【第1章 第14話:父ロジオンの決断】
「王都より通達――“澪=クローデル嬢を、記録の安定化のため封印すべし”」
その命令文が、クローデル家当主ロジオンのもとに正式に届いた瞬間、
屋敷の空気は静かに張り詰めた。
ロジオンはそれを一読するなり、火の灯る燭台に向かって、
一言も発さずに燃やした。
言葉は不要だった。
それは――戦争の火種に火を点ける行為と、等しかった。
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夜。
執務室には、忠臣たちが並んでいた。
筆頭執事、兵頭、魔導技師、警備長、家令。
彼らは皆、“当主の言葉”を待っていた。
ロジオンは窓の外を見ながら、静かに言う。
「……王と神は、我が娘を定義したいそうだ」
誰も、口を挟まなかった。
「では、こちらは“世界の定義”を塗り替える準備を始めるとしよう」
その瞬間、部屋にいた全員が、無言で頭を垂れた。
命令ではなかった。
誓約だった。
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ロジオンの命で、クローデル家全域に緊急命令が発令された。
・屋敷全域に【結界符】を貼り巡らせ、外部魔術の侵入を遮断
・魔導兵装の整備・拡充
・王家と聖銀財団に仕える“内通者”の粛清
・封印部隊の進軍経路の断絶、偽情報の流布
・赫刃に反応しない“無定義領域”の形成
すべてが即座に動き出す。
クローデル家はただの貴族ではなかった。
かつて王国建国以前から続く、“魔導と軍事の双剣”と称された戦闘貴族。
本気になれば、国家単位の軍勢すら喰い止める“私兵国家”に等しい。
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その中心にいるのが、澪ではなかった。
――ロジオンだった。
彼は、王国にも教会にも従っていなかった。
従っていたのは、ただ一つ。
「我が娘の自由」
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深夜。
ロジオンは、澪の部屋を訪れる。
娘は目を開けたまま、眠っていた。
その横には、赫刃。
「……目を開けて寝るな。死んだと勘違いされるぞ」
「……うん。でも、死んだふりって案外、落ち着く」
ロジオンは、ふっと笑った。
「お前は、誰よりも“生きている”。
ただ、世界が“お前に生きてほしくない”だけだ」
「じゃあ、お父さまは?」
「私は――“生きようとする者の邪魔をするものすべて”を殺す。
それが父親の役目だ」
その言葉に、澪の瞳が微かに揺れた。
それは、嬉しいでも、悲しいでもない。
ただ、温度を伴った記録として、心に刻まれた。
「ありがと」
その一言で、ロジオンは立ち去った。
背を向けたまま、娘に言う。
「三日後、封印部隊が来る。
“選べ”とは言わない。
“選んだ結果に、私は従う”」
それは、彼なりの誓いだった。
父として、クローデル家当主として。
そして、世界に“喧嘩を売る者”として。
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夜の空に、雲が厚く広がっていた。
けれど澪の胸元では、赫刃が静かに、だが確かに、脈動を繰り返していた。
(……斬る理由、そろそろ揃ってきたね)
そう呟いた澪の声に、赫刃が共鳴する。
「ならば、あと一つ。斬るための“名”を刻め」
彼女の中に、何かが満ちていく。
――言葉にならない憤り。
――形にならない愛しさ。
――名付けられない苦しみ。
それら全てを、澪は“斬るべき価値”として抱きはじめていた。




