フォル・ドバル様が提案され、設立に多大なる寄与をされた学院です」
エスラ学院長は、先ほどの厳しい様子ではなく、優しい声と穏やかな表情で語りかけてきた。
「――アンリット様は、貴族、平民を問わず、国へ貢献したい者を求めておられました。――よいですか、皆さん。貴族とは、自らを犠牲にして民のために戦う者を言うのです。お互いの身分に囚われず、研鑽に励みましょう」
女王陛下が拍手を送ると、講堂の皆も続いた。けれど――
「(学院長は相変わらずだな。自分が平民出身だからと、貴族を蔑ろにしおって)」
「(地下迷宮の英雄とはいいますが、どこまで本当の話か)」
近くの大人たちから、そんな声が囁かれたのを聞いた。
それから私たち新入生には、女王陛下から直々に魔術学院の青い外套を頂き、金色の紐を結んでいただいた。お母さまと同じ外套だった。
「ありがとうございます」
「…………ええ。頑張りなさい」
どうしてか、女王陛下は紐を結ぶ手を止め、ほんの少しだけ言葉を失くされていた。赤い髪の女王陛下は、とても若くて凛々しいお方だった。
◇◇◇◇◇
「栄えある王立魔術学院、第11期生の諸君! 7回生のオブリージア・ベルンだ。生徒の自治と、寮での生活を支援・監督する生徒会の会長を務めさせてもらっている。新入生の皆は、わからないことがあれば我々、生徒会に何でも聞いてくれたまえ」
背の高い、美しく手入れされた栗色の髪の女子生徒が、新入生の私たちの前で告げた。
その傍には同じように背の高い、男子生徒が3人並んでる。
「(オブリージア様、素敵ですね)」
「(ええ、その上、剣の腕も魔術の腕も確かとか)」
近くに居た新入生が小さな声で話してた。
聞こえていたのかオブリージアさんはニコリと彼女らの方に微笑むと、新入生たちは姿勢を正していた。
「これより君たちを学院寮へと案内する。女子29名は私が女子寮へ。男子47名は彼らが男子寮へ。お互い、異性は寮へ入れない決まりだ。ただ、これは学内の規律を正してもらうことが目的で、男女の交際を禁じているわけではない。将来の伴侶を見つけ、新たな家同士の繋がりを作るのもまた、君たちの役目だ」
周りの新入生はみんな、不安そうにお互いを見る。私も、男の子との交際は考えた事が無い。意地悪だった従兄のことを考えると、男の子はあまり好きじゃなかった。
「――君たちの齢で考えるものでもないかもしれない。が、これは皆も知っての通り、地母神様の御意向でもあり、また、女王陛下が仕える純愛の女神様の御意向でもあるのだ。学業も、恋も、悔いのないように過ごしたまえ」
純愛の女神様――という神様は聞いたことが無かった。地母神様と、戦神である主神様の他は、小さな古い神様ばかり。でも、女王陛下が仕えておられるなら、きっと名のある神様なのだろう。
「――そしてもうひとつ。――ロゼリア君、前へ出たまえ」
オブリージアさんに呼ばれ、女の子がひとり、前に出て新入生の方へと振り返る。
「――君たち11期生には誇らしいことだろう。彼女、ロゼリア・レンネブルク君は、王国が探し求めていた知の化身、アンリット様の生まれ変わりなのだ!」
ニコリと微笑んだロゼリアという女の子は、真っすぐで長い黒髪に、赤い瞳をしていた。




